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四川省成都のCDC(疾病予防コントロールセンター)の奮闘、1例の感染源を短時間で突き止めるために

 大学医学部で勉強した医療関係者ならかならず知っている感染症対策の基本は、感染病学の教科書にも、もちろんちゃんと書いてあります。

①感染源を見つける②感染ルートの遮断③感染し易い人の保護④ワクチン接種

 なので感染者が増えすぎると大変になるから感染者が少ないうちにきっちりと手を打たないといけないのは基本中の基本です。

 感染源を見つけて、感染ルートを遮断すること。

 これはとても地道な作業なのですが、訓練された専門家がきっちりと対応する必要があるのです。中国では24時間対応可能なCDCが大活躍します。何を今更?と言われそうですが・・・。

 この記事を読んで、「全国的に保健所の業務が逼迫(ひっぱく)していることから、学校で感染者が出た場合、学校側が濃厚接触者を速やかに特定し、対応することができる仕組みを構築する考えを示した。」という記述があり、もの凄く違和感を感じました。感染症を抑えるために非常に重要なプロセスである濃厚接触者の特定は、決して専門外の例えば学校の先生等が出来るような作業ではないからです。

 ちょうど四川省CDC(疾病予防コントロールセンター)のケースが報道されていました。如何に疫学調査が大事かという例です。原文は

にあります。

 7/28未明、今年6月にOPENして間もない四川省成都の巨大空港、成都天府国際空港のターミナル職員で感染者が1人出ました。34歳男性。24時間体制のCDCでは、通知を受けるや否や、さっそく疫学調査開始です。この男性は、過去2週間以内に四川省を出ていないとのこと。新たな感染源が空港で発生したのか?と最悪のケースも考えなくてはいけません。もしそうだとすると、126万平方メートルもある巨大空港から感染源を見つけ出すことは並大抵のことではありません。下手したら空港全体をロックダウンをしなくてはいけないかもしれません。しかも、この1例の感染者の疫学調査を完成するまでに与えられた時間は1日半しかありません。

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         (上空から見た成都の天府国際空港)

 さっそく、この道36年のベテランの祝小平氏をリーダーに、20名のメンバーが集められ、疫学調査が開始されます。

 この当時、四川省成都では7/27に確定例3例が出ていました。湖南省張家界へ観光旅行から戻った一家3人で、感染源は南京禄口空港のデルタ株であることも判明していました。当然、この3人の成都天府空港到着後の行動が問題になります。これまでの疫学調査で、空港到着後、一家が空港から出てタクシーに乗るまでの間は10分間と分かっていました。この10分間の間に3人家族と、全く面識のない職員1人との接点はどこにあったのか?まずはここに焦点が当てられました。

 そこで、この空港職員での仕事内容が確認されます。どうやら空港での安全パトロールが仕事のようでした。一方で、祝小平氏らのメンバーは防護服や手袋を着用し、完全防備で実際に家族3人が飛行機を下りてからのルートを辿ります。ゴミ箱や花壇、広告塔などひとつひとつチェックしていきます。そこで水平方向に移動するエスカレーターを発見。ここで、防犯カメラに記録されていた一家三人の子供が遊んでいた光景が脳裏に浮かびました。実際にエスカレーターにも乗ります。このとき、祝小平氏は思わずエスカレーターの手すりに手を置いてしまったと言います。

 さっそく、会議室に戻り、防犯カメラを確認。すると、7/25夜8時35分頃、降機した旅客に混じって、1人の子供が録画されていました。まさに、確定例となった子供です。マスクもせずに前の方を走っています。後ろからくる家族を待つために、エスカレーターの入り口で待っていました。しかも、その手はエスカレーターの右側の手すりにありました。さらに、咳をしている様子も確認。しばらくすると、家族が追いつき、降機した旅客の集団も全員が通り過ぎました。この間、画像を確認する限り、エスカレーターの手すりを持った人はいませんでした。

 ところが、その日の夜10時20分。安全検査のパトロールのために、2人の職員がやってきました。そして、先ほどのエスカレーターを通過しようとします。そして、そのうちの1人が2人で喋りながら無意識にやはり右側の手すりに手を置いていました。

 祝平氏は思いました。「4人の接点を見つけた!」

 しかし、これだけではまだ証拠としては弱いです。もし手すりが原因ではないとすると、他に空港内に感染源があることになり、大変な事態になりかねないからです。

 そこで、さっそくこの子供と職員のウイルスのゲノム検査が行われました。結果は、ほぼ同じウイルスと断定。やはり、手すりからの感染と言うことが分かりました。

 この結果、天府空港のエスカレーター手すりの消毒に盲点があることがわかり、対策を強化しました。また空港の便数は減らされたものの、閉鎖とロックダウンは免れました。そこで、この教訓をもとに、四川省の一部のエスカレーターでは、手するに紫外線消毒装置を設置されることになりました。

 感染力の強いデルタ株。こうしたモノを媒介した感染も十分にあり得るので厳重な注意が必要です。中国で、海外からの宅配荷物やコールドチェーン等の消毒を強化していますし、公共交通機関での消毒も頻繁に行われています。実はそうした実例と深く関係があるのです。(以上)

 

 

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