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前髪もパッツリだぞ!とっぽいショートカット

【ちゃお漫画の冒頭ページですか?】

と言いたくなるようなキャピキャピしたこの歌の入り。
うだるような暑さの中、夢見るように瞳と汗を輝かせて走るショートカットの少女が目に浮かぶようなこの曲は、スマイレージの『ショートカット』という曲の冒頭の歌詞だ。

スマイレージといえば、相次ぐメンバーの減少により波乱万丈な運命を辿った某ニーズのKAT-TUNやNEWSよりも悲惨な道を歩んでいると、いっとき話題になったつんく♂プロデュースハロープロジェクト発のアイドルグループである。

『ショートカット』は、初期スマイレージを象徴するかのような曲だ。
底抜けに明るくて可愛らしくて無邪気なのに、何故か泣きたくなるような切なさをはらんでいるのだ。

中学生の恋なのである。
もっというと、小学校高学年〜ローティーンの曲なのである。

夢と希望と愛と親と友達と学校と、労働の義務のない守られた場所。受験さえまだ知らない。明日を約束された世界で何もかもを手に入れた、この世で一番強い【子ども】の、【叶わないわけない恋心】を歌にしたのがこの『ショートカット』だ。
そこはかとない【ちゃお感】はそのためであろう。

じゃあ何故、言いようのない切なさがこの曲にはあるのだろうか?

子供時代は、永遠ではない。
彼女は知ることになる。部活での上下関係、進路に関わるテスト、素行がそのまま影響する内申点、自分の未来を今この手で選択する受験の苦しさ、思春期のうらはらな心、自分のことなのにままらない大人へ成長していく心と体。
守られ約束された【最強】の時期が終わろうとしている現実。

大人と子供の狭間の入り口、そんな場所にいる曲。
二度と帰らないけど、たしかに自分にもあった【最強】の時代。

それを思い出させるから、胸がキュンとなるんだろう……。

って、こんな明るい曲なのに、なんでこんな暗い文章書いてるんだ私は!!

ハチャメチャに可愛いのよ、初期メンバーの4人が!最強の子供時代とかそんなわけわかんねーこと抜きにして、とにかくキャピキャピ無邪気な4人が可愛いんだ!

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そして、ちょっとの憧れもある。
私は心配症な子供で、幼稚園の頃にはもう、叶わない現実があることを知っていた。
幼稚園児の私は、セーラームーンのあみちゃんになりたくて、髪をバッサリ切った。

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……鏡の前にいたのは、ワカメちゃんだった。

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私はセーラーマーキュリーにはなれなかった。

『ショートカット』の女の子みたいに、自信溢れて【叶わないわけない】なんて思える恋をしたことは、なかった。

「いっぱい恋して いっぱい目立って いっぱい友達作って」
「いっぱいやんちゃして いっぱい学んで 失敗したってくじけないもん」

そんなふうに、中学生の私は思えなかった。
恋なんて不相応なことは願わなかったし、目立つことは嫌いだったし、友達はちょっぴり欲しかったけど、気心の知れた少人数と笑っている方が気楽だった。
やんちゃなことをしたら怖い上級生ににらまれるし、勉強は嫌いだったし、失敗をして怒られたり惨めな思いをすることが何よりも怖かった。

「怖いものが一個あるとすれば それはこの若さのパワーかも」
なんて、口が裂けても言えっこない中学生だった。

「そんでできるならば やっぱアイツと腕を組んで 世界中を旅したい!」
私にとってのアイツって誰だろう?
世界中を旅するのはいいけど、時間とお金は……。

そんなことばかり、理由をつけて夢をみて叶わなかったときの惨めさばかり怖がって、
私は、この世の何もかもが怖かった。

セーラーマーキュリーになれなかったショックで、あれから一度もショートカットにしていない私は、『ショートカット』で描かれる女の子の、真反対にいる女の子だった。

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憎たらしいほどに、衣装も可愛いんだ。この曲は。まるで天衣無縫の擬人化だ。

きっと、当時のスマイレージと同い年のときにこの曲を聞いていたら、大嫌いな曲になっていただろう。
それほど、この曲は無邪気で、私が夢見ることさえできなかった【最強】を、ありのままに具現化している。
自分のコンプレックスを、えぐるように。

だけど、
大人になった私は、それすらも、
ちょっと愛おしいなと 思えるようになったのだ。

成長したな、私。

令和3年目の夏の終わりに、自分の青春を肯定してあげるのだった。

#夏に聴きたい曲

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