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ムーンライダーズの詞世界に複数回登場するモチーフ・フレーズ

何十年にも渡る彼らの作品群では、同じ単語やフレーズがいくつか再利用されているようです。
この投稿ではそれらを確認できる限り挙げてみました(そうしたら、きりがないことに気づきました)。


薔薇

・佐藤奈々子 作詞 「Kのトランク」「スカーレットの誓い」(1982)
・アルバム『マニア・マニエラ』(1982)のジャケット
・鈴木慶一 作詞 「悲しい知らせ」(1985)
・アルバム『Moon Over the Rosebud』(2006)
・鈴木慶一 作詞 「Rosebud Heights」(2006)
・鈴木慶一 作詞 「A Song For All Good Lovers」(2006)
・多数の編集盤、関連企画、刊行物など
...etc

元ネタはJoseph Boisのとあるポスターに書かれた文言"Ohne die Rose tun wir's nicht"で、これは佐藤奈々子がバンドに持ち込んだそう(出典 : 「火の玉ボーイとコモンマン」, PP.170~171 他多数)。
Boisは薔薇を「直接民主制」の象徴として扱っているようだが、メンバー全員が対等にバンドに参政するムーンライダーズのシンボルとしてふさわしいと思う。

低所得者 / 無職 / 路上生活者

・鈴木慶一 作詞 「スカンピン」(1976)
・糸井重里 作詞 「花咲く乙女よ穴を掘れ」(1982)
・鈴木博文 作詞 「工場と微笑」(1982)
・蛭子能収 作詞 「だるい人」(1986)
・鈴木博文 作詞 「ガラスの虹」(1991)
・鈴木慶一 作詞 「無職の男のホットドッグ」(1992)
・糸井重里 作詞 「ニットキャップマン」(1996)
・鈴木博文 作詞「ニットキャップマン外伝」(1996)
・鈴木慶一 作詞 「みんなはライヴァル」(1996)
・武川雅寛 作詞 「地下道Busker's Waltz」(2005)
・糸井重里 作詞 「ゆうがたフレンド(公園にて)」(2006)
・鈴木慶一 作詞 「主なくとも梅は咲く ならば」(2011)
・鈴木慶一 作詞 「彷徨う場所がないバス停」(2022)
...etc

The Suzukiのアルバム『Everybody's in Working Class』(1997) のジャケットも肉体労働者。彼らはコンサートで「労働者の格好をして入場したら割引!」みたいなこともしていたらしい。
糸井重里がこのバンドに提供してシングルカットされた3作品は、全てこの系統の歌詞である。コピーライターの目線でもムーンライダーズのイメージはこういう感じなんだろう。
浮浪者3人組が主人公の映画『東京ゴッドファーザーズ』(2003, 監督 : 今敏)の劇伴を担当したのも彼らで、エンディングテーマの「No.9」は第九に慶一が歌詞を付けた瘋癲ソング。

野良犬

・鈴木博文 作詞 「ドッグ・ソング」(1978)
・サエキけんぞう / 白井良明 作詞 「犬にインタビュー」(1985)
・鈴木博文 作詞 「渋谷狩猟日記」(1995)
・鈴木慶一 作詞 「夜のBoutique」(1995)
・鈴木博文 作詞 「狂犬」(1996)
・武川雅寛 / 鈴木博文 作詞 「真実の犬」(2005)
・鈴木博文 作詞 「ばら線の庭」(2005)
・かしぶち哲郎 作詞 「タブラ・ラサ」(2009)

項目は分けたが、彼らが描く「野良犬」は イコール「低所得者 / 無職 / 路上生活者」みたいなもんだろう。
飼い犬が出てくるのは「ニットキャップマン」と「11月の晴れた午後には」の2曲。「犬にインタビュー」の犬は元飼い犬かもしれないが、乱暴に扱われているので保健所から逃げてきたんじゃなかろうか。
「犬の帰宅」の犬は、立場として父親 = 養っている側なのに「犬」になっているというのが不条理に思えて真理をついていて面白い。
あと「10時間」には「犬小屋」が出てくる。

月 (噛み付く対象)

鈴木博文 作詞 「狂犬」(1996)
鈴木博文 作詞 「Rainbow Zombie Blues」(2009)

月を噛む」という表現自体が斬新だが、ムーンライダーズの詞世界にはそのような月が2曲に存在する。上述の野良犬の仕業かも。

心臓 (食べ物)

鈴木博文 作詞 「渋谷狩猟日記」(1995)
鈴木博文 作詞 「馬の背に乗れ」(2006)

