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ドキュメント二次通過、そして…

R18文学賞が二次通過した。はじめての二次通過だ。
その時私はなぜかスーパー銭湯に来ていた。超リラックスした状態で岩盤浴に寝転びながらXを眺めていたら、R18関連のツイートがちらほら流れてきて、「これは二次の発表あったな……」と思ったもののしばし結果を見に行くのを躊躇してしまった。

せっかく休みを取ってスーパー銭湯にきたというのに、もし結果がダメだったら? そのあとの岩盤浴、そのあとの炭酸泉、そのあとのサウナ、そのあとのオロポ、全部全部心ここにあらずになる。MOTTAINAI。入館料1980円がMOTTAINAI。でも、やっぱり気になるっ!

結果を見るときのいつもの儀式をする。その場で可能な限り姿勢を正し、自分の応募作のあらすじを思い出し、うん、あれは名作だった、受賞に相応しい作品だった、ゼッタイ私なら選ぶね、文学史が今日で変わるわ、こんにちは金屏風、こんにちは文壇、こんにちは帝国ホテルのローストビーフ! と想像してから結果発表のページを開けるのである。

スクロールしていく。いつも締め切り日ぎりぎり応募の私は、通過したとしても名前があるのは最後のほうだ。まだ、大丈夫、まだスクロールできる。まだ可能性はある。どき、どき、どき。
あ、ああああ、あったー!

【作品名】 受賞の言葉
【作者名】 清繭子

に、二次に通ってたーっ! しかもR18文学賞は二次通過すると編集部からのコメントがもらえるのだ。

 
【コメント】 小説家になりたい、と思いながらも何者にもなれずにