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安壇美緒著「ラブカは静かに弓を持つ」/実際にあった著作権裁判を題材にした青春小説

フォローさせて頂いている方の記事を拝読して興味を持ち、読んでみました。

【2023年本屋大賞第2位】
【第25回大藪春彦賞受賞】
【第6回未来屋小説大賞第1位】
【第44回吉川英治文学新人賞ノミネート】
だそうです。へぇ〜凄い!
前半読むのに時間がかかりましたが、後半話が一気に進むところから夢中で読みました。

story

少年時代、チェロ教室の帰りにある事件に遭遇し、以来、深海の悪夢に苛まれながら生きてきた橘。
ある日、上司の塩坪から呼び出され、音楽教室への潜入調査を命じられる。
目的は著作権法の演奏権を侵害している証拠をつかむこと。
橘は身分を偽り、チェロ講師・浅葉のもとに通い始める。
師と仲間との出会いが、奏でる歓びが、橘の凍っていた心を溶かしだすが、法廷に立つ時間が迫り……

Amazonデータベースより

これは、時々演奏動画を上げている私が直面している「著作権」問題を背景にした青春小説。(と思う)
上司の命令で、スパイとして音楽教室に潜入し、生徒を装ってレッスンの様子を2年間に渡って調査&録音し、それを裁判の証拠として提出するというミッションを受けた(受けざるを得なかった)青年、橘。

最初は「仕事」だった教室通いが、講師や仲間との温かい交わりによって心が満たされそれまでの無味乾燥だった日々が嘘のように輝き出す。

しかし無情にも、刻一刻とその時は訪れる…

✳︎✳︎✳︎

著作権問題に関して、確かに、著作権法に則って行動しなければいけないのだとはそれなりに理解はしているつもりです。
この小説の通り、発表会のみならず普段レッスンで楽曲を使用する場合も申請して料金を払う、そういう仕組みになっていると言われればそうなのでしょう。

だけど、当の音楽家は、そこまでの事を望んでいるのだろうか?
これは、個々のアーティストに聞けるものなら聞いてみたいこと。
確かに、jasracに管理を委託する事で、著作者の権利が守られるのだから、著作権協会は有り難い存在。それは確かなのかもしれないけれど。
小さな部屋で練習中に弾いた場合も料金を徴収するとなると、…

なんだか、「取れるものから取る」みたいな、jasracにとって何もせずに勝手にお金が入ってくるみたいなシステムに感じられて、正直少し不快な気持ちになります。
(ただ、そもそもjasracのシステムについて熟知している訳ではないので、間違えていたらごめんなさい。)

この曲が弾けるようになりたい、というのは、音楽教室に通う生徒のモチベーションの中のひとつだ。それがポップスであろうがクラシックだろうが変わりはない。音楽文化の発展を広い視野で見たときに、いま全著連が取ろうとしているやり方はベターであるといえるのだろうか?

本文より


以下ネタバレあり。
ご注意を。

この物語のクライマックスは、
主人公のスパイ行為が明るみに出て講師の怒りを買い(当然の事)音楽教室から去ったあと、
かつてそこで出会った仲間達の初ステージを思い切って観に行く場面。そこで久々に会った彼らの思いがけない反応に心を溶かしていくところかなと思います。

彼らが、自分に対して一様に軽蔑の眼差しを向けると思い込んでいた。彼らがそんな事をするはずないのにどうして一方的に、過剰に恐れてしまっていたのか。自らの不信が作り上げた巨大な防壁、それは幻であり、恐れの向こうに現実はある、と。

チェロカルテットがカノンを弾き始める場面です思わず落涙してしまいました。美しいチェロの和音が本当に聴こえ、その向こうになんともいえない幻想的な情景が見えた気がして。
そして主人公はもう一度チェロが弾きたいと思ったのです。心から。


ちなみに、この小説は、実際にあったお話を元に書かれたようです。
裁判にご興味ある方はこちらをご参照下さい↓


チェロカルテットのカノンが見つかったので貼っておきます♪


それではまた。
最後までお読み頂き
ありがとうございました❤︎

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