引き続き、博文の詞世界より。月のお次は心臓に食らいつく。
「心臓食っちゃいたいだろうねぇぇぇ!」「心臓食ってくれよぉぉぉ!」
......と、両方ともやたらに勢いよくカニバリズムを推してくる。

朝の駅

鈴木博文 作詞 「駅は今、朝の中」(1985)
鈴木博文 作詞 「折れた矢」(2011)

「駅は今、朝の中」からのモチーフの再利用 その1

ちなみに、朝とは限らない「駅」は「ぼくはタンポポを愛す」「天罰の雨」「三日月の翼」でも登場する。以上は全て博文の歌詞だが、大鳥居駅を思い浮かべればいいのだろうか。

その他、「スカーレットの誓い」にも駅っぽい描写が出てくる。

青いベンチ

鈴木博文 作詞 「駅は今、朝の中」(1985)
鈴木博文 作詞 「僕は負けそうだ」(1996)

「駅は今、朝の中」からのモチーフの再利用 その2

「駅は今、朝の中」の「青いベンチ」は駅のホームに置かれているものだろうが、歌詞中に電車が登場する「僕は負けそうだ」の「青いベンチ」も、同じくホームに置かれたものかもしれないし、そもそも同一のベンチかもしれない。ただ、夜の町を描いた曲なので、「駅は今、夜の中」である。

なお、青くないベンチが登場するのは「海辺のベンチ、鳥と夕陽」「静岡」「屋根裏のベンチ」「岸辺のダンス」。

僕は〜 / ボクハ〜 / ぼくは〜 (タイトル)

鈴木博文 作詞 「僕は走って灰になる」(1985)
鈴木博文 作詞 「ボクハナク」(1986)
鈴木博文 作詞 「ぼくはタンポポを愛す」(1995)
鈴木博文 作詞 「僕は負けそうだ」(1996)
鈴木博文 作詞 「ぼくは幸せだった」(1998)

博文と言ったらやはりこのシリーズ。
シリーズと言うより博文のネーミングの癖みたいなものかもしれないが、彼のソロアルバムに「僕は〜」という曲は無い。

屋根の上

・鈴木博文 / 鈴木慶一 作詞「ジャブ・アップ・ファミリー」(1978)
・鈴木博文 作詞 「アケガラス」(1982)
・ムーンライダーズ文芸部 作詞 「おかわり人生」(1995)
・鈴木博文 作詞 「Flags」(2001)
・鈴木博文 作詞 「銅線の男」(2005)

鈴木兄弟の生家である湾岸スタジオは、2階の部屋の窓から屋根に上がれるようになっていて、若き彼らが練習のために部屋に集まるときには、部屋に入りきらないメンバーが屋根の上で楽器を弾くこともあったらしい(出典 : 「火の玉ボーイとコモンマン」, P.46)。
博文作詞の「Weatherman」「オカシな救済」には、登りこそしないが「トタン屋根」というワードが登場する。

湾岸道路

鈴木博文 作詞 「MODERN LOVERS」(1979)
鈴木博文 作詞 「くれない埠頭」(1982)
白井良明 作詞 「Masque-Rider」(2011)

同じく、博文の生まれの風景が反映されている。
「Masque-Rider」は良明の歌詞で、「湾岸」という単語が登場するバイク乗りの曲。

海までドライブ

かしぶち哲郎 作詞 「Back Seat」(1979)
ムーンライダーズ 作詞 「青空のマリー」(1982)
鈴木博文 作詞 「Don’t Trust Anyone Over Thirty」(1986)
鈴木慶一 作詞 「ダイナマイトとクールガイ」(1992)

海を目的地に車を走らせる楽曲群(どうでもいいが人気曲だらけ)。

「青空のマリー」はお熱いラヴ・アフェアだが、残りの3曲はことごとく破局を思わせるニヒルなドライブである(
「青空のマリー」も最終的には破局するし)。

行くあても無く車を走らせ埠頭にたどり着いた「くれない埠頭」もこの類かもしれない。こちらも同じくニヒルな歌詞の人気曲。

車 × 自殺

かしぶち哲郎 作詞 「Back Seat」(1979)
かしぶち哲郎 作詞 「Curve」(2001)

車に乗ってダークサイドに堕ちていくかしぶち。同じモチーフの組み合わせで何故か2曲も。

宇宙 (かしぶち哲郎編)

かしぶち哲郎 作詞 「二十世紀鋼鉄の男」(1982)
かしぶち哲郎 作詞 「O・K、パ・ド・ドゥ」(1982)
かしぶち哲郎 作詞 「S・E・X」(ボツになった歌詞)
かしぶち哲郎 作詞 「CLINIKA」(ボツになった歌詞)
かしぶち哲郎 作詞 「ガールハント」(1996)
かしぶち哲郎 作詞 「君には宇宙船がある」(1998)

