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14 中英共同声明と香港基本法を改めてしっかりと確認する(前半)

中国の全人代が突如として香港への国家安全法制導入を表明してから、盛んに香港の政治制度について議論がなされています。

このような場合、一次文書に目を通しておくことはとても重要です。

現在の香港の基礎となっている中英共同声明と香港基本法をしっかりと理解してこそ、国際社会としていかに中国共産党の行っていることが違法なことなのか指摘ができると思います。

最近香港に興味を持った人にも効率的に読んでもらえるよう、最近の話題に関係のある個所のみ抜き出しました。

前半は中英共同声明についてです。

中英共同声明(必要箇所抜粋)

翻訳は政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所日本政治・国際関係データベースに負っています。

URL:https://worldjpn.grips.ac.jp/documents/texts/docs/19841219.D1J.html

(中英共同声明の始まり)

 中華人民共和国政府とグレートブリテン・北アイルランド連合王国政府は満足の意をもって近年の両国政府と両国人民の友好関係を振り返るとともに、歴史的に残された香港問題を協議を通じて妥当に解決することが香港の繁栄と安定の維持に役立ち、新たな基礎に立つ両国関係のいっそうの強化、発展に役立つと見る点で見解の一致を見た。そのため、両国政府代表団は会談をへて、次のように声明することに同意した。

(ポイント)

香港の繁栄と安定の維持のために中国政府の香港における主権の回復を宣言したものです。香港の衰退と崩壊のためではありません。

本声明はイギリスと中国の共同声明であって、誰に対して声明を出したのかというと国際社会に対してです。

つまりイギリスと中国は国際社会を保証人として約束事を表明したのです。


中英共同声明本文)

三、中華人民共和国政府は、中華人民共和国が香港に対し次のような基本的な方針、政策をとることを声明する。

(2)、香港特別行政区は中華人民共和国中央人民政府の直轄下に置かれる。外交と国防が中央人民政府の管理に属するほか、香港特別行政区は高度の自治権を享有する。

(3)、香港特別行政区は行政管理権、立法権、独立した司法権と終審権を享有する。現行の法律は基本的には変わらない。

(5)、香港の現行の社会・経済制度は変わらず、生活様式は変わらない。香港特別行政区は法律にもとづき、人身、言論、出版、集会、結社、旅行、移転、通信、罷業、職業選択、学術研究、宗教信仰の諸権利と自由を保障する。個人財産、企業所有権、合法的相続権および外部からの投資は、いずれも法律の保護を受ける。

(11)、香港特別行政区の社会治安は、香港特別行政区政府が責任をもって維持する。

(12)、中華人民共和国の香港に対する前記の基本的な方針、政策および本共同声明の第一付属文書の前記基本方針、政策に対する具体的説明については、中華人民共和国全国人民代表大会が中華人民共和国香港特別行政区基本法において規定するとともに、五十年間は同規定を変えない。

(ポイント)

(2)では外交と国防(軍事)以外においては香港が高度な自治権を持っていることが書かれています。外交と国防以外については香港は中国の干渉を受けず、独自の法律や社会制度に基づくということです。

(3)では西欧型の三権分立システムが取られることが記載されています。全人代の発表した中国による国家安全法制導入は明らかな立法権の侵害であり、国家安全法制の内容と運用によりますが、行政管理権や特に司法権の侵害が予想されます。

(5)では様々な自由や法律に基づく保護が書かれていますが、中国ではここに書かれている自由や保護はすべて存在しません。

(11)では当然のことが書かれています。正直、現在の香港政府は社会治安を保つことに自ら失敗していますので、批判を受けこそすれ、代わりに中国が香港の社会治安回復のために動くというのは言語道断です。

(12)ではいわゆる「50年不変」について書かれています。中英共同声明で書かれた基本方針は香港基本法で具体化され、それを50年変えないということです。1997年に返還されましたので、2047年までです。しかし折り返し地点に立つ前に早くも中国側は約束を守る気がなかったことがわかりました。


中英共同声明は本文の他第一~第三までの付属文書および覚書から構成されていますが、エッセンスとしては上記の抜粋のとおりです。


現在の中国の動きはイギリスとの中英共同声明の持っている理想を根底から覆すものです。


後半では香港基本法を見て、具体的にどの部分が問題となっているのかお示ししたいと思います。


今日も香港の状況は刻一刻と変わっています。そんな状況の深層を理解できるような基礎知識を得られる記事を目指しています。皆様からのサポートは執筆の励みになります。どうもありがとうございました