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超過死亡率と接種率の相関関係

前回はオミクロンインデックスとワクチン接種率との相関関係について解析しました$${^{1)}}$$。人口密度、ワクチン接種率、感染率、死亡率、致死率を説明変数として重回帰解析を行うと、欧州の国々では感染率オミクロンインデックス(iOI)にワクチン接種率は正の寄与をするのに対し、日本では負の寄与をすることを述べました。

死亡率オミクロンインデックス(mOI)や致死率オミクロンインデックス(fOI)では欧州でも日本でも有意な寄与はありませんでしたが、超過死亡率を指標にすると有意な負の相関があることが報告されています$${^{2)}}$$。

超過死亡率は感染者の中で死亡した人を追跡する死亡率と異なり、ワクチン接種がなかった場合に予想される集団全体での死者数と実際に観測された死者数との差を計算したものです。国全体での総合的なリスクやベネフィットを評価する上で重要な指標となるでしょう。

またコロナによる感染率や死亡率は検査の方法や検査率、死亡の定義や報告率などで数値が大きく変わってきます。国全体の死者数で評価する超過死亡率ではより客観的なデータが得られるように思います。

超過死亡の中には、コロナにより死亡した人ばかりでなく、ワクチンによりコロナによる死亡を免れた人、ワクチンの副作用で亡くなった人、コロナやワクチンが癌、老衰など他の原因による死亡を増やしたり減らしたりした間接的な影響なども含まれます。さらに、ワクチン接種とは全く関係ない自然災害などの影響も入ってくるので因果関係はより複雑になります。

1. 欧州の超過死亡率と接種率の相関関係

世界の2021.11.30のワクチン接種率の超過死亡率 (P値)は「Our World in Data」で調べることができます$${^{3)}}$$。P値は次の式で計算します。

P (%)=100x(実測値-期待値)/期待値

欧州の人口100万人以上の国では43カ国について超過死亡率の掲載があります。感染者数と死亡者数は厚労省のサイトから抜き出しました$${^{4)}}$$。

確率分布として標準化するためにデータは「(実測値-平均値)/標準偏差」に置換えて計算しました。このことにより、重回帰分析をしたとき説明変数の係数(偏重回帰係数$${^{5)}}$$)を比較することでその寄与度を評価することが可能になります$${^{1)}}$$。

こうしてワクチン接種開始後の2020.12.1-2021.12.1の期間の超過死亡率と2021.12.1までのワクチン接種率との相関関係をみると有意な負の相関がありました (R=-0.4652、p=0.0017: 図1A)。Rは相関係数で一般に次のように考えます。

0<Rの絶対値<0.2:無視できる相関関係

0.2<Rの絶対値<0.5:弱い相関関係

0.5<Rの絶対値<0.8:中等度の相関関係

0.8<Rの絶対値<1:強い相関関係

pは危険率で「無相関という関係(R=0)である確率」を示し、一般に0.05以下なら統計学的に「有意」な相関があるとみなされます。

しかし、ワクチン接種開始前の2020.1.5-2020.11.30の超過死亡率も有意ではありませんがワクチン接種率と弱い負の相関を示します(R=-0.2525, p=0.1023)。

このことは2020.12.1-2021.12.1の期間で認められた超過死亡率の負の相関が必ずしもワクチン接種に起因するものではないことを示唆します。ワクチン接種による超過死亡率への影響を評価するためにはワクチン接種前の値で標準化する必要があります。

しかし、単にP値で標準化するわけにはいきません。例えば、接種前のP値が-10%で接種後に10%に増えた場合、単純に接種前の値で割れば-1となり超過死亡数は減少したことになってしまいます。

そこで接種前後の相対死亡率 (100x実測値/期待値)を計算してその比率を計算することにより標準化し、こうして得た標準化相対死亡率から標準化超過死亡率 (標準化相対死亡率-1)を計算することにしました。

「P(%)=100x(実測値-期待値)/期待値」ですから、「相対死亡率(%)=実測値/期待値」は「P+100」で計算できます。対象期間の相対死亡率を対照期間の「実測値/期待値」で割り、その比率をとることにより標準化を行いました。

このようにして標準化した2020.12.1-2021.12.1の超過死亡率と接種率との相関係数は-0.1182 (p=0.4500)となり、超過死亡率と接種率にはほとんど相関関係がないことがわかります(図1B)。

同様にオミクロンが猛威を振るっている2021.12.1-2022.2.1の超過死亡率と接種率との相関関係をみると有意ではありませんが正の相関係数を示します(R=0.1957, p=0.2324: 図1C)。標準化するとさらに正の相関が強くなり統計的に有意な値を示すようになります(R=0.5381, p=0.0001: 図1D)。

オミクロン株が流行している2022年のシーズンではワクチン接種はむしろ相対死亡率を上げていると考えられ、デンマークでのワクチン接種による感染率の増幅の報告$${^{6)}}$$と一致します。