そんなかしぶちだが、彼の作風として「官能系」と並んでよく見るのは、人為の及ばぬ大自然の曲。その中で「宇宙」は彼の中でも1つのテーマとしてあるらしい(出典 : 「フライトレコーダー」, P.153)。

謎を解く

かしぶち哲郎 作詞 「スカーレットの誓い」(1982)
かしぶち哲郎 作詞 「ラスト・ファンファーレ」(2011)

2曲で何かしらの謎を解くかしぶち。
かしぶちワールドにおいて「謎」という単語は、他に「プラトーの日々」「Pain Rain」にも登場する。さらに「Curve」では「私の中の3匹の子豚」のうちの1匹がミステリーを書いている。本人からして謎多き方ではある。まさに「秘すれば花」。

(沈む) 船

かしぶち哲郎 作詞 「気球と通信」(1982)
かしぶち哲郎 作詞 「二十世紀鋼鉄の男」(1982)

1年間で船を2隻沈めるかしぶち。

(仲間みんなで乗る) 船

鈴木慶一 作詞 「オー何テユー事ナンダロウ」(1996)
鈴木慶一 作詞 「イエローサブマリンがやって来るヤァ! ヤァ! ヤァ!」(2001)
鈴木慶一 作詞 「Rosebud Heights」(2006)
かしぶち哲郎 作詞 「Serenade and Sarabande」(2006)
鈴木慶一 作詞 「腐った林檎を食う水夫の歌」(2006)

かしぶちが船を沈める一方で、慶一は「オー何テユー事ナンダロウ」で船を作って航海している。
20周年を祝して出港した船は、30周年の機に再び港に戻ってきたようだ。

遊び場 / Playground

鈴木慶一 作詞「Rosebud Heights」(2006)
鈴木慶一 作詞「蒸気でできたプレイグランド劇場で」(2011)

僕らの船底は遊び場だった。集ってなにをしよう?

慶一作「オー何テユー事ナンダロウ」の歌詞に関しては色々と話題がある。

青春

かしぶち哲郎 作詞 「スカーレットの誓い」(1982)
鈴木慶一 作詞 「オー何テユー事ナンダロウ」(1996)

まず、「スカーレットの誓い」でエンブレムにした"青春"を、「なんて悲惨なんだろう。帰りたくない、何も生みだしやしない。美しくもない、とてもやり切れない。」とコテンパンに全否定。

"夢が◯◯る機械が欲しい / "◯◯が見れる機械が欲しい"

鈴木慶一 作詞 「夢が見れる機械が欲しい」(1985)
鈴木慶一 作詞 「オー何テユー事ナンダロウ」(1996)

そして「夢が消せる機械が欲しい」と、またもや過去曲を全否定。
過去が見れる機械が欲しい」というフレーズも出てくる。

9月

・サエキけんぞう 作詞 「9月の海はクラゲの海」(1986)
・ムーンライダーズ 作詞 「海の家」(1995)
・鈴木慶一 作詞 「オー何テユー事ナンダロウ」(1996)
・白井良明 作詞 「旅のYokan」(2009)
...etc

10周年の時に発表された「9月の海はクラゲの海」を発端として、いずれもが舞台の曲。


9月の海は、旬の過ぎた海。
ボクらの海は旬が過ぎている。
クラゲが湧いてて泳げない海から、腐って食べれない林檎へ。
"ボクら"が食うのは腐った林檎なのである。

自己言及 / 船旅 / 6つの骸骨 / 阿片

・鈴木慶一 作詞 「オー何テユー事ナンダロウ」(1996)
・鈴木慶一 作詞 「腐った林檎を食う水夫の歌」(2006)

20周年ソング「オー何テユー事ナンダロウ」の続編らしき曲が、30周年の時に登場した。
メンバー6人が骸骨水夫として登場し、腐った林檎を食う。アルバム『Moon Over the Rosebud』に収録されているが、このアルバムの詩世界には多くの暗号が散りばめられていると思う。

ダイナマイト / 海 / 虹 / スカート / 砂の天使

・鈴木慶一 作詞 「ダイナマイトとクールガイ」(1992)
・鈴木慶一 作詞 「Cool Dynamo Right On」(2006)

アルバム「Moon Over the Rosebud」の1曲目は「ダイナマイトとクールガイ」の続編、「Cool Dynamo Right On」。

鬼火

・佐藤奈々子 / 鈴木慶一 作詞 「鬼火」(1979)
・鈴木慶一 作詞 「Cool Dynamo Right On」(2006)

