『風のかけら』 08 福 犬 - Breakfast A La Carte
「子どもたちィ～！」
愛くるしくてたまらない。鼻にシワをよせ、顔をしかめ、赤子をあやすように、ずいぶんと遠くから。
「元気なのっ！？ ちゃんと待ってたのっ！？ 元気ならそーおっしゃいっ！ お母さんにそーおっしゃい！！」
上体を揺らし、踊るように、カナキリ声を張り上げ、ずいぶんと遠くから。
「いい子にしてたの！？ 子供たちぃ！？ ごはんは食べたの？！ 朝ごはんは食べたの？！ あああ！ わたしの子供たちぃ！！」
◆◆◆ 本 日 の メ ニ ュー ◆◆◆
◆ ごはん粒のこびりついたフライパンにたっぷりのミネラルウォーター
「さぁ！ あげるわよ！ 水を飲むの！ まず水を飲むのよ！ お腹も起こしてあげなきゃね！」
◆ ぶよぶよにふやけた黄色スパゲティーの山盛り
「さぁ！ 食べなさい！ とっといてあげたのよ！ おいしいわよ！ たんとおあがり！ あなたたちの音を聞かせてちょうだい！ さぁ！ 上の歯と下の歯があわさる音を聞かせてちょうだい！ お母さんを喜ばせてちょーだいっ！ バクバクバクッって！ さぁ！ バクバクバクッ！ バクバクバクッ！」
◆ 固いサワドーブレッドの輪切り、３切れづつ
「さぁ！ パンも食べるの！ 食べるのよ！？ いそいじゃダメっ！ のどに詰まらせちゃダメよっ！ ゆっくり噛んで！ よく噛んでっ！」
◆ ローストチキンの骨、案外肉付き
「まだ食べられるわね？！ まだ食べられるわよね！？ 残さないで食べられるわよね！？ ぜんぶ食べて見せてちょーだい！ きれいに食べてしまうところをお母さんに見せてちょーだいっ！」
◆ デザート、大きな抱擁
「さぁっ！ 来なさいっ！ お母さんの胸に来なさい！ 叩かせてちょーだいっ！ あなたたちの大きな体を叩かせてちょーだいっ！ ああっ！ ダメよっ！ この男の人に吠えちゃダメっ！ この男の人もあなたたちが好きなの！ キレイなのよ！ キレイなあなたたちを見ていたいのっ！ 紹介するわね、紹介するわよ！ この子がウルフェン・ジャーマン シェパードの〝ツァー〟、ロシアの皇帝よね！ この子がちょっと雑種の〝ラスカル〟、ツァーの子供よ！ そう！ 親子なの！ この子たちは親子なのよっ！ 私は〝テリシア〟！ この子たちの母親代わりよっ！」
ポケットの中の１ドル紙幣を握りしめたまま、僕はロシア皇帝の毛むくじゃらのペニスからにじみ出すクリーム色の液体を見つめていた。
結局何も言えずじまい。当たり前だ。幸せすぎる。
Love ＆ Peace,
MAZKIYO
©2023 Kiyo Matsumoto All International Rights Reserve
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