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mctの機会探索(6)ポジティブな外れ値に学ぶ問題解決アプローチ「ポジティブデビアンス」

mctでは新規事業開発部門や研究開発部門に向けて、デザイン思考を用いて事業テーマの探索からビジネス機会・課題の発見、ビジネスアイデア検証まで、ビジネスデザインを支援しています。(詳しくはこちら
今回はビジネスデザインにおける「機会探索」というテーマで、基本的な考え方からmctの具体的なアプローチ方法までご紹介していきます。

最終第6回である今回は『ポジティブな外れ値に学ぶ問題解決アプローチ「ポジティブデビアンス」』です。
第2回ブログ『アノマリードリブンで潜在トレンドを発掘する方法』にて、圧倒的な競争優位に立つためには、社内外に点在するまだトレンドとも言えない微かな兆しを顕在化する前に見つけ出し、そこを起点として事業を展開させる必要があるというお話をさせていただきました。今回は企業・国・地域など様々なコミュニティ内部のアノマリーを起点とした問題解決手法と、そこから着想できる機会探索についてお話しします。

皆さんは「ポジティブデビアンス」という言葉をご存知でしょうか。
日本語では「ポジティブな逸脱者」「片隅の成功者」などと呼ばれます。これが今回取り扱うアノマリーになります。ポジティブデビアンスアプローチとは、ジェリー・スターニンらによって提唱された問題解決アプローチの方法論です。

(positive deviance collaborativeより引用)

ビジネスにおいて問題に直面し解決策を考える際、私たちは世の中に参考になる先進事例はないか探したり、ついつい外部に答えを求めてしまいがちです。私たちは組織内に解決策などあるはずがないという暗黙の前提のもと行動してしまいますが、今回紹介するポジティブデビアンスアプローチはこの前提を否定し、外側ではなく内側に答えを求めるアプローチ方法です。

”自分たちが直面している解決すべき課題は組織内で既に解決している人が存在する”という考え方をこのアプローチはスタート地点とし、自分たちの組織の中で既に個人単位でもその課題を解決している例外(=ポジティブデビアンス ※以下PD)を解決の糸口として、彼らがなぜ成功しているのかを明らかにし、その秘密が組織内で拡散され実践されるような仕組みをデザインすることで問題解決を促します。

ポジティブデビアンスアプローチの具体的なプロセス

1.定義(Define)

組織・コミュニティ内部から、そして広くステークホルダーを巻き込み、<問題/認識される原因/課題と制約/共通の行動習慣/望ましい結果>を定義する。

2.特定(Determine)

統計などの2次データから、PDである個人またはグループの存在を特定する。PDには自分と同等かもしくはそれ以下の環境の成功例を選択する。この際にTBU(True but useless)はPDからは除外する。
※TBUとは成功事例でありつつも成功要因が才能などに起因しており周囲が自身と重ね合わせて共感できない、あるいはそもそも模倣不可能として役に立たない事例のことです。

3.発見(Discover)

調査及び観察を通して、例外的であるが成功している行動や戦略を発見する。WhatではなくHowの粒度で、実施されている行動や戦略を捉える。

4.デザイン(Design)

コミュニティのメンバーが発見された行動を実践できるための活動をデザインする。

5.モニタリング(Monitor)

プロジェクトや行動計画の結果をモニタリング・評価し、改善点を記録して共有することで更なる変化を促進する。そしてコミュニティが行動計画の有効性を見極めるのを助ける。

ポジティブデビアンスアプローチに適した課題

さて、ここまで説明したポジティブデビアンスですが、これがどのような場合において有効なのかについても触れたいと思います。PDアプローチの有名な事例として挙げられるのは、ベトナムの子供の栄養不良問題の解決や、エジプトの女子割礼習慣の低減など社会課題の解決例が多いです。もちろんビジネスの場面においてもPDが存在してさえすれば有効な手法であり、自社の組織改善に限らず、事業を通して社会課題の解決を目指す事業者にはとりわけ相性のいいソリューションかもしれません。とはいえ現状においてはNGOなどの社会課題領域で採用されることの多さがPDアプローチの特筆する点の一つと言えます。