同曲には「鬼火」という言葉も"過去の鬼火"というフレーズで再登場。「Turn off!(消せ!)」と一蹴される。

薔薇の蕾

・アルバム『Moon Over the Rosebud』(2006)
・鈴木慶一 作詞 「Rosebud Heights」(2006)
・鈴木慶一 作詞 「ワンピースを、PayDayに」(2006)

同アルバムより。アルバムタイトルにある「Rosebud」というモチーフは収録曲の2曲に登場する。映画『Citizen Kane』を思わせる。
「つぼみ」という単語だけなら同アルバム収録「Vintage Wine Spirits and Roses」にもでてくる。

アルバム『Moon Over the Rosebud』には、このように収録曲の間で単語をシェアしている歌詞が多い。

緑の丘

・鈴木慶一 作詞 「Rosebud Heights」(2006)
・鈴木博文 作詞 「11月の晴れた午後には」(2006)

ハイツ

・鈴木慶一 作詞 「Rosebud Heights」(2006)
・鈴木慶一 作詞 「Vintage Wine Spirits and Roses」(2006)
(かしぶち哲郎 作詞「Burlesque」(1979)にも登場する)

林檎

・鈴木慶一 作詞 「腐った林檎を食う水夫の歌」(2006)
・鈴木慶一 作詞 「Scum Party」(2006)

ワンピース

・鈴木慶一 作詞 「ワンピースを、PayDayに」(2006)
・鈴木慶一 作詞 「Vintage Wine Spirits and Roses」(2006)

衝突音

・鈴木博文 作詞 「WEATHERMAN」(2006)
・鈴木慶一 作詞 「ワンピースを、PayDayに」(2006)

慶一の作詞曲が多いが、彼1人で楽しんでいるわけではないようで、博文も巻き込んでいる。

慶一「歌詞作ってて、人の作った歌詞を引っ張ってきて、まぁ盗んできて、で、繋げてリンクさせるっていう、そういう作り方が面白かった。」

かしぶち「詞はね、なんとなく鎖のように、パズルのように繋がってるんですよね。」

moonriders, ”OVER the MOON 晩秋のジャパンツアー 2006”, 2007, 特典インタビュー

イエス・キリスト

・鈴木慶一 作詞 「Christ, Who's gonna die and cry?」(1991)
・白井良明 作詞 「果実味を残せ!Vieilles Vignesってど~よ!」(2006)
・鈴木博文 作詞 「琥珀色の骨」(2006)
・鈴木博文 作詞 「オカシな救済」(2011)

『Moon Over the Rosebud』では「イエス・キリスト」の名前が「イエス」と「Christ」にバラされて収録曲のうち2作品に登場する。

「オカシな救済」に関しては「ヤモリがキリストになる」という難解な歌詞である。曲名やリフレイン部分で繰り返される「救済」「救える」というフレーズがキーワードかもしれない。歌詞に突飛な形で登場する「リス」は英語で「Squirrel(→スクウェレル→救える、救われる)」というシャレなのか。
(追記 : 「窓に張り付いたヤモリ十字架に貼り付けにされたキリストに結びつく」という指摘を別所でいただきました。すごく腑に落ちました。ありがとうございます。)

森でピクニック

・鈴木慶一 作詞 「G.o.a.P.」(1984)
・鈴木慶一 作詞 「B to F」(1984)

『Amateur Academy』の3~4曲目で見られるモチーフの共有。
かしぶちが同時期にイヴに提供した楽曲「したいの」にも「恋はピクニック、森で✗✗✗したいの」という歌詞がある。
ちなみに、博文がムーンライダーズにおいて自身の単独作の歌詞を他人に委ねた例は今の所「B to F」のみである。

ジャック (人名)

・鈴木博文 作詞 「Y.B.J.」(1984)
・鈴木慶一 作詞 「BLDG」(1984)

どちらの曲でも最終的にジャックはビルから"空を飛ぶ"。しかし描写の仕方は全く異なり、鈴木兄弟の作風の違いがありありと分かるので面白い。
よく取沙汰される「マイ・ネーム・イズ・ジャック」の”ジャック”は名前が被っただけで関係ない別人だと僕は思っている(「火の玉ボーイ」の「切り裂きジャック」と同様に)。

夜 (アルバム『ムーンライダーズの夜』編)