どのような国で標準化超過死亡率がふえているのか調べるため低い値と高い値を示す上位10カ国を比較してみました。すると標準化超過死亡率が高い国は全て西欧諸国で、低い国は全て東欧諸国でした。同様に、ワクチン接種率の高い国は全て西欧諸国で、低い国は全て東欧諸国でした(表1)。

西欧諸国ではワクチン接種などの強い対策をしたためコロナ以外の死者が減少し2021年の超過死亡率が減少したものの2022年ではワクチンによる副次的な効果により逆に超過死亡率が上がっているのかもしれません。

2. 日本の超過死亡率と接種率の相関関係

日本の県別超過死亡率についても検討してみました。コロナの感染者数や死亡者数は厚労省のホームページから$${^{4)}}$$、超過死亡者数については「日本の超過および過少死亡数ダッシュボード」が公表しているデータ$${^{7)}}$$から抜き出しました。

ワクチン接種が始まった2021/2/1から2021/11/30の期間の超過死亡率について標準化したものと比較したところ、欧州と同様に超過死亡率と接種率は有意な負の相関がありましたが (R=-0.4254、p=0.0029)、標準化すると有意な相関がなくなります (R=-0.1477、p=0.3217) (図2)。ワクチン接種前の2020/4/27-2021/1/31の期間の超過死亡率については有意な相関は認められません (R=-1676、p=0.2601)。

有意な相関が認められた2021/2/1-2021/11/30の期間の標準化超過死亡率を目的変数、同時期のワクチン接種率、感染率、死亡率、致死率を説明変数として重回帰解析をすると有意な相関が認められますが(R=0.5131、F=0.011)、説明変数の偏回帰係数についてはいずれも有意差は認められません。

しかし、これら4つの説明変数の偏回帰係数の中では接種率のものが最も大きく(-0.3409、p=0.07)、多少は標準化超過死亡率の減少に寄与しているのかもしれません。

ベスト10とワースト10の県をみてみると、人口密度が高い東京、大阪、神奈川、埼玉、愛知、千葉、福岡、の6県は標準化超過死亡率が低い県には一つも入っていませんが、高い県には3県が入っています。接種率では低い県に4県が入りますが、高い県には入っていません(表2)。

そこで人口密度との相関をみてみると2020/4/27-2021/2/1の標準化超過死亡率とは正(R=0.3731、p=0.0098)、接種率とは負の(R=-3257、p=0.0255)、いずれも統計的には有意な相関がありました。

日本では人口密度の低い田舎ではメディアの恐怖を煽る報道の影響が高く、人々が積極的にワクチンを接種し、マスク、手洗いなどの対策にも積極的なため、超過死亡率が低く、ワクチン接種率が高くなったということかもしれません。

以上の結果を見てみると、昨年度の超過死亡率が欧州や日本で負の相関を示したのはワクチン接種に起因したというよりは、欧州では西欧諸国、日本では田舎でワクチン接種を含む強い対策を講じたためと考えることが妥当のようです。

今年度、欧州ではオミクロンの流行で超過死亡率が上昇しており、ワクチン接種率との有意な正の相関が現れています。欧州の傾向を考慮すると日本でもワクチン接種が超過死亡率の上昇を招く可能性は否定できません。

ワクチンによる高頻度の副作用を考慮すると超過死亡率抑制のためにはブースター接種の正当性はなさそうに思えます。しかし厚労省のデータでは日本のワクチンによる感染抑制率は80%もあり$${^{8)}}$$、増幅効果さえ認められる欧州とは異なる経過を辿る可能性も考えられます。

最近、厚労省のワクチン抑制率は誤りであり、実際には3回接種者で75%、2回接種者では10%の抑制率しかないことが明らかになりました (5/9-5/15)$${^{9)}}$$。日本でも欧州と同様の経過を辿る可能性が高いと思われます。

ただし、相関関係は必ずしも因果関係を示すものではなく、空間的、時間的に動的に変化する相関関係のスナップショットであることは認識しておかなくてはなりません。

このような考察をすると「反ワクチン情報は人の命を奪う可能性のある危険な情報だから発信すべきではない」という批判がでますが、医療行為を受ける人がリスクとベネフィットを理解することはインフォームドコンセントの基本です。

反対意見を封印するのではなく、幅広い情報を提供した上で接種を行うことがワクチンを推奨する国や専門家の義務であることはいうまでもありません。

$${^{1)}}$$https://note.com/mbi/n/n01ece154d3c3

$${^{2)}}$$https://twitter.com/covidacc/status/1496800738030198792

$${^{3)}}$$https://ourworldindata.org

$${^{4)}}$$https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00086.html

$${^{5)}}$$偏回帰係数:重回帰解析を行い、線形式で表現したときに現われる説明変数の係数。目的変数yが説明変数x,zでy=ax+bzで表現されるならa、bはx、zの偏回帰係数となる。偏回帰係数は他の要因を取り除いた独立した効果を表し、説明変数の目的変数との相関への貢献度の指標となる。

$${^{6)}}$$https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.12.20.21267966v3.full

$${^{7)}}$$https://exdeaths-japan.org

$${^{8)}}$$https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000913223.pdf

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000913223.pdf

$${^{9)}}$$https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000942849.pdf