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イトーヨーカドーネットスーパー「ぽちたす」に学ぶ「接客の拡張」としてのリテールメディア

本稿ではイトーヨーカ堂が進めるリテールメディア戦略について紹介する。同社のリテールメディア戦略は、単なるブランドの広告ではなく、「接客の延長線」として顧客体験の向上を目指す。商品の魅力を伝える冊子「ぽちたす」やメーカーとの協業など、その取組みとは。(月刊マーチャンダイジング2024年6月号より転載)

タイパを意識する層に「刺さる」特集を企画

イトーヨーカ堂が2024年3月に立ち上げた「リテールメディアプロジェクト」は、商品本部配下に設置され、商品部、販売促進部、マーケティング戦略部を横断したメンバーが所属。同社のネットスーパーを中心としたリテールメディア戦略を推進する。

書籍『小売り広告の新市場 リテールメディア』(日経BP)の著者であり、同社リテールメディアプロジェクトディレクターの望月洋志氏は、同社におけるリテールメディアの位置付けは、お客様の買物の利便性を高め、楽しさを伝えていく、いわば「接客の拡張」だと述べる。「商品開発にこだわりがあって、歴史や背景にあるストーリーを伝えるのが好き」(望月氏)という同社のカルチャーを生かしたメディアの運営を目指す。

ぽちたすvol.4の表紙。新横浜配送センター限定

イトーヨーカドーネットスーパーが現在推進しているリテールメディアのひとつが「ぽちたす」という冊子だ。タブロイド版、オールカラー20P、イトーヨーカドーネットスーパーの新横浜センターから出荷される商品に同梱される。月1回発行、印刷部数は約5万部。

リテールメディアにおいては、メーカー・ブランドに対し単に「広告枠を売る」のではなく、商品の良さを伝えていくことが重要との考えの下で編集されている。

2024年3月発行のvol.4を見てみると、第一特集「時短&節約 おいしい選手権!!」では、漫画家の寺崎愛さんが調理と実食リポートをする「おかずの素人気ランキングBEST20」、大容量でユニット単価が安い肉や魚を使いこなすためのレシピを紹介する「ボリュームパック激うまっ!アレンジ」などの記事が冒頭を飾る。

イトーヨーカ堂商品本部リテールメディアプロジェクトリーダーの篠塚麻友実氏は「ネットスーパーのお客様の多くは、共働き世帯や子育てされている、タイパやコスパを非常に重視する層です。このようなお客様は、時間をかけずに大量の買物をすませる必要があるため、とくにネットスーパーは、決まったものをカートに入れる、言わば“補充”的な使われ方が多くなります。

ですが、紙のメディアを通じて新しい商品を目にして頂くことで、自分が知らなかった商品への関心を喚起し、購買につなげることを目標としています」と語る。

ヤマザキパンとの取組みのテーマは「リベイク」

例えば「ぽちたす」vol.4ではヤマザキパンとの取組みで、菓子パンのリベイク(トースターで再度“Re”焼く“Bake”)をテーマに記事を構成した。リベイクして熱々になったアップルパイにアイスを添える、カレーパンを半分に切ってリベイクし、レタスやベーコンを挟んでカレーパンバーガーにして食べるなど、ほんのちょっとのひと手間で、手づくり感を演出する方法を紹介。

メーカーからの商品情報を右から左へ流すのではなく、興味を持ってもらうように企画・編集をした内容といえる。価格は掲載されているものの、それを強く訴求するわけではない。

さらに、ネットスーパーのサイト上にも同じタイトルやイラストを使ったランディングページ(※)を制作。トップページから誘導動線がひかれていて、そこからの購入件数などものちの検証のために用いられている。

※LP:検索結果や広告などを経由して訪問者が最初にアクセスするページのこと。商品・サービスの注文の獲得に特化している

理解を促し「補充」購買から抜け出す

2023年12月からスタートした「ぽちたす」。現在多いのは「お客様に対して“認知”だけでなく、“理解”を得たい」と考えるメーカー・ブランドからの出稿相談だ。

ものづくりにしっかりと腰を据えて取り組んでいるメーカーほど、価格ではなく価値を理解してもらいたいと考える。前述した「商品にこだわる」というイトーヨーカドーのカルチャーは、お客様に対して商品のストーリーを伝えるのに親和性があり、紙の媒体の一覧性は商品に対する深い理解を促す。

篠塚氏は紙のメディアの強みを以下のように語る。

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