・白井良明 / 鈴木慶一 作詞 「HAPPY / BLUE '95」(1995)
・鈴木慶一 作詞 「PRELUDE TO HIJACKER」(1995)
・鈴木慶一 作詞 「帰還 〜ただいま〜」(1995)
・Three Graduates / 鈴木慶一 作詞 「まぼろしの街角」(1995)
・かしぶち哲郎 作詞 「永遠のEntrance」(1995)
・鈴木博文 作詞 「渋谷狩猟日記」(1995)
・鈴木博文 作詞 「ただ ぼくがいる」(1995)
・鈴木博文 作詞 「最後の木の実」(1995)
・鈴木慶一 作詞 「夜のBoutique」(1995)
・鈴木慶一 作詞 「黒いシェパード」(1995)

さすが「夜」をテーマにしたコンセプトアルバムだけあり、ほぼ全曲、歌詞の時間帯が夜に設定されており、更に言うと、アルバムと同時期にリリースされたシングルに収録された曲「ぼくはタンポポを愛す」「冷えたビールが無いなんて」「おかわり人生」もことごとく夜の曲である(「ぼくはタンポポを愛す」に関しては、歌詞中で朝になったり昼になったりもするが、主題になっているタンポポが咲き乱れるのは「夜」である。)。

「ほぼ全曲」と書いたが、その例外である2曲「Instant Shangri-La」と「Damn! Moonriders」に関しては両方とも宗教をテーマにした歌詞であるという共通点がある。

アマリリス

・白井良明 / 鈴木慶一 作詞 「恋はアマリリス」(2009)
・白井良明 作詞 「むすんでひらいて手を打とう」(2009)

『Here we go'round the disc』と『Tokyo7』でモチーフを共有している例 その1

青い窓

・鈴木博文 作詞 「三日月の翼」(2009)
・鈴木博文 作詞 「SO RE ZO RE」(2009)

『Here we go'round the disc』と『Tokyo7』でモチーフを共有している例 その2
ちなみに「スカーレットの誓い」「さなぎ」に出てくる窓の色は、それぞれカドニウムグリーンとヴァイオレット。

窓ガラス (破壊の対象)

・鈴木博文 作詞 「ウルフはウルフ」(1985)
・鈴木博文 作詞 「駅は今、朝の中」(1985)
・滋田みかよ 作詞 「A Frozen Girl, A Boy in Love」(1986)
・鈴木博文 作詞 「ガラスの虹」(1991)
・鈴木慶一 作詞 「Small Box」(2009)
・鈴木博文 作詞 「オカシな救済」(2011)

窓ガラスは空間を隔てるもの。それを壊すことは時に有意義である。
「G.o.a.P.」で部屋を密閉し外世界と自分たちを遮断する窓も、「ピクニックへ行こう」という発想に帰着する歌詞からして似た類かも。
また、「なんだ? この、ユーウツは!!」ではガラス瓶のなかに閉じ込められているが、「通過できそうなのに通過できない」というもどかしさが表現の底にあると思う。

ちなみに「超C調」では壁が壊されている。該当のリリック「スクロールの壁壊したら」の意味は、歌詞の着想元になったファミコンゲーム「メトロイド」(出典 : 「フライトレコーダー」, P.342)をプレイしたことのある人なら分かるはずだが、同時に作曲上のテーマである「楽譜の小節線を取っ払う」との見事なダブルミーニングになっていると思う。

窓ガラス (ショーウィンドウとしての)

・鈴木慶一 作詞 「VIDEO BOY」(1979)
・鈴木慶一 作詞 「BLDG」(1984)
・鈴木慶一 作詞 「B.B.L.B.」(1984)
・かしぶち哲郎 作詞「窓からの景色」(1998)

窓ガラスは空間を隔てるものであると同時に、壁の向こうを覗けるという点で空間をつなぐものでもある。そんな窓の向こうを別世界として客観的に見つめている歌詞たち。
「いとこ同士」にはズバリ「ショーウィンドウ」という単語が登場するが、中を見つめることなく横切っているので、上のリストからは省いた。

追記 : なお、上記2つの分類に当てはまらない窓ガラスもある。別所で指摘があった「さよならは夜明けの夢に」では、指で書き置きを書いている。ガラスという透明で脆いキャンバスに文字を書くことで、ガラスがメッセージの儚さの表現に利用されているという意見もあった。キャンバスとしての窓ガラスとしては他に「服を脱いで、僕のために」では寝息で絵を描いている。

ところで、アルバム『Amateur Academy』の慶一作詞の4曲の内3曲に「窓」が登場するのは意味深である。

暑い部屋

・鈴木慶一 作詞 「物は壊れる、人は死ぬ 三つ数えて、眼をつぶれ」(1982)
・鈴木慶一 作詞 「G.o.a.P.」(1984)

