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炎症反応を抑えることは心臓病予防につながる?動脈硬化性疾患の予防に対する抗炎症アプローチの軌跡

地域医療ジャーナル 2022年2月号 vol.8(2)
記者:syuichiao
薬剤師


 血管が弾力を失ってしまう動脈硬化は、心筋梗塞や脳梗塞の原因として知られています。動脈硬化は高血圧や糖尿病、喫煙、運動不足などによってもたらされますが、その発症には炎症反応も重要な役割を果たすと考えられています【1】。心臓病(動脈硬化性疾患)の予防に対する抗炎症アプローチは2008年に報告されたJUPITER試験【2】の結果が示唆に富みます。

 JUPITER試験は血管内の微細な炎症反応(高感度CRP)が検出された17,802人を対象に、ロスバスタチンの有効性を検証したプラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験です。ロスバスタチンをはじめとしたスタチン系薬剤には、コレステロールを下げる働きだけでなく、抗炎症作用も知られていました【3】。JUPITER試験は、ロスバスタチンの抗炎症作用が、心筋梗塞や脳卒中の発症リスクを下げるのではないか? という仮説を検証するために行われたのです。そのため、コレステロール値は正常で、これまでに心臓病を発症していない人が被験者となっていました。

 その結果、ロスバスタチンはプラセボに比べて心臓病の発症(心筋梗塞、脳卒中、狭心症による入院、血行再建術、心血管疾患死死亡の複合アウトカム)を有意に抑制(ハザード比0.56[95%信頼区間0.46~0.69])したとして、大きな注目を集めました。心臓病を発症していない集団において、ロスバスタチンがもたらした44%のリスク低下という数値は、極めて大きな効果だと思います。一方で、この解析結果については、強いバイアスの影響を受けている可能性も指摘されており【4】、心臓病予防に対する炎症を標的とした治療の有用性を裏付ける決定的な根拠とはなりませんでした。

 

【カナキヌマブからコルヒチンへ】

 抗炎症治療と心臓病予防に関して、2017年にはカナキヌマブのプラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験【5】が報告されています。カナキヌマブは強い炎症反応を引き起こすインターロイキン-1βという体内物質の働きを抑えるモノクローナル抗体です。CANTOS試験と名付けられたこの研究では、血管内に微細な炎症反応を検出し、心筋梗塞の発症経験を有する10061人が対象となりました。被験者はカナキヌマブ50mg/日、150mg/日、300mg/日投与群と、プラセボ投与群の4群ランダム化され、心臓病の発症リスク(心筋梗塞、脳卒中、心血管死亡の複合アウトカム)が検討されています。



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