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【退職金が消えた日。〜笑い飛ばしてくれた妻へ】

ガンが見つかった時には
すでにステージ4だった妻。

享年74。

闘病たった数ヶ月で
逝ってしまったのだそう。

その亡骸を愛しげに
見つめながら
ご主人がこう話を切り出しました。

「俺な、、、
 まだこいつに借金を
 返し終えてないんだよ」と。

借金?
そう聞き返した私に
ご主人はこんな夫婦のお話を
教えてくれたんです。


長年勤めあげた会社を
定年退職してしばらく経った時の事。

ご主人はその手にした退職金で
「投資」という
どでかいギャンブルに出たんだって。

大した知識も持たないまま
金融マンの薦める投資に
手を出したご主人。

最初は退職金の半分だけ。
勝負に出た。

すると。
おもしろいように
それが当たったのだそう。

「まだまだ上がりますよ‼️
 勝負するなら今しかないですよ。
 資産倍増なんかすぐですよ。」

金融マンの甘いささやきに
なびいてしまったご主人は
一世一代の勝負に出たの。

残りの退職金も全て
投資に回した。。。

…。
……。

嫌な予感がするよね?
はい。正解😭

その一世一代の勝負のあと
間もなく、、、
思いもしなかった
リーマンショックの波が
あっという間に
全てを飲みこんでいったんだそう。

見るも無惨なことになってしまった
ご主人の退職金。

約40年分の
血と汗と涙の結晶が
紙くず同然になってしまった訳だ。

「この金はな
 俺だけのモンじゃないからな。
 半分は
 ずっと俺を支えてきた
 こいつのモンだからよ。

 こいつにな
 申し訳なあて。
 申し訳なあて。

 土下座する覚悟で
 こいつに話をしたんだ。

 そしたらな。。。」

ご主人は
次の言葉を続ける前に
もう一度
亡き妻の遺影を
ジッと見つめてから
一つ、大きく息をついた。

そして目を潤ませながら
こう続けてくれたの。

「申し訳ない‼️って
 こいつに謝ったらな
 こいつはさ
 ゲラゲラと笑ったんだ。

 「それはそれはまたお父さん。
  男らしい賭けに
  出られたものですね。」って
 涙流して笑うんだよ。

 でな。
 
 「お父さん。
  私はね、その退職金を
  半分は私のものだと
  そう思ってくれていた
  お父さんの気持ちだけで
  もう十分よ(^ー^)」って言うんだ。

 な?
 あんた言えるけよ?
 そんなこと。
 やせ我慢したとしても
 言えんやろ?

 でもうちのは
 そう言ったんだ。

 でも俺だって
 はい。そうですか。
 ちゃ言えんかろ?

 それにもこいつは
 気がついてくれたんだろな。
 都合悪そうにしてた俺に
 こいつはこう続けたんだ。

 「お父さんの気持ちが
  それでおさまらないのなら
  私はあなたに
  その退職金の半分を
  貸しにしておきますね。

  返済は、、、そうね、、、
  私が将来
  死ぬほどの病にかかった時
  必ず側にいてくれること。

  毎日顔を見せてくれること。

  もちろん。私より
  先に死なないこと。

  一年で完済にしてあげるから。

  どんな姿に私がなっても私の側に
  ちゃんといて下さいね」ってな。

 でもな。
 あいつは闘病数ヶ月で
 逝ってしもたからよ。

 俺は半分しか
 借金返せてないんよ。

 俺はよ…
 返すことすら出来なかった
 ろくでなしの亭主なんよ、、」

ご主人がそう話し
ポロポロと涙をこぼした
通夜の夜。

「おらぁ、ろくでなしやけど
 こいつはホント
 最高の女なんだ。

 こんないい女房
 世界中探したって
 そうそういやしねぇ。

 幸せやった。
 おらぁ
 こいつと一緒になれて
 本当に幸せやった。

 こいつは…
 どうだったんやろな?」

大粒の涙をこぼしながら
そう言葉を添えたご主人。

「幸せだったんだと思いますよ。
 奥様も。絶対に。

 じゃなきゃ。
 笑えませんって(^ー^)
 そんなおおごとしでかされて。
 絶対笑えないもの。

 それに。
 最期に側にいて欲しいと
 願う相手は
 一番心和む相手ですからね。

 奥様は
 ご主人といた日々を
 まるごと愛しておられたんですね。」

慰めじゃなくて
心からそう思った言葉を
ご主人に投げ返した私。

「そうかのう。
 そうかのう。

 そうならいいのう。」

そう言い
また愛おしげに
奥様のご遺影をみつめたご主人。


これはちいさな町に暮らした
一組の夫婦があゆんだ道のお話。

本当にあった
愛の物語。

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