死霊術師と不死の体

運命なんて信じかけた私が馬鹿だった。
「やっぱり見込んだとおり、素敵な骨格よね」
その運命を信じた相手は、今の私を見てうっとりしている。
何が起きたのか──思い返してみる。

今日は学園の入学式だ。
私たち冒険者見習いは、この学園で冒険者としての基礎を学んで巣立っていく。
今日はその第一歩だ。
私は今日からこの学園の一年生だ。
私の周囲には同じく冒険者見習いの皆が期待に胸を膨らませている。
その中で一人、ふと目があった子がいた。
「おはようございます」
その子は私の目線に気付くと、礼儀正しく挨拶をしてくれた。
私も挨拶を返すと、その子はにんまりと微笑んで去って行った。
うん。なんか良い感じ。運命的なものを感じる。
これからの学園生活、きっと良いことがありそう!
「あの……」
あれ?さっきの子だ。何か用でもあるのかな?
「よろしかったら、ちょっと付き合ってもらえますか?」
何だろう。なんかもじもじしている。
その仕草も何だか可愛らしい。
いいよ、と私は快諾した。
「その、気持ち悪いと思われるかもしれませんが……」
その子に付いていく道すがら、その子は私に背を向けながら言った。
「この出会いは運命だと思うんです。どうしても私、あなたじゃなきゃ駄目みたいで……」
唐突な告白に、私もつい胸が高鳴ってしまう。
入学したてのテンションもあってか、私も運命だと思う、とつい浮かれた返事を返す。
「嬉しい!じゃあ……」
ふと気付けば、人気のいない場所にいた。
ここなら大声を出しても気付かれない、そんな場所。
「……死んで」
その子がそう言うと、何かが私のお腹に刺さっていく感触がした。
「大丈夫。すぐに楽になるから」
そういうその子の手には刃物が握られていた。
刃に付いた血は私のだろう。
不思議と痛みは無かった。
魔法?毒?私の意識はあっという間に黒く塗り潰されていった。

──そして、気付くと、私は見知らぬ薄暗い部屋にいた。
私、一体どうなってるの?
「気付いた?成功したみたいだね」
成功?何が?何をされたの?
ふと私は自分のてを見てみた。
──骨?
「そう、骨。これからは私のスケルトンとして一生、私に尽くしてもらうよ」
その子はにやりと笑った。
運命なんて信じかけた私が馬鹿だった。
「やっぱり見込んだとおり、素敵な骨格よね」
その運命を信じた相手は、今の私を見てうっとりしている。
何これ?死霊術ってやつ?
一生?このまま?
……嫌!
私がそう思うと、突如、私の体が光り始めた。
「何?何が起こっているの?」
その子は怪訝な顔で私を見た。
光が私を包み込むと、見る見るうちに私の体は元に戻っていった。
血管、筋肉、皮膚。あっという間に元の体に戻っていった。
何?一体何が起こっているの?
「嘘?私の死霊術は完璧だったはず」
お互いに何が起こったか解らないと言った状況だった。
ただ一つ確かなのは。
──戻った!元に!
私の手はしっかりと肉が付いていた。骨じゃ無い。
「嘘……嘘だ、嘘だ」
その子は虚空を見つめ、壊れたように繰り返す。
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!」
その子は地団駄を踏んだ。欲しいものが手に入らなかった子どものように。
「ようやく見つけたと思ったのに!私の理想のスケルトンが!なのに何が起こっているの!?」
私はその子の事をただ黙って見ていることしか出来なかったが、次にその子がなんて言い出すかは予想出来た。
「もう一回!もう一回殺させて!」
嫌だよ!私は取りあえずその場から逃げ出した。

──そうして私は。
常に命を狙われる学園生活を過ごす事になった。
一体、何の力が働いて、私は生き返る事が出来たのか。
その謎に向かい合いながら。

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