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博士の学位

 大学院で修士課程あるいは博士課程前期課程を修了すると、次のステップとして博士課程後期課程(いわゆる、ドクター大学院)があります。博士課程後期課程にも標準修業年限というものがあって、それは3年です。つまり、後期課程に進学後は、最短で3年で博士の学位を取得することができます。「末は博士か大臣か」と言われたものですが、最短で3年で取得できる博士の学位は甲号博士(課程博士)というものです。これに対して、末は博士か大臣かと言われた時代の博士は、乙号博士(論文博士)と言われるものです。従来(※1)日本の大学が授与する文系博士の大半は乙号でした。乙号博士は場合によっては、60代の長老教授になってやっと授与される(例えば文学博士)こともありました。これは異常ともいえる状況(≒遅すぎる)で、日本国内の文系大学院でも、こうした状況を改善すべく、乙号博士の授与対象年齢を早め(1990年代以降)、やがては課程博士が主流となる今日の状況(21世紀)へと至っているわけです。それゆえに、今日の文系大学院で授与される博士学位の大半は、甲号博士となっています。
 甲号博士と乙号博士には、博士学位として何の違いもありません。特に甲号博士は、自立した研究者としての入り口に立っていることを証明する証と理解することが妥当であり、研究者としての道を歩むのであればそのための入場券というニュアンスで位置付けることが適当と考えます。ゆえに一定の要件を満たされた場合には、他に何がしかの付言をすることなく、粛々と学位を授与することが適当と考えられます。もとより、入場券というのはあくまでも比喩で、甲号博士の取得のためには、修士学位取得後最低でも3年。平均すれば4,5年程度の、密度の濃い、流儀に基づいた地道な研究活動の推進が求められることは言うまでもありません。決して、楽な世界ではまったくありません。
 博士の学位は、そうした研鑽を積んだ経験をある意味表象するもので、欧米のビジネスの世界や政府等を代表する公務員の世界では、当然のことのように修士の学位と博士の学位を取得して、そのタイトルを名刺やCV(履歴書)に掲載されている方たちが非常に多いです。日本のキャリア官僚が、国際会議等で学士しか持たず、肩身の狭い思いをしたという話を何度もうかがったことがあります。博士の学位は、研究者としての自立のみならず、ビジネスの世界でも、国際的な状況において交渉等の相手から有能なカウンターパートとして認識されるためにも、必須のものとなっています。
(※1)1980年代以前、欧米の大学はすでに20代の若い研究者にPh.D.の学位を授与していましたが、日本の文系大学院に博士学位を取得しようとして留学してもなかなか博士の学位が取得できず、多くの日本への留学希望者がアメリカの大学院に進学してしまったという状況は、博士の学位を特殊なものと位置付けすぎた過去の過ちと言えるかもしれません。

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