その理由の一つとしてハーバード大のロナルド・ハイフェッツ氏の行なった組織における課題の「技術的問題」と「適応課題」との2種類への分類に当てはめるとポジティブデビアンスは「適応課題」のためにある手法とされています。宗教による男女差別問題などでは顕著ですが、そのコミュニティ特有の価値観などの文脈が絡み合った問題の解決に適しています。そしてそれらの問題の多くは顕在的でありながら複雑で規模も大きなものが多いです。
そのほかこのアプローチのメリットとしては、既にそのコミュニティで行われている解決策であるため対象組織との相性の良さは言うまでもありません。コミュニティ内で模倣可能な解決方法であり、コミュニティメンバーを巻き込んだボトムアップ型のアプローチであるためトップダウン型の解決策のように考えの押し付けにもならないことからコミュニティ内のメンバーからも受け入れられやすいことが挙げられます。こういった点から壮大な適応課題である社会課題領域で行動変容を強く促すソリューションを提供することができる方法論として求められているように思います。

PDを活用した課題の原因特定と機会探索

それでは、今回のシリーズのテーマである機会探索について考えたいと思います。
出典である『POSITIVE DEVIANCE 学習する組織に進化する問題解決アプローチ』では「問題は解決されるまで本当に理解することができない」と述べられ、当初の問題に対する解決策が見つかったとしてもそれを実行するにつれて新たな適応課題に行き当たり、それらを対処する中で問題がリフレーミングされ違う方向に展開していく、そして最終的な答えとなる解決策に到達した時初めて問題の全体像が理解できるといいます。
これは逆に考えれば、答えであるPDを発見するということは問題の全体像を理解することと同義だということではないでしょうか?

なぜならPDアプローチの特徴として成功例(=答え)から考えていくというその性質上、上記のように成功例を分析することで解決のプロセスも容易に明らかにすることができます。そしてそれは成功例が既に解決してしまっている、問題の解決に直結する原因の特定も可能としています。

例えば、問題は特定できているけれどもどこからアプローチしていいかわからない・問題の原因がわからないという時に、まず問題Aがあり、それを解決できているBさんがなぜかいる→BさんをリサーチしたらCという行動をとっていて、その人はCを通してDという適応課題を解決できている→問題を解決できてない人はDができてない、という構図になります。

そしてここから言えるのは、今まで解決したい問題ではあったもののその問題の複雑さや大きさゆえにどのようにアプローチすればいいのかわからず解決できないと諦めてしまっていた問題についても、解決可能なものとして捉え直すことができるということです。解決プロセスを通じた新たな適応課題の発見によって問題が再定義されていく。つまり、解決不可能だと思われた問題を解決可能な機会にするのがPDアプローチです。
そしてこうして得られた新たな機会からソリューションを考案することは、解決される問題の大きさに比例してインパクトの強いイノベーションを起こす可能性を秘めているかもしれません。


これまで全6回にわたってmctの機会探索について、特にアノマリーという考え方について紹介してきました。すでに現れている兆しに目を向け機会となる可能性を探ることで、まったくのゼロの状態から機会を探索するよりも、すばやく、効率的に機会を捉えることができると考えています。
今回の機会探索やアノマリーについて、「もっと詳しく知りたい」「勉強会を開催してほしい」などリクエストがありましたら、弊社メンバーやウェブサイトよりお問い合わせください!

参考文献
『POSITIVE DEVIANCE 学習する組織に進化する問題解決アプローチ』
電通報:「ポジティブデビアンス」のススメ。現場に埋もれたイノベーションを探し出せ!

連載コンテンツ
第1回:イノベーションの兆しを捉えるアプローチとマインドセット

第2回:アノマリードリブンで兆しを発掘する
第3回:アノマリーに潜む機会に気づくための「多様なメガネ」
第4回:アノマリーに着目した3つのタイプの機会探索ユーザーリサーチ
第5回:機会探索ユーザーリサーチとしてのインクルーシブデザイン活用
第6回:ポジティブな外れ値に学ぶ問題解決アプローチ「ポジティブデビアンス」

mctについて

mctでは、機会探索から、市場や顧客の理解、コンセプトの創出、ビジネスデザインまで、インサイトを共有しながら事業開発/デジタル変革を支援しています。
具体的には、伴走型でビジネスアイデアを磨いたり、企業の事業創出プロセスを整備したり、事業創出を担う人材の育成も支援したり、社会課題解決を目指す共創エコシステムの運営を支援したり、ビジネスデザインについて幅広く支援していますので、少しでも興味があればウェブサイトを覗いてみてください。https://mctinc.jp/service-bddx

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