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【感想】『名古屋商科大学ビジネススクール ケースメソッドMBA実況中継』を読み比べてみた

こんにちは、白山鳩です! クルッポゥ!

マガジン『本を読んだら鳩も立つ』での本のご紹介です。

前回の記事はこちらです。↓↓↓


今回取り上げるのは、

『名古屋商科大学ビジネススクール ケースメソッドMBA実況中継』

シリーズです。


ビジネススクールの授業の様子をそのまま本に移植した4冊の同シリーズ。

これを見ていくことで、MBAクラスの雰囲気も味わってみましょう!


なお、「名古屋商科大学ビジネススクール」について知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。↓↓↓


それでは、実際に『MBA実況中継』シリーズについて見ていきましょう。

1つの記事あたり、だいたい5分で読めますので、お気軽にスクロールしてみてください!


『MBA実況中継』シリーズとは

このシリーズは、

名古屋商科大学ビジネススクールでの授業内容を、そのまま書籍にした

というものです。


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というわけで、同シリーズは、

経営学の知識を網羅的に体系立てた教科書

ではなく、


企業や人を主人公とした『ケース』を読んだ上で、経営学の知識を活かしながら、どのように分析や意思決定をしていくか

という、ビジネススクールの授業を追体験できる構成になっています。


2021年9月現在、『MBA実況中継』シリーズは、

①経営戦略とマーケティング
②リーダーシップ
③ビジネスモデル
④行動経済学

の4冊が出版されており、

いずれもKindle Unlimitedに加入していれば読み放題になっています


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Amazon「名古屋商科大学ビジネススクール ケースメソッドMBA実況中継 01 経営戦略とマーケティング」より

(2021年9月18日閲覧)


ケース・メソッドとは

『MBA実況中継』シリーズの構成は、どの本も共通して、

① ケースメソッド教育とは
② ガイダンス、理論の紹介
③ 授業の実況中継
④ おわりに

というフォーマットになっています。


このうち、「ケースメソッド教育とは」と「おわりに」は、4冊とも同じ内容が記載され、名古屋商科大学ビジネススクールがいかにケースメソッド教育に力を入れているかが語られています。


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ここで、「ケースメソッド教育とは」の一説を紹介しましょう。

この章は、ケースメソッド教育に精通している竹内伸一先生が担当しており、以下のように記載してあります。

ビジネススクールの授業に大なり小なりのサバイバルが存在することは事実だとしても、
共創が競争を上回って生じてくることに向けた仕掛けもまた幾重にもある。

たとえば本学では、ケースメソッド授業のすべての参加者に
「勇気」
「礼節」
「寛容」
という徳を求め、
教室では「学びの共同体」を目指し、
ロースクール的なソクラティックなムードではなく、
温かいムードを維持するようにも努めている。

生徒同士が切磋琢磨しながらも、和やかな雰囲気でお互いを認め合う授業風景が目に浮かぶようですね。


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01 経営戦略とマーケティング

それでは、各本の内容に入っていくこととしましょう。

まずは、1冊目、『経営戦略とマーケティング』です。


さて、第1章で、竹内先生の「ケースメソッド教育とは」を読み、温かい気持ちになったところで、

第2章からは、「経営戦略とマーケティング」担当の牧田幸裕先生が執筆しています。


牧田先生は、京都大学大学院を卒業後、外資系コンサルのアクセンチュア日本IBMで勤務したのち、信州大学大学院で教鞭をとっていらっしゃった先生です。

「コンサルティング業を経験→ビジネススクールの教授」というのは、実務家教員の典型的なコースでもありますね。


さて、『経営戦略とマーケティング』では、第2章に入るとこんな文章が飛び込んできます。

先の第1章では、竹内伸一先生からケースメソッド教育の歴史的経緯、発展とビジネススクールにおいて学生がどのような心構えでケースメソッド授業に臨むべきか、その心構えについて説いていただいた。

(中略)

しかし、これから第2章では、多くの部分で第1章に書かれていたこととは、真逆のことを述べていく


……ん? なんか流れ変わったぞ

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また、第2章を読む前にお願いしたいことがある。
僕の授業は名商大ビジネススクールの中でもかなり異端の授業であり、これが名商大ビジネススクールの授業の標準形ではない。