当時の慶一の精神状態が心配になる程やばい歌詞の2曲。
といってもこれらも1985年の「夢が見れる機械が欲しい」の前座でしかない。
「夢が見れる機械が欲しい」ではついに部屋を抜け出してヤブの中で寝そべっている。「スタジオ作業に嫌気がさして鬱状態で屋上へ行き、夜景を見た時にインスピレーションが湧いた」という「夢が見れる機械が欲しい」の誕生秘話(出典 : 「フライトレコーダー」, P.337 / 「ユリイカ2005年6月号, P.58」)を参考にすると、「暑い部屋」≒「スタジオ、仕事場」であると言えるかもしれない。

◯◯ボーイ (タイトル)

・鈴木慶一 作詞 「VIDEO BOY」(1979)
・鈴木慶一 作詞 「大人は判ってくれない」(1980)
・鈴木慶一 作詞 「シリコンボーイ」(1991)

〇〇には作詞当時の家庭用メディアのトレンドが入る。
メディアに限らなければ「火の玉ボーイ」「Disco Boy」「B.B.L.B.」もある。「Disco Boy」以外は全て慶一の作詞。

「火の玉ボーイ」は「VIDEO BOY」「シリコンボーイ」と合わせてライヴでセットで演奏されることがある。

青空

・アルバム『青空百景』(1982)
・サエキけんぞう 作詞 「青空のマリー」(1982)
・サエキけんぞう 作詞 「君に青空をあげよう」(1996)

モチーフの再登場というよりか、「君に青空をあげよう」が「青空のマリー」を意識したものだということだと思う(上の「シリコンボーイ」も同様)。

ちなみに、上記以外で「青空」が登場するのは「マイ・ネーム・イズ・ジャック」「現代の晩年」「海の家」「ガールハント」「ブリキの靴」「さすらう青春」「Rosebud Heights」「旅のYokan」「ガリバーたちの週末」、あと「ヘンタイよい子の唄」。「群青色の空」を「青空」に含めるなら、はちみつぱいの「塀の上で」も。

富士山

・白井良明 作詞 「トンピクレンっ子」(1982)
・鈴木慶一 作詞 「ダイナマイトとクールガイ」(1992)
・白井良明 作詞 「笑門来福?」(2009)

上2つでは「フジヤマ」という読みで登場する。
「笑門来福?」は楽曲のノリといい「トンピクレンっ子」のアンサーソングっぽい。

浴室 / お風呂

・鈴木慶一 作詞 「女友達 (悲しきセクレタリー)」(1977)
・鈴木博文 作詞 「インテリア」(1980)
・アルバム『青空百景』(1982)のジャケット
・鈴木博文 作詞 「霧の10m²」(1982)
・白井良明 作詞 「トンピクレンっ子」(1982)
・かしぶち哲郎 作詞 「CLINIKA」(ボツになった歌詞)
・滋田みかよ 作詞 「風のロボット」(1996)
・曽我部恵一 作詞 「恋人が眠ったあとに唄う歌」(1998)
・鈴木博文 / 鈴木慶一 作詞 「Pissin’ till I die」(1999)
・白井良明 作詞 「jewelryの在り処」(2011)

「富士山」と直結するモチーフであるし、そこそこ散見すると思ったのでまとめてみた。
以上の他、「ニットキャップマン外伝」には「産湯」という言葉が登場する。

「Frou Frou」には「シャワー」が登場するが、「風呂風呂」というダジャレなのかなという下らない考えが一瞬頭をよぎった。

門 (白井良明編)

・白井良明 作詞 「笑門来福?」(2009)
・白井良明 作詞 「jewelryの在り処」(2011)
・白井良明 作詞 「駄々こね桜、覚醒。」(2022)

3曲とも似たような曲調だが、「笑門来福?」では「笑うGate」と表現され、「jewelryの在り処」では蹴飛ばし、「駄々こね桜、覚醒。」では ”駄々こね桜田門!!”ときた。

慶一:(最初の歌詞は)"駄々こね桜だ"で終わってたんですよ。「ちょいまてよこれ「朝霞基地」も入ってるし、じゃあ"桜だもん (桜田門)"にすれば?」ということをつい考えちゃうんですよ。"桜だもん"になった瞬間に、これは"取締り"とかにしたほうがいいんじゃないか、とか。(J-POP LEGEND FORUM, 2022.05.02放送分)

セルロイドの指

・鈴木博文 作詞 「スタジオ・ミュージシャン」(1978)
・かしぶち哲郎 作詞 「ブリキの靴」(2000)

スタジオミュージシャンの無機質でデザイナーチックな仕事ぶりを表現したようなモチーフ。
これに限らず、「ブリキの靴」の歌詞はムーンライダーズの来し方を連想させるフレーズだらけ。

