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高回転物語

私のバイクにはデスモドローミックエンジンという不思議なエンジンがついてます。高回転まで回すため、バルブスプリングをやめてカムシャフトに直結してしまったという内部構造の全く違うエンジンです。DUCATIというメーカーはこれを偏愛的に開発し続け、ついにGPで優勝を果たすにいたりますが、エンジン開発の歴史は、つまり高回転化の歴史なのです。

高回転まで回ると何がいいか?馬力が出るのです。馬力という概念はわかりづらいかもしれませんが、つまり一定時間あたりにどれだけ仕事ができるかということなので、乱暴にいうと馬力アップ=高回転化なのです。

そこにおける最高の優等生は、ホンダですね。あそこは最近のんきな車ばっかり作ってますが、昔はそれこそDUCATIなど比べ物にならない変態エンジンを多数生み出してきたのです。
125ccの6気筒バイクとか、1気筒あたり8つもバルブがついた楕円シリンダーエンジンとかDOHCエンジンの軽トラックとか、高回転オタクとして他メーカーの追随を許しません。

そして、ホンダ高回転物語の頂点を飾るストーリーが92年のF1モナコGPです。
その頃の最強エンジンはルノーとフェラーリ、そしてホンダ。ルノーはエンジンにガソリンを送り込むバルブを動かすスプリングを空気で動かし、高回転化を達成。フェラーリはアジップというガソリンメーカーにエンジンを溶かすほどの発熱量を持つガソリンを作らせ、専用エンジン037で対抗します。
昔から高回転型エンジンに絶対の自信を持つホンダは奇手を使わず彼らの上に君臨しますが、92年異次元の速さを持つ車体ウィリアムズ・ルノーFW14が登場してからはそうも言えなくなった。

その年のモナコ・モンテカルロは歴史に残るレースで、ルノーのN・マンセルとホンダのA・セナがラスト2周、1つの物体なんじゃないかと思えるくらい接近したバトルを展開します。
この時、ホンダの後藤監督は加速面での不利を悟り、無理を承知でセナに「オーバーテイクボタンを押し続けろ」と指示します。オーバーテイクボタンというのは一時的にレッドゾーンを無視して回転数を上げられるボタンで高出力が可能な分、エンジンはすぐにぶっ壊れるという、1レースに何度も使ってはいけないボタンなのです。
ホンダエンジンはぶっ壊れませんでした。その驚異の耐久性のおかげでセナはそのレースに勝利したのです。
回すことに対する意地と自信、当時のホンダからはそんなオーラが出ていたような気がします。

最近のホンダは別に特別な会社じゃなくなったかもしれないですね。本田宗一郎が亡くなってからホンダは夢を追いかける子供っぽいところがなくなってしまった。彼の持ってる異常な熱意があの会社を磨き上げ、まさにモナコでセナを勝たせたホンダエンジンの高回転高出力に直結していたのだと、今になればわかります。
もちろん強いんですが、ちょっと物足りないですよね。

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