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もうひとりの私とすれちがった日

土曜日。子が昼寝から覚めて3時、あれこれやって「じゃあよろしく」と夫にいって家を出たのは4時だった。

外は春。大きめのリュックに白いスニーカーで線路沿いを行く。二駅分歩くと決めていた。

線路沿いはいい。まっすぐ歩けば目的地に着くから。「何も考えない」というぜいたくを体いっぱい味わえる。ほとんど瞑想みたいに。

頭をからっぽにして、道に転がる棒になって、歩いていく。

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商店街がちかづくと、スパイシーないい匂いがした。韓国料理のお弁当屋さん、出来上がりを待つ人がみんな鼻をくんくんする。

となりの小さな書店に入ると、本が集まる場所の匂いをずいぶんひさしぶりに嗅いだことに気づいた。雑誌を読んで、文庫を眺めて、もう一度雑誌に戻って、暮しの手帖を買った。みてるだけで元気になりそうな特集だったから。ボールペンの替え芯もやっと買った。

夕焼けの商店街。人を避け犬を避け、今度は踏切をわたって駅の西側へ。からあげ福のから、青果屋よこみね、靴の修理店、だんご屋たかの、こっちもにぎやか。

ゆっくり歩いてから、商店街の終わりのドトールでカプチーノを注文した。硬めの椅子に尻が吸いつく。買った雑誌を開いたり、閉じたり。作業をしたり、ぼーっと外を眺めたり。

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育児は大変で、たのしい。子どもは大切で大好き。だけど私は、同じくらい「ひとり」も大好きだった。ひとりでぼんやり歩いたり、本屋で寄り道したり、喫茶店でぼーっとしたり、そういう時間を愛していた。

子が産まれてからの1年、そういう時間がまったくなかったわけじゃない。むしろ1時間とか2時間とかなら何度もある。貴重で大事な時間だったけど、正直それじゃあ全然足りない。

2人も3人もいいけど、たまにはこうしてひとりで歩きたい。ひとり気ままに、時間を気にせず。どこまでも。今日みたいに。


すっかり暗くなった帰り道、もうひとりの私がむこうからやってきた。踏切をわたってこっちにむかってくる。ずんずん大股で。

すれちがう瞬間、

「いいじゃん、そうやって自分のこともしつこく大事にするんだよ」。

じゃれるように体を寄せて笑った。


夜の公園では、大きなコブシの木に白い花がめいっぱい。日が落ちているのに、そこだけぼうっと光ってみえた。

月曜日はこの公園にしよう。ちょっと遠いけど朝一番に来て、子どもといっしょにこの花を見上げようとおもった。

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川瀬はる

読んでくださってありがとうございます🐨

うれしいです
▶︎コミックエッセイや文章を書いてます▶︎ レタスクラブWEBで連載中「自分をとり戻すまでのふしぎな3日間」https://www.lettuceclub.net/news/article/1032172/