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再発・残存精索静脈瘤に関する系統的レビュー

"Treatment of Persistent or Recurrent Varicoceles: A Systematic Review"

European Urology Focus, 2022

仕事でバタバタしてて更新間隔が空いてしまいました。今回は精索静脈瘤残存・再発に対する治療についての系統的レビューです。ジャーナルはEuropean UrologyのファミリージャーナルのFocusとなります。
我々の施設でも、年間100件以上の精索静脈瘤手術(顕微鏡下低位結紮術)を行っていますが、うち1例ほど再発症例を認めます。このような症例に対し、どうマネジメントしていくか、について網羅的文献検索を行い、対象論文を抽出・スクリーニングした研究結果を検討(メタ解析を伴わない)した論文となります。

はじめに

静脈瘤の再発・残存の定義は?
・術後初回のフォローアップで静脈瘤を示唆する所見がある場合は残存
・術後の経過観察中に静脈瘤が消失し、再度出現した場合は再発

再発の原因は?
・初回の治療で結紮されなかった精巣静脈の分岐の残存であると考えられます。

精索静脈瘤残存・再発の原因妊孕性アウトカム症状の改善合併症の発生率再手術後の静脈瘤残存・再発の有無についてのエビデンスを要約することを目的としています。

エビデンスの集約

文献検索
・静脈瘤残存・再発に対する治療についてはRCTなし、前向き・後ろ向きコホート研究・ケースシリーズ研究
・PRISMA声明に基づき系統的レビューを実施
・information sourceはPubMed、EMBASE、WoS、Scopus
・検索キーワードは
"redo-varicocele*", "infertil*", "varicocelectomy", "radiological method", "pregnancy", "recurrence*", "persisten*", "complication", "semen", "sperm"

包含基準・除外基準
・あらゆるグレードの静脈瘤残存・再発の治療に関するすべての研究が包含
・データが不完全な研究は除外

バイアスリスク評価
・Newcastle Ottawa Scale(NOS)
・個々の研究の異質性が強く定量的統合困難、定性的統合のみ

エビデンスの統合

913件の論文のうち、包含基準により適格とされたのは18件、1074名の患者

対象となる18研究は以下のとおり。
最も古い研究は1983年、最新は2021年。

RoBはいずれも高リスクでありました↓
ちなみにNOSは観察研究のRoB評価のツールで、おもに代表性・曝露評価4項目、交絡評価2項目、アウトカム評価3項目の計9項目からなります。

  • 再治療時の平均年齢26.3歳

  • 初回治療から再治療までの平均期間は24.1ヶ月

  • 再発・残存のlateralityは506/753人(67.2%)が左側、240/753人(31.9%)が両側

  • 初回治療の543/917例(63.9%)が低位結紮術、237/917例(27.9%)が高位結紮術

  • 68/917例(7.4%)が初回治療にIVR、そのうち57例が再発・残存時にさらにIVR、11例が外科的治療へ

  • 外科手術を受けた849/917例(92.6%)のうち657/849例(77.8%)が再発・残存時に再度手術を、187/849例(22.2%)でIVRを受けた

個々の研究の内容は割愛しますが、昔の研究は塞栓術が多く、最近は再手術(低位結紮)を行う傾向があるようです。Flatiらは精巣上体静脈と精巣静脈のシャントドレナージを施行(!?)したようですが、成績は他の治療とあまり変わらなかったようです。

治療の成功率・合併症発生率

  • 再治療後に精索静脈瘤の残存・再発が消失した割合は60〜100%

  • 合併症は陰嚢水腫(0〜16%)精巣萎縮(0〜5.2%)陰嚢内血腫(0〜1.6%)創部感染(0〜6.6%)慢性疼痛(0〜2.9%)など。

  • また塞栓術の場合、血栓性静脈炎5.8%で報告されています。

精索静脈瘤残存・再発の原因

  • 結紮部位を迂回する側副静脈の存在

  • 結紮部位の下方(足側)から発生し直接腎静脈やIVC、内腸骨静脈に合流する静脈

  • その他は精巣挙筋外陰部静脈(EP)や精巣導帯静脈が再発原因

P.Vanlangenhoveらの図より。側副血行路めちゃくちゃ勉強になります

アウトカム

  • 観察期間12ヶ月で妊娠率17〜58%(6/18研究)

  • 8研究中7研究で精液所見のパラメータ改善、1研究では有意な改善なし

  • 2研究中1研究で血中総テストステロン改善

  • 3研究で陰嚢痛の追跡をおこなっており、症状消失は90%

主な知見のまとめ

  • 約80%の症例において、再発・残存静脈瘤に対する治療は初回と同じ治療

  • 初回治療から再治療までの平均期間は2年

  • 再治療の成功率(=静脈瘤消失率)は60〜100%と高い

  • 一方で、陰嚢内血腫慢性疼痛精巣萎縮隣接臓器損傷陰嚢水腫などの合併症が挙げられる

  • 妊娠・精液所見については有意に改善

  • 痛みについては90%以上の症例において消失または改善

  • 血中テストステロンについては1/2の研究で有意に改善が見られた

リミテーション

  • 対象集団、特性、静脈瘤評価の種類・タイミング、アウトカムの定義と評価など研究の異質性とバイアスリスクが高く定量的な統合(メタ解析)を行うことができない

  • 適切な対照群を欠いているため、再発症例に対する治療群vs経過観察群でのアウトカムの公正な比較は困難である

コメント

自分も今まで7〜800例以上精索静脈瘤手術を行っていますが、やはり1%程度再発を生じます。しかし再手術を行っても残存する症例がごくわずかに存在します。妊娠というアウトカムに重きを置くなら、精索静脈瘤の再発症例の再手術にこだわるよりも、DFIの評価を速やかに行い、早期のstep upを提示した方が良いこともあります。疼痛がアウトカムであれば、上記の側副血行路の確実な結紮のため、外精静脈だけでなく、迂回路もしっかり視認して結紮する必要性があることを痛感しました。


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