見出し画像

エンパグリフロジンはHFpEFに対する薬物療法にパラダイムシフトをもたらすのか!?

地域医療ジャーナル 2022年5月号 vol.8(5)
記者:syuichiao
薬剤師


 SGLT2阻害薬のエンパグリフロジン(ジャディアンス®)は、血糖降下薬でありながら慢性心不全にも保険適用を有する薬剤です。ただ、同薬の製剤添付文書では、効能又は効果に関する注意として『左室駆出率の保たれた慢性心不全における本剤の有効性及び安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与すること』と明記されていました。

 慢性心不全は、左室駆出率が低下した心不全(heart failure with reduced ejection fraction.以下HFrEF)と左室駆出率が保たれた心不全(heart failure with preserved left ventricular ejection fraction:HFpEF)に分けることができ、一般的には左室駆出率が40%以下をHFrEF50%以上をHFpEFと分類します。しかし、左室駆出率は(当たり前ですけども)連続変数ですから、HFrEFとHFpEFの境界を明確に特定することは困難です。そのため近年では、左室駆出率40-50%の心不全をHFmrEF (heart failure with mid-range ejection fraction)とし、駆出率を3つに分けることが一般的となりました【1】。

 心不全の薬物治療はβ遮断薬やアルドステロン拮抗薬が基本となりますが、HFpEFに対する有効性は極めて限定的であることが知られています【2】。エンパグリフロジンも、原則的にHFrEFの治療のみに保険適用が認められていました。

 そのような中、2022年4月6日付でエンパグリフロジンの製剤添付文書が改定されました【3】。今回の改訂では『左室駆出率の保たれた慢性心不全における本剤の有効性及び安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与すること』が削除され、『「臨床成績」の項の内容を熟知し、臨床試験に組み入れられた患者の背景(前治療等)を十分に理解した上で、適応患者を選択すること』と改められています。事実上、HFpEFに対しても保険適用を獲得したことになります。

 この記事では、慢性心不全に対するエンパグリフロジンの有効性・安全性について整理しながら、同薬がHFpEFに対する薬物療法にパラダイムシフトをもたらすかどうかについて考察します。



ここから先は

4,014字 / 1画像

¥ 100

いただいたサポートは記事充実のために活用させていただきます。