シリーズの第1弾に、自ら「異端」を名乗る先生の授業の実況中継を持ってくる蛮勇さに一抹の不安を覚えながら、さらに読み進んでいきます。


〔ビジネスフレームワークを例示して〕
これらは、経営戦略の基礎の基礎であり、
それすら説明できないまま、仮にMBAで経営戦略の討議を行うのであれば、それは幼稚園のお遊戯会だ。
幼稚園児のパフォーマンスとしては、頬を緩めて微笑ましく、嬉しく、楽しく観覧するが、
大の大人がそれを行ったら、寒いだけである


だから、僕の授業では、学生の発言を温かく拾い上げることなど一切しない
リーダーとして不十分なしょぼい発言は、切り捨てるかこき下ろす


……確かに、「異端の授業」という触れ込みは間違っていないようです。


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さて、その後、本の中では、

・IBM
・マクドナルド
・LVMH(ルイヴィトンをはじめとしたブランドの持株会社)
・ユニ・チャーム

の4社をケースとした授業が展開されていくのですが、

前振りの割に、生徒の意見を全否定するシーンは意外と少なかったです


理論的に間違っている意見は軌道修正しつつ、

理論を用いた上で自分なりの視点で発言できた生徒には、「OK」「ナイス」という言葉を投げかけていました

ちなみに、Kindleの検索機能で数えてみると、同書中では実に12回も「ナイス」という先生の発言がありました。

案外ツンデレです。


なお、最初にこのシリーズは、「理論を網羅的に記載した本ではない」と紹介しましたが、

この『経営戦略とマーケティング』は異端の本だけあってか、次のような理論が丁寧に紹介されています。

〇経営戦略の構造
〇事業戦略策定の現状分析で使用されるフレームワーク
・3C分析
・SWOT分析
〇ポーターの基本戦略
〇コトラーの競争上の4つの地位

特に「ポーターの基本戦略」や「コトラーの競争上の4つの地位」については、

「どの地位の企業は、どのような戦略をとるべきか」

がわかりやすく紹介されており、ここの理論編を読むだけでも価値のある1冊でした。


02 リーダーシップ

続いて、2冊目のテーマは「リーダーシップ」です

こちらを担当する髙木晴夫先生は、
ハーバードにて、修士号のMBAの次の課程である、経営学博士号(DBA)を修了したのち、
慶応義塾大学ビジネススクール(通称、KBS)で教鞭をとったのち、
名古屋商科大学ビジネススクールで現在教鞭をとっているという有名な先生です。


ちょうどマイケル・サンデルの『ハーバード白熱教室』がはやっていたころ、これを機にNHKが企画した「白熱教室JAPAN」にも出演していらっしゃいます。

(2021年9月18日閲覧)


