新基準「京田ルール」=ブロッキングベースの影響、コリジョンとの違い

今回は話題の「ブロッキングベース」が野球に与える影響を考える。結論から言えば結構大きい変化になり得るし、基準作りが求められるルールである。
その辺りを、比較になっている、いわゆる「コリジョンルール」との違いも併せて考えていく。

まず、何があったかを確認する。
2023/8/18のDeNA-阪神の試合。9回表 阪神の攻撃。一死一塁の走者であるT熊谷敬宥選手の盗塁の場面。De山本祐大選手Cが二塁送球、京田陽太選手SSが二塁カバーから捕球→タッチ、判定はセーフだった。
リプレイを見ると、京田選手の身体が熊谷選手の足とベースの間に入り、ベースタッチの可能性を塞ぐ形に。ビデオ判定の結果、「足はベースに届いておらず、タッチもできている。よってアウト。」という中で判定が覆りアウト。

SNSでは「走塁妨害ではないか」「なぜ判定が変わったのか」と議論があった。まず、その場で審判が妨害があったと判断すれば、その場でボールデッドを宣告する。
つまり、即時判定でも妨害は認められていない。だから「妨害があった→なかった」という変化ではない。
次に、スロー映像を見ると京田選手は捕球した後に走路に入っている。守備者が捕球前に送路に入る場合は、公認野球規則に書いてある要件から審判の裁量によって妨害と判断される場合もあるが、捕球後はその限りでない。最終的な判定は妥当性が高いものだった。
「セーフ判定にするべきだ」というプロやSNSの意見もあったが、審判はルールを変える権限はない。捕球前に問題がなく、捕球した後にベースに触れてない走者にタッチすればアウトになる。審判はそう判断し判定した。野球はそういうもの。誤審ではないし、まして誹謗中傷を受ける理由は何もない。

その後、阪神が動く。このプレーについてNPBに問うことになり、NPBも応えた。
それが今回導入される「ブロッキングベース」である。「不可抗力でベースを完全に塞いでしまった上で、タイミングがセーフの場合」という基準だと報道されたが、まだ曖昧な部分がある。
危険な接触という点でコリジョンと比較されることもあるが、成り立ちからして全く違う。
コリジョン導入の理屈は公認野球規則の厳格な適用にある。
コリジョン導入以前、走者から捕手への強烈なタックルでの本塁生還が議論の対象になった。タックルした選手への批判の声は大きく広がった。しかし、それ以前に捕手による捕球前のブロック行為が横行していたのも事実である。送球を待たずに走路を跨ぐように立ち、走者に合わせて膝を落として走者を止めてタッチする。そういう " 技術 " があった。野球では本来認められていないことだが、本塁上の攻防として魅力とされることもあった。ちなみに、その当時から、今言われているような「二塁ベース上のブロック」は無かった。妨害だからではない。危険すぎるからだ。捕手には装備がある。本塁カバーする投手や二塁カバーする二遊間にはそれが無い。生身で衝突すれば危険だから、誰もしなかったのである。「京田が認められればみんなやる」という言説は歴史を無視している。

そこにメスを入れて「捕手の捕球前の動き」と「走者の捕手に対する動き」に制限を入れたのがコリジョンルール。つまり「本塁への衝突プレイ」に関する規則である。
ボールを持たない捕手は走路に立ち塞がることはできない、走者は走路を外れて捕手に向かうことはできない、そういう本来の規則の適用が厳格化され、危険なブロックとタックルはほとんど見なくなった。(適用基準が組織によってバラツキ、もう少し説明があってもいいとは思うが。)

他方、捕球後に走路に入り膝を落として走者とベースの間に入る行為自体は禁止されていなかった。なんなら「送球を十分に引きつけて、捕球に必要な動作の中で走路に入ること、そしてベースと走者の間に身体を入れること」すら、コリジョンは適用されない。それはプロ野球でも見られたし、今年もあった。その度に「コリジョン」がトレンドワードになるが、判定はアウト。
要するに、今回の京田選手のような守備が本塁で起きれば、何の問題もなくアウトとして処理されていた。

しかし今回のブロッキングベース適用により、それが変わる可能性がある。
コリジョンが「規則適用の厳格化」だとすれば、ブロッキングベースは「白を黒とするルールそのものの変化」である。全く次元が違う。
ボールを持った野手が走路に入るという、今まで何の問題も無かったことが問題になる可能性がある。ということは、どこまでが適用範囲なのか?は極めて重要になる。ベースとの距離、守備者の体勢、微妙なタイミングでボールを持つ野手が走路に立つこと自体は問題なのか等々、ある程度の基準や例示が無ければ審判も野手も難しいし、走者にも影響がある。危険だけを排除したとわかるルール作りと説明は重要になってくる。
SNSの批判が審判や選手に簡単に、過大に伝わってしまう社会では、ルール作りの説明は必要性が高い。
今回の基準導入で危険なプレーは減るかもしれないが、影響の大小はまだわからず、「当たり前のルール変更だ」と言えるほど小さな変化でもないし、基準が曖昧なのか厳格なのかもわからない状態になっている。適用を急いだ形だが、そのあたりの詰めは今後明らかになる。

最後に、あのプレー以来「審判の裁量に任せるな」という批判もあったが、ブロッキングベースは明らかに審判の裁量が重要になる。タイミングを判断するのは審判だし、どこまでをベースブロックだと判断するかも審判だからだ。
そもそも野球は審判の裁量に支えられた競技である。誤審=規則無視との審判批判の声も多いが、その規則に審判の立場と役割がちゃんと書いてある。
その上で、ブロッキングベースの定義や基準、例示をもって規則に付記されることを望む。

長い駄文を最後まで読んでいただきありがとうございました。

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