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第504回:『初恋ハラスメント』の菅沼くんは、私だった

Xで大変大騒ぎになった、『初恋ハラスメント』を観ました。

今流行りのフェイクドキュメンタリー的な物を想像していたけど、なんか思ってたのと全然違った。し、Xで色々ネタバレとか考察とか、変に知識入れずに普通に見ればよかった〜ってめちゃくちゃ後悔した。何も知らずにこれ見れた人はめちゃくちゃ楽しかっただろうな。

なんていうか、ホラー的な『怖い』ではなかったな。「自分にも同じことが起きるかもしれない」という意味での『怖い』だった。
初恋ハラスメントで恐怖の存在になってしまった菅沼くんは、日々監督に「センスが無い」とどやされていた。主演の女優からは「マスコット的存在」と言われながらキツく当たられていた。
うわ~……すごく……すごく……見覚えがあります……菅沼くんってこれ……『私』ですね……

センスが無く、嫌なことを嫌とも言えず、ひたすらへらへらへこへこするしかできず、ナメられて、影は薄く、一人消えたところで場は全然十分回っていく。
もし私が菅沼くんのように死んで化けて出たとしても、脅かし方や復讐の仕方にセンスが無く、必死の訴えも鼻で笑われるだけで終わっていくんだろう。「逆に面白いw」とか言われて終わっていくんだろう。
見てて、途中で情けなくなってきちゃったもん。途中でさ、主演女優さんの顔がうずまきみたいにぐにゃ~って歪むシーンあったじゃん。あれ、全然怖くなくてさ。変顔みたいになっちゃってたじゃん。でもさ、きっと私もああいうことするんだろうなって思ってさ。嫌いな人の顔とか、嫉妬してた可愛い子の顔とか、あんな風にぐにゃ~ってしようとしたりするんだろうな。私と菅沼くんの脳みそって、ほとんど一緒だと思うんだよ。嫌なことを嫌と、生きてる間に言うんじゃなくて、死んでから呪ってやろうとしちゃうとことかさ。すっごい一緒だもん。情けない。情けないよ。

あのドラマが何を伝えたいかって言うと、どう考えても「ハラスメントはよくないよ!」ってことだと思うんやけど、それ以上に「菅沼くんは『私』だ……」ってとこに意識持ってかれてたもんね。
死んでもなお、センスの無さは変わらない。他の人にはできないような、ちょっと奇をてらったようなことをしようと思っても、元々センスが無いから意味が無い。どうしたって、食い潰される人間は食い潰される以外に使いようがないんだよな。唯一生存できる道は、出来る人間の下でへらへら笑ってへこへこ頭下げることだけなんだよ。どんなにそれに嫌気が差しても、私みたいなセンスのない人間は、一矢報いることなんかできないんだよ。

それを嫌というほど突きつけられて怖かった。現実を見せつけられることによる『恐怖』演出。なかなか新しい恐怖体験ができた気がする。

最近こういう「○○の皮を被ったホラー」みたいなの増えてるね。昨今のホラーブームなんだろうけど、こういうのがどんどん増えていくのもなんか違う気がする。だってこれから出てくるコンテンツ、全部怪しまなきゃいけなくなってくるじゃんね。この話を擦って申し訳ないけど、ふっくらの一件みたいに、なんとなくパッとしなくなってしまった番組とかも、「これも今流行りのフェイクドキュメンタリーなんじゃ……!?」みたいにハードル上げられたりして取り返しつかなくなったりとかするでしょ。地獄だよ、そうなると。不気味でもなんでもないものが、無理やり怖いものに捻じ曲げられていったりするのは。
私自身こういうフェイクドキュメンタリーみたいなのとか、ヒトコワみたいなのは好きだから、流行ってるのは嬉しいけど。でも増えるのもなんか、違うんだよな~と思っちゃう。こういうのは数が少ないからいいんであってさ。少数派でいてほしいんだよ。王道になったら、それはそれでなんか違う。インディーズバンドが売れちゃったときみたいな寂しさを感じる。向こうは私のことなんてどうとも思ってないんだけどさ。

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