また、髙木先生は先述した竹内先生と共著で『ケースメソッド教授法入門』を出版している、ケースメソッド教育の第一人者です。


ということで、今回の『リーダーシップ』には、先ほどの牧田先生のような異端感は全くありませんでした


授業全体は、

「リーダーシップなら、俺だってわかるぜ!」
「俺はこんな事例を知っているぜ!」

というように、ビジネススクールに来るような意識の高い生徒たちが、ついつい口を滑らかにしていくのを、先生がうまくコントロールしていく、という具合に進んでいきます。


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同書で取り上げられているケースは、次の4つです。

①小さなチームでのリーダーシップ
:医療現場のリーダーが題材

②中小企業でのリーダーシップ
:100人程度の規模の二世経営者が題材

③大企業でのリーダーシップ
:マツダ、アサヒビール、JR西日本を改革した村井勉さんが題材

④アメリカ企業でのリーダーシップ
:企業変革は「文化→業績」の順番か、「業績→文化」の順番か


これらのケースを通じて、

企業を変革する際にどのようなリーダーシップが発揮されるべきか

を学んでいくことができます。


「理論をごりごり使いながら、脳に汗をかくような思いで授業に臨み、必死になって答えを考える」

という雰囲気の『経営戦略とマーケティング』のときとは異なり、

自分の経験や見分を基に、誰でもある程度のことは発言できる

というような雰囲気が「リーダーシップ」の本には伺えました。


だからこそ、

理論や言葉の定義に注意を払いながら、授業の文脈を意識して発言している生徒

の発言は、より際立っているようにも感じられました。


03 ビジネスモデル

3冊目のテーマは「ビジネスモデル」です。

著者の小山龍介先生は、

京都大学卒業
⇒ 大手広告代理店
⇒ 米国MBA
⇒ 松竹で歌舞伎をテーマに新規事業立上げ
⇒ 独立

という経歴だそうです。


また、ビジネスモデルを組み立てるためのフレームワークである「ビジネスモデルキャンバス」を紹介した本、

『ビジネスモデル・ジェネレーション』

の翻訳者でもあります。

名古屋商科大学ビジネススクールでもこの「ビジネスモデルキャンバス」の使い方などを教えているようです。


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いきなり『異端の書』から始まった同シリーズも、第3弾となると、かなりアクはとれてきています

「生徒から多様な意見が次々出てくる」というよりは、

グループワークを通して考えられたビジネスモデルキャンバスに対し、先生がポイントを解説する」のが中心でした。


実際のビジネスを小山先生の示唆する多種多様な知識で読み解いていくような楽しさがあります。


上述の「ビジネスモデルキャンバス」についても、

システム思考」の理論を援用しながら、

各ブロックのつながり同士で作られる「自己強化ループ」が、

ビジネスモデルの「絶え間ない進化」につながる、

といった説明をしています。


(例)楽天の自己強化ループ

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この楽天のほか、Amazonやアップルといった企業のビジネスモデルの強みを、同書では読み解いていきます。


04 行動経済学

最後の1冊は、「行動経済学」です。


著書の岩澤先生は、野村総合研究所や野村證券を経て、名古屋商科大学ビジネススクールで教鞭をとるようになったそうです。

ハーバード大学で、経済学のPh.Dの学位も取得していらっしゃいます。


さて、シリーズ4冊目である同書は、岩澤先生から溢れる人間臭さが行動経済学というテーマに見事マッチした1冊となっています。


ケースに入っていく前に、まずは行動経済学における各種理論を説明していくのですが、その際の事例がユニークです。


伝統的経済学の理論では人間の行動が説明できない」ということを示すために、同書では「あるラーメン屋で目にしたメニュー」という図表が出てきます。

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わざわざラーメン屋のメニューを図表入りで紹介しながら理論を説明する行動経済学の本なんて見たことがありません


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詳しい説明は実際に同書をご覧いただいてお楽しみください!


さて、こんな調子で進んでいく『行動経済学』ですが、

一通りの理論が紹介されたのちは、

「人はなぜ投資信託で失敗するのか」
「バーゲンセールを止める代わりに、『いつでも安い』を実現したデパートはなぜ失敗したのか」
「頭の固い大学の学部長を説得するにはどうすればいいか」

といったケースを追っていきます。


岩澤先生の授業の展開に引き込まれながら、

「行動経済学の理論をビジネスの場面でどのように活かしていくのか」

に深い学びが得られる1冊です。


まとめ

以上、「名古屋商科大学ビジネススクール」の送る『MBA実況中継』シリーズでした。


4冊の本それぞれを比べただけですが、

「同じビジネススクールでも、教授によってこうも授業の毛色が変わるものか!」

と驚かされます。


「授業の雰囲気がもっと知りたい!」

「先生と生徒のやり取りを見てみたい!」

という方は、ぜひ同シリーズの中で気になる1冊を手に取ってみてはいかがでしょうか。


次回の記事は、うってかわってマンガです。

『解体屋ゲン』を取り上げます。

私もビジネススクールに通っている間、何度も読み返したシリーズです

ここに、どんなビジネスのエッセンスが詰まっているのか。

お楽しみに。

to be continued...


参考資料

・岩澤 誠一郎(2020)『名古屋商科大学ビジネススクール ケースメソッドMBA実況中継 04 行動経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)


・小山龍介(2020)『名古屋商科大学ビジネススクール ケースメソッドMBA実況中継 03 ビジネスモデル』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)


・髙木晴夫(2020)『名古屋商科大学ビジネススクール ケースメソッドMBA実況中継 02 リーダーシップ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)


・牧田幸裕(2020)『名古屋商科大学ビジネススクール ケースメソッドMBA実況中継 01 経営戦略とマーケティング』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)



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