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【感想】『多様性の科学』が導く集合知
こんにちは、白山鳩です! クルッポゥ!
マガジン『本を読んだら鳩も立つ』での本のご紹介です。
前回の記事はこちらです。↓↓↓
今回取り上げるのは、『多様性の科学』です。
著者マシュー・サイドは、『失敗の科学』のでも有名なので、ご存じの方も多いかもしれません。
『多様性の科学』の主張を簡単にまとめると、
「画一的な集団よりも多様性のある集団の方が、
問題解決や失敗の防止に有利ですよ」
というものです。
では、以下で詳しく見ていきましょう!
世紀の発明も偏見が邪魔をする
少し長いのですが、まずは、同書で紹介される、とある事例を引用します。
あるイノベーションに関するストーリーです。
彼は思った。
スーツケースはとにかく重くて扱いにくい。
それで自分も腰を悪くした。
いっそ単輪(キャスター)を付けてみたらどうだろう?
(中略)
「飛行機を降りたらまたあの思い荷物か……」
と憂鬱にならずにも済むだろう。
しかも今は世界中で観光が大衆化しつつある。
この時代に最高のアイデアではないだろうか?
ブルームは早速スーツケースにキャスターとハンドルを付け、
その試作品を持ってアトランティック・ラゲッジ・カンパニーの会長に伺いを立てた。
彼は会長からのゴーサインを期待していた。
ほぼ確信していたと言っていい。
材料費は安いし、今売り出し中のスーツケースにそのまま付けられて販路にも困らない。
何十億ドル(何千億円)規模の世界市場を独占できる。
ところが会長の口から出てきたのは
「実用的でない」
「不格好」
という言葉だった。
結局ブルームの案は、
「誰が車輪付きのスーツケースなんてほしがるかね」
と一笑に付された。
ここまで読み終わって、みなさんはどんな感想を持たれたでしょうか。
こんな会長の先入観で、あっさり個人のアイデアが損なわれるばかりか、
数千億円の市場を逃すなんて、悪夢そのものですよね。
これは、
多様性のない組織が、個人のアイデアを端から否定してしまうことで、
イノベーションが起こらなくなる事例
として紹介されています。
チームの行先は「集団浅慮」? 「集合知」?
『多様性の科学』は、「集団が生み出せる力」に焦点を当てた本です。
「現代社会が直面する難題は、ほぼすべてチームで解決に当たっている」
とし、その具体的な事例として、次のようなものを挙げています。
・理工学分野では、全論文の90%がチームによるもの
・アメリカで1975以降に出願された特許の200万件のあらゆるカテゴリーで、チームによる出願が個人のそれを上回っていた
・株式ファンドはチームによる運用が圧倒的に多い
このように「チームによる価値創造」が強調されていると、
こう思う人も出てくるのではないでしょうか?
(でも、人間って集団になると、
変に自信過剰になったり、
リスキーな行動を取ったりするって聞くけど……?)
たしかに、集団で意思決定する際、
リスクを十分に検討しないまま、愚かな決定をすることがあります。
これを「集団浅慮(グループ・シンク)」と呼びます。
また、他人の行動に同調してしまう結果、
組織全員が非合理な方向へ走ってしまう……。
これは、「群衆心理(ハーディング)」と呼ばれます。
確かに人間は、集団になると困った過ちをすることもあるようです。
しかしこれは、「集団になったから」と言うよりも、むしろ、
「集団が、多様性のない、画一的な集まりだったから」
に原因があるのではないでしょうか。
『多様性の科学』では、
多様性に欠ける画一的な集団はクローンの集まりのようなものであり、
チームというよりは個人のようなものだ
という主張が、一貫して繰り返されています。
多様性のある組織になることで、
個人や、画一的な集団が犯す過ちを防げる
というのが同書の主張なのです!
個人は盲点を見ぬけない:ウェディングリスト・パラドックス
「画一的であること」の問題点について、もう少し深掘りしてみましょう。
『多様性の科学』では、
「1人では、多面的なものの見方ができない」ことの例として、
「ウェディングリスト・パラドックス」
という、ユニークな事例を挙げています。
結婚式を間近に控えたカップルは、招待客に向けて、
お祝いにほしいプレゼントのリストを用意することがある。
しかし面白いことに、
招待客はリストを無視して、
自分が独自に選んだプレゼントを贈って喜んでもらおうとすることが多いという。
(中略)
なぜそんなことになるのか?
