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妻へ贈るnote

妻へ

あなたと出会って何年たったんでしょう。大学一年の冬に老朽化して倒壊寸前のサークルセンターの前で新入部員として挨拶をするあなたの姿を覚えています。顔と名前がはっきりしたのはあの時だったけど、高校生の頃からステージ上でトランペットを吹くあなたを何度も見ていたと思います。定期演奏会に必ず行くくらいあなたの高校のファンだったから。

だからあなたの出身校を聞いて、すごい人が入部してきたなと思いました。我々の吹奏楽部はたまに練習よりお菓子を食べてる時間の方が長いような学生バンドだったから、ギャップにびっくりしないかなと。あなたはやっぱり初めは戸惑っていたけど、でもどこからかスイッチが切り替わって楽しそうにしていましたね。

よく後輩のY田の家でみんなで飲んでいたことを覚えていますか。あなたが黒霧島の2リットルパックを持参し、私が2つのグラスの片方にその芋焼酎を、もう片方に水を入れ「お互いどっちか決めて一気に飲むのね」とかバカみたいな飲み方をしていました。酔う感覚が新鮮で楽しかった時代。あなたのバイト先の売れ残ったパンがおつまみだったりしました。

あの頃私が書いていたmixi日記を覚えていますか。あれはどうか忘れてください。授業にも出ずに時間だけがあり、どんどん脳が溶けていた時期なんです。フェチの塔の話が好きだったとか、未だに言ってくるのやめてください。

ある日サークルセンターの部室で、あなたから「もし私があなたのこと好きだって言ったら、どうする?」と言われた時、私の中では青天の霹靂でした。まさかこんなダメ男を好きになってくれる人がいるだなんて。だからあの日、友達のS田に相談して決意を固めて、あなたのバイト先まで車で迎えに行きました。

バイト終わりのあなたを拾って、鍋冠山公園で「今は友達として好きだけど、たぶん付き合っていけば恋人として好きになっていくと思う」みたいなことを言った記憶があります。あの時の正直な気持ちだったことに間違いはないけど、今思えば予防線を引いてるみたいで絶妙にキモいですね。ごめんなさい。

それからあなたを家に送ろうとしたら家の鍵を忘れてて閉め出されて、朝まで一緒に車で過ごして、あなたが後部座席におでんのツユをこぼし、車内がちょっといい匂いになって、そのあたりで「この人とずっと一緒にいるのかもな」と思いました。なんとなく、恋人のようなドキドキを別にしても普通に楽しかったからです。

付き合ってからすぐ就活が始まったので忙しくしていましたが、マリンビーチというホテルのポイントカードを貯めていたのを覚えています。TSUTAYAで連ドラを全部借りて、近くのコンビニで食料を買って、フリータイムで13:00〜20:00くらいずっと部屋にこもって。空から降る一億の星とかオレンジデイズとか見て、隣の部屋からおじさんの雄叫びが聞こえてきたりして。

あと、初めてのクリスマスに私がプレゼントしたオリジナルの絵本、あれも忘れてください。鶏のムネ肉とササミの話。もう一度言いますが脳が溶けていた時期なんです。許してください。

私がバイクで事故をした時、病室にあなたと母がいました。家族みたいだ、と思いました。そのせいもあって大学を卒業できなくて、親に叱られて不貞腐れた私をランタンフェスティバルの街中を歩きながら励ましてくれました。今日は泊まるか!と言って眼鏡橋の近くのホテルに誘ってくれました。あのあたりから、いろいろネガティブなことも受け止めてくれていたと思います。

あなたが長崎の離島の支店に配属され、結局私が広島で働くことになり、物理的に会うのがなかなか厳しくなっても関係が切れなかったのは、その時からもう家族のような感覚があったからだと思います。ただ私が離島まで会いに行った時、島の中の村社会じゃすぐに噂が広まるからと、私のことを「弟が遊びに来た」と紹介していましたね。あれ、兄じゃダメだったんですかね。我々同い年ですよね?

いよいよ広島で一緒に住もうという話になった頃、私はあなたにプロポーズをしました。ただ、初デートの場所で言おうと決めて野岳湖まで行ったら、湖をダムにする工事をやっていて、工事現場前のよくわからない場所で結婚しようと言ってしまいました。工事の音がうるさくてあなたは全然聞こえてませんでしたね。あの時はすいませんでした。

それからの結婚生活、どうですか。湯加減いかがですか。あれから転職して関東に引越して、こどもが産まれて、最近また私は移住しようかとか懲りずにあなたを振り回そうとしています。出会った頃からすると、いろいろなものを背負ってきて身動きが取りにくくなったし、たくさんの迷惑をかけてきました。もう愛想が尽きましたか。まだ残ってますか。あとどのくらいありますか。私はこどもたちを寝かしつけた後にあなたと2人きりで晩酌する時間が今でも好きです。

意味もとりとめもない、恋人のことを相方って呼ぶ人の話とか、バー・ポームムっていうお酒の名前が覚えられない話とか、かっこいい駅名は何かって話とか、編み物をしながら楽しそうに付き合ってくれるあなたが好きです。あと男は家事できるだけでnoteで誉められていいよねと怒っているあなたもいい。こどもに締めるべきところを締めてくれるのも助かっています。人に厳しく自分に厳しい性格は、ちょっと苦しそうだなと思う時があるのでもっとサボりましょう。

寒くなったのでそろそろマフラーの水通しをしなくちゃいけません。編んでくれたアーガイルのマフラー、今年のデザインも素敵です。来年も引き続きよろしくお願いします。

こちらは、おだんごさんの企画「#贈りnote」の応募記事です。誰か1人に向けて文章を書く、という企画だったので妻に向けて書きました。
企画概要は以下記事。もしよかったらみなさんもいかがでしょうか。
※プレゼントはA賞の絵本を希望します!

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