かしぶち哲郎 作詞「紡ぎ唄」(1977)
かしぶち哲郎 作詞「Beep Beep Be オーライ」(1977)
かしぶち哲郎 作詞「オールド・レディー」(1978)
かしぶち哲郎 作詞「トラベシア」(1978)
かしぶち哲郎 作詞「O・K、パ・ド・ドゥ」(1982)
かしぶち哲郎 作詞「ブリキの靴」(2000)
白井良明 作詞 「静岡」(2001)
鈴木慶一 作詞 「Lovers Chronicles」(2001)

初期ライダーズのかしぶちワールドには嵐が頻発していたが、「O・K、パ・ド・ドゥ」の「ハリケーン」を最後にピタリと止んだ。
「ブリキの靴」で久々に登場した「嵐」は、70年代を回顧したものではないだろうか。

砂の城

・かしぶち哲郎 作詞 「オールド・レディ」(1978)
・かしぶち哲郎 作詞 「ラスト・ファンファーレ」(2011)

遠い昔、儚い人生のメタファーとして言及されていた「砂の城」、「ラスト・ファンファーレ」では1輪の白い薔薇が咲いていた。

砂 (かしぶち哲郎編)

・かしぶち哲郎 作詞 「砂丘」(1977)
・かしぶち哲郎 作詞 「Beep Beep Be オーライ」(1977)
・かしぶち哲郎 作詞 「ハバロフスクを訪ねて」(1977)
・かしぶち哲郎 作詞 「プラトーの日々」(1991)

砂の上にいたり、砂にまみれたりしている。いずれも途方に暮れたような歌詞であるのが特徴。夢が終わるときに残していく残骸のようなものが「砂」なのかもしれないと思った。

砂 (食べ物)

・鈴木博文 作詞 「Don’t Trust Anyone Over Thirty」(1986)
・鈴木慶一 作詞 「Vintage Wine Spirits and Roses」(2006)

冬の海で食べたり、年老いたバーテンダーが差し出すグラスに溢れていたりする。
博文ソロの「処方箋」(曲の方)ではコーヒーカップに入っているし、博文作詞の「ニットキャップマン外伝」では土も食っている。前述の通り心臓や月すらも食らう悪食な博文氏。

(転がる)石

・かしぶち哲郎 作詞 「プラトーの日々」(1991)
・かしぶち哲郎 作詞 「ひとは人間について語る」(2005)
・作詞者不明 「老いた石」(2011)

Bob Dylanへのオマージュか。
「老いた石」は「プラトーの日々」の「生まれたての石」と対になっているのか。

石 (投擲物)

・鈴木慶一 作詞 「歩いて、車で、スプートニクで」(1985)
・鈴木慶一 作詞 「10時間」(1991)
・鈴木慶一 作詞 「pissism」(1999)
・鈴木慶一 作詞 「Small Box」(2009)

慶一はよく石を投げる。バンド外の曲でも、僕が知ってる限りだと「6,000,000,000の天国」「一日の終りに」「人間嫌いの日」で石を投げている。石を投げるという行為は「10時間」の歌詞のように学生運動を思わせる。

丘 (鈴木慶一編)

・鈴木慶一 作詞「現代の晩年」(1992)
・鈴木慶一 作詞「Public Cemetery」(2000)
・鈴木慶一 作詞「今日もトラブルが…」(2001)
・鈴木慶一 作詞「Rosebud Heights」(2006)
・鈴木慶一 作詞「Small Box」(2009)
・鈴木慶一 作詞「Mt., Kx」(2011)

湾岸戦争、世紀末、9.11、3.11......エポックメイキングな時勢は慶一に丘を登らせる。

ニュース (懐疑の対象)

・鈴木博文「はい!はい!はい!はい!」(1991)
・鈴木慶一「幸せの洪水の前で」(1992)
・ムーンライダーズ文芸部「おかわり人生」(1995)
・鈴木慶一 / 長江優子「スペースエイジのバラッド」(2005)

嘘ついて」「間に合わない」「見たくない、堪忍してよ」「怪電波」と否定の嵐。
他、「B.B.L.B.」「何だ?この、ユーウツは!!」「10時間」でもマスメディアは槍玉に挙げられている。
一方で「M.I.J.」はニュースをやたらと賛美する歌詞だが、これはこれであてこすりの歌詞に思える。

また、The Suzukiの「Lorena」でもアンチ・ニュースな歌詞がある。

穴 (肉体労働の産物)

・糸井重里 作詞 「花咲く乙女よ穴を掘れ」(1982)
・鈴木慶一 作詞 「主なくとも梅は咲く ならば」(2011)

