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ある豆腐屋さんとの思い出

毎年百貨店の物産展にやって来る馴染みの豆腐屋さんがありました。

明治時代から続いている老舗だったそうです。

豆腐屋のお母さんはしっかり者。お父さんは?

お店をお手伝いしている方によると、お父さんは商売が下手。物産展で赤字を出してお母さんに叱られているとのことでした。

確かに、お父さんはあまり声が出ていませんでした。

一方、お母さんは社交的。

「お母さん、また来たよ~♪」と私。

「あ~ら、来てくれたの~」とお母さん。

商品を一通り眺めて、新製品を探します。

「お母さん、これ何?前、無かったやん。どんな味すんの?」

試食が出てきます。「へぇー、美味しいやん」

どんな商品も、とてもおいしい豆腐屋さんでした。

とりとめのない会話(主に新製品についてのインタビュー)を重ねて、商品を購入。周りを見渡して、誰もいないことを確認します。

そこで一言「お母さん、なんかおまけしといて」とささやく私。

お母さんは、もったいぶりながら(でも、笑顔で、そして心得たように)おまけをしてくれました。

「お母さん、また来るね~」手を振ってお別れです。

この一連の流れが何年も続きました。二人の間のお決まりのコースでした。

ある日、ふと倒産情報を検索していたら、偶然この豆腐屋さんの名前を見つけてしまいました。

もう、あのお父さんとお母さんに会えないんだなぁ。

そう思うと、とても寂しい気持ちになりました。

美味しいだけでは生き残れない。今後、商売には何が必要なんだろう?

昔、深夜番組に出ていた愛田武さんのことを思い出しました。

どうやったら品物が売れるかと尋ねられた彼の言葉です。

「あんた達、なんか勘違いしてない?」

「品物を売るんじゃないの。わたしを売るの。わたし!」

「品物なんか後からついてくるんだから」

百貨店の物産展でこれができていた社長さんを一人だけ知っています(この方については、機会があれば書いてみようと思います)。

ほとんどの方ができていません。こちら側から働きかけて、ようやく店主のお人柄や、商品に対する思いが分かる、そんな感じです。

とても、もったいないことだと思うのです。まずは、声を出してお客さんを呼び止めてみませんか?




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