原因はもちろん盲点だ。
人はなかなか自分の枠組みから抜けられない。
贈る側は自分がそれを受け取ったときにどう感じるかを想像する。
だから無意識に自分が気に入るものを贈ろうとする。
みなさんもぜひ、お父さな、お母さなや上司の方々が、
「おまえのために言ってるんだよ」
といつもの口癖を言ったときには、
「ウェディングリスト・パラドックスですね」
と、にっこり微笑みかけてみてください。
明日から、声をかけてもらえる回数が激減し、効果は、てきめんでしょう。
「画一的」な組織は盲点を見抜けない
このように、人というのは盲点を抱えているものです。
そして、
集団には個人をクローン化する傾向が備わっている
と同書は説きます。
せっかく多くの個人が集まったチームでも、
その構成員全員が同じ性質の持ち主だったら、
同質性の高いその組織は集団浅慮に陥り、盲点を見抜けないことでしょう。
また、画一的なグループは、
いつまで経っても成長できず、「盲点を見抜けない組織」のままだと指摘されています。
『多様性の科学』では、
多様性のあるグループと画一的なグループで、
それぞれ複数の殺人事件を解決する
という課題に取り組んだ実験が紹介されています。
すると、実験結果は次のようなものでした。
〇多様性のあるグループ
・話し合いや合意形成といったグループワークは大変
・自分たちの答えに自信がない
⇒ 実は、高確率で正解を導いている
〇画一的なグループ
・気持ちよく話ができたと感じる
・回答に自信がある
⇒ 実は、不正解が多い
画一的なグループは、
「重大な過ちを過剰な自信で見過ごし、そのまま判断を下してしまう」
傾向がある、というわけです。
この実験結果を見たとき、鳩は肝を冷やしました。
「ああ、今日はすんなり終わって、気持ちよかったなあ!」
という会議ほど、ろくな結論になっていないかもしれないのですから!
多様性は激しい競争を勝ち抜くカギ
『多様性の科学』は、
多様性は、激しい競争を勝ち抜くカギだ
と指摘しています。
異なる知見や知恵を出す人間が集まる集団にこそ、
集合知が生まれる、
というわけです。
弁護士の事務所でも、
軍の上層部でも、
公務員でも、
閣僚でも、
IT企業の幹部でも、
それが「画一的な集団だ」と言うときは、
決して個人を非難しているわけではない。
個人個人は頭脳明晰でも、
同じ枠組みの人ばかりが集まると近視眼的になるという事実を指摘している。
しかし多様な枠組みの集団は違う。
なんでもオウム返しに同意し合うクローンの集まりではない。
反逆者の集団だ。
しかしただ無闇に反論するのではなく、
問題空間の異なる場所から意見や知恵を出す。
新たな観点に立ち、それまでとは違った角度から視野を広げてくれる。
それが高い集合知をもたらす。
では、ダイバーシティが叫ばれて久しい昨今、
なぜ画一的な組織が生まれてしまうのか。
その理由を同書から見ていきましょう。
なぜ「多様」になれないのか
『多様性の科学』では、「多様」になれない理由を、様々な概念を用いて説明しています。
この記事では、
①ミラーリング
②知識のクラスタリング
③クローン錯誤
④エコーチェンバー
⑤権威勾配
⑥情報カスケード
といった、6つの概念に触れていきましょう。
◆ミラーリング
ミラーリングとは、
画一的な集団において、
「鏡を見つめ合うように同調しあうことで、考え方が強化されていく」
ことを指しています。
不適切な判断にも、自信満々になってしまうこの状態は、
「多様性のあるグループと画一的なグループでの実験」や、
「集団浅慮」
に見られる傾向のことですね。
◆知識のクラスタリング
「能力主義でメンバーを集めると、
組織がクローン集団へと近づいていきやすくなる」
ことを指します。
ただし、同書は「能力が低い人間を集めろ」と言っているのではなく、
「集合知を得るには、能力と多様性の両方が欠かせない」
と、繰り返し強調しています。
◆クローン錯誤
「頭のいい人材を集めさえすれば、頭のいい集団ができあがる」
という勘違いです。
「知識のクラスタリング」が能力の高い人間を集めた結果とするならば、
「クローン錯誤」は、能力の高い人間を集める動機と言えるでしょう。
「集合知を得るには個人の知識だけでは足りず、個人の違いも必要だ」
ということが、同書では指摘されています。
9.11の同時多発テロ事件の発生を未然に防げなかったCIA。
1人ひとりの能力は高かったものの、
ほとんどが白人の男性の集まりという同質性の高い集団だったがために、
テロにいたるまでの様々なサインを見逃してしまった……
そんな悲しい事実が、『多様性の科学』では丁寧に描写されています。
◆エコーチェンバー
「同じ意見の者同士でコミュニケーションを繰り返しているうちに、
特定の信念が強化される」
現象を指します。
ここで重要なのは、エコーチェンバーでは、
「外部の反対意見を聞けば聞くほど、自分の信念を強めてしまう」
という点です。
日本ならば、「ネトウヨ VS. パヨク」といった構造でしょうか。
◆権威勾配
リーダーが異議を許さない環境では、多様な意見が出にくくなります。
これは、
「メンバーからの意見の表明が「懲罰」の対象となりうる」
のが原因だ、と指摘されています。
このような、リーダーとメンバーの間にある権威の格差を、
「権威勾配」
と呼びます。
近年よく話題に上る「心理的安全性」が保障されている組織とは、
「権威勾配の傾きが小さく、誰でも安心して発言が許される組織」
と、言えるでしょう。
◆情報カスケード
「集団の構成員が同じ判断をして、一方向になだれ込んでいく現象」
は、「情報カスケード」として紹介されています。
「会議参加者のうち、4人会議なら2人が発話の62%を担う傾向がある」
という本書内の記述には驚かされました。
参加者の多くは発言をせず、
口を開いたとしてもリーダーが聞きたいであろうことを言う。
そのため、有益な情報を発言できないまま終わる。
結果、組織内のメンバーは同調しあい、組織はクローン化する、というわけですね。
「今日の会議はよくしゃべれたなあ!」
という達成感が、特にリーダーの中にあるときほど、
組織は悪い方悪い方へと流れているのかもしれません。
日常に多様性を取り込むための3つのこと
さて、最後に、『多様性の科学』で紹介されていた、
「日常的に多様性を取り込むにはどうすればいいか」
に関する3つのポイントをご紹介します。
①無意識のバイアスを取り除く
いきなり、「無意識をコントロールしろ……」などど言われると、
「無茶言うなよ!」
と思ってしまうかもしれません。
ここで同書が言いたいのは、
人間は、知らず知らずのうちに、
「性差」「人種」
といった先入観で相手のことを判断してしまうのだ
ということです。
この対策としては、例えば、
「履歴書の学歴は空白にして面接をする」
などが挙げられるでしょうか。
「そんなこと、できるわけがない!」
とあなたが思っているとしたら、
その時点でかなりのバイアスが既にかかっているのかもしれません。
②影の理事会(シャドー・キャビネット)
遊戯王カードのトラップカードのような用語が出てきましたが、恐れることはありません。
簡単に言うと、
「重要な戦略や決断について、若い世代が上層部に意見を言える場を作る」
という仕掛けのことです。
③与える姿勢
「多様な社会において他者とのコラボレーションを成功させるには、
自分の考えや知恵を相手と共有しようという心構えが必要だ」
と、同書は説きます。
相手に自分の知識を分け与える人間は、
「最初は伸び悩むものの、最終的には知識を奪うだけの人間を追い抜く」
という事例も紹介されていました。
まとめ
さて、ここまでの内容をまとめましょう。
〇「多様性のない画一的な集団」は集団浅慮を生むが、
多様性のある組織は盲点を防ぐ
〇個人は盲点を見ぬけない:ウェディングリスト・パラドックス
〇「多様」になれないのは、様々な理由がある
◆ミラーリング
◆知識のクラスタリング
◆クローン錯誤
◆エコーチェンバー
◆権威勾配
◆情報カスケード
〇日常に多様性を取り込むための3つのこと
①無意識のバイアスを取り除く
②影の理事会(シャドー・キャビネット)
③与える姿勢
昨今、ダイバーシティ&インクルージョンが盛んですが、
それは単に女性、外国人、性的マイノリティを組織に取り込むだけでなく、
「多様な視点を活かせる組織にはどうすればいいか」
という大前提が欠かせないのだろうなあと思った鳩でした。
さて、次回は、
国内MBAランキング1位の名古屋商科大学ビジネススクールが出版している
『MBA実況中継シリーズ』
を読み比べます。
お楽しみに。
to be continued...
参考記事
〇今回の『多様性の科学』の著者・マシュー・サイドの書いた、
『失敗の科学』を参照し、失敗に潜む心理・バイアスを見た記事です。
〇「群集心理」「集団浅慮(グループシンク)」について触れた記事です。
〇「集団浅慮に陥らないためにも、多面的な視点で慎重に議論する」などの特徴を持つ、「高信頼性組織」に触れた記事です。
〇心理的安全性について説いた本『恐れのない組織』の感想記事です。
参考資料
・マシュー・サイド(2021)『多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
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