「主なくとも梅は咲く ならば」の方では、ムーンライダーズの紡いできた作品の1つ1つを「」と暗喩しているよう。そこにはすでに300個近くの穴が。そしてまだまだ増える。

愚か者 / 愚民

・鈴木博文 作詞 「monorail」(2022)
・鈴木慶一 作詞 「私は愚民」(2022)

2020年代の再始動を飾るアルバム『It's the moooonriders』の曲順を包み込む愚民達。

愛 (売り物) / 夢 (売り物)

・鈴木慶一 作詞「スカンピン」(1976)
・鈴木博文 作詞 「彼女について知っている2、3の事柄」(1980)

破れた恋(愛)や夢を売りすぎて心が空になった。
フォークからニューウェーブに転向したムーンライダーズを象徴している?

幸せ / HAPPY / 福 (タイトル)

・鈴木博文 作詞「幸せな野獣」(1991)
・鈴木慶一 作詞「幸せの洪水の前で」(1992)
・鈴木慶一 / 白井良明 作詞「HAPPY/BLUE'95」(1995)
・鈴木慶一 作詞「Happy Life」(1996)
・原田知世 作詞「幸せの場所」(1998)
・鈴木博文 作詞「ぼくは幸せだった」(1998)
・白井良明 作詞 「笑門来福?」(2009)

個人的にこのバンドの詞世界で一番闇深いと思っている事柄。「しあわせ」を意味する単語がタイトルに入っている曲が、不気味に90年代に集中しており、しかも外注の「幸せの場所」を除くと、90年代の全オリジナルフルアルバムに1曲ずつ収録されているという......。

"who's gonna 〜"

・岡田徹 作詞 「Who's gonna cry?」(1991)
・鈴木博文 作詞「Who's gonna die first?」(1991)
・鈴木慶一 作詞 「涙は悲しさだけでできているんじゃない」(1991)
・鈴木慶一 作詞 「Christ, Who's gonna die and cry?」(1991)
・白井良明 作詞 「who's gonna be reborn first?」(2011)

最初に◯◯するのは誰?という問いかけのシリーズ。
作詞者がバラけているのが面白い。

東京

・白井良明 作詞 「Come Sta, Tokyo?」(1991)
・ムーンライダーズの内輪メーリングリスト「Tokyo7」
・アルバム『Tokyo7』(2009) 及びその前年からリリースされたシングル群
・インスト曲「ルナティック・アカデミーTokyo分校 校歌」(2011)

バンドの出身地であり拠点。
メンバー個人でみると、武川は神奈川、かしぶちは栃木で、その他は東京出身。良明は東京生まれだがルーツは静岡であるらしい。

”cry for the moon”

・岡田徹 作詞 「紅いの翼」(1977)
・「黒いシェパード」(1995)の仮タイトル
・インスト曲「ルナティック・アカデミーTokyo分校 校歌」(2011)の副題

ファーストアルバムの1曲目と、2011年の無期限活動休止前のラストアルバムの最終トラック(であるメドレーのうちの1曲のサブタイトル)の両方に登場するフレーズ。「無い物ねだりをする」という意味だが、“moon”がバンド名にかかっているのは間違いないだろう。
(ちなみに筆者はこんな偉そうなまとめを書いておきながら「組曲Ciao!」を未聴なので、曲の内容がどのようなものなのかは知らない)

・バンド名
・鈴木博文 作詞 「月の酒場」
・アルバム『ANIMAL INDEX』(1982)のジャケット
・アルバム『月面讃歌』(1998)
・アルバム『Moon Over the Rosebud』(2006)
・鈴木博文 作詞 「Last Serenade」(2011)
・白井良明 作詞 「who's gonna be reborn first?」(2011)
・多数の編集盤、関連企画、刊行物など
...etc

稲垣足穂の短編集に収録されている作品からバンド名を取り(出典 : 「火の玉ボーイとコモンマン」, P.135 他多数)、そこから「月」がバンドの象徴になった。
何かと"Lunatic"な彼らのシンボルとしてふさわしいと思う。
ちなみに英単語の「moon」には俗語表現で「お尻」という意味もある。なので「moonriders」は「お尻にライドする人たち」という意味合いになる。

......記事の締めくくりが低俗なトピックになってしまい申し訳がない。尻を叩いてくれなきゃねー、誰か。


ユリイカ2005年6月号「特集 = ムーンライダーズ 薔薇がなくちゃ生きてゆけないんだってば!」に載っている大田晋さんの記事に影響を受けています。とても楽しんで読ませていただいた記事です。)

画像1

↑ヘッダ画像のトレース元
(バンドのメインリリシストの3人がセンターに写ってるアー写)

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