猿でも分かる白旗の振り方

嫉妬は「他の人と同等の物を得たい」という感情、妬みは「持っている物を奪いたい」という感情であると、何かの本で読んだことがある。いや、インターネットだっただろうか。もう忘れてしまった。
では、「今持っている物をすぐにでも手放したい」という感情には一体何という名前が付いているのだろうか。
「犯人に告ぐ! 今すぐ銃を捨て、人質を解放しろ!」
鳴り響くサイレン。目を容赦なく刺しにかかる赤いランプ。
「……手放せるもんなら手放してるんですよ……」
私は窓際で小さくそう呟いた。おい、犯人が何か言ってるぞ、要求じゃないのか、と野次馬が騒いでいるのが分かる。ある意味要求である。私としてはとにかくこの銃を手放したいのだ。
「おい、シャドウ」
部屋の奥から声がした。
「あ、はい、はい」
そう言えば私がシャドウらしい。
「何呑気な事やってんだ。さっき人質が一人逃げ出そうとしてたぞ」
「あ、ほ、ほう。そうか」
なるべく低い声で応対する。というか、なんだ、シャドウって。コードネームにしてもダサいだろう。「影」だぞ、「影」。
「どうする?」
「は?」
「は、じゃねえよ。撃つかって聞いてんだよ」
「……何を」
「あ? 人質をだよ」
「人質を!?」
「それ以外に何があるんだよ!」
目出し帽の男は、持っている拳銃を振り回した。思わず後ずさるが、どうやら彼は向こうの人質を示す指示棒のような感じで拳銃を持ち上げただけらしい。心臓に悪すぎる。
「とにかく、レッドと話してくるから。サツの動向探っててくれ。全く……レッドの奴がしくじらなかったらすんなり帰れたってのに」
文句を言いながら男は去っていった。ひとまず大きく息をつく。ていうかもう一人はレッドなのかよ。色で統一しろよ、色で。

気が付いたら、私は銃を握っていた。視界が狭いと思ったら、目出し帽を被っていた。そして、さっきの男が私の元に来て、指示を出せと言ってきた。何のだと聞くと、逃走経路についてだと言われた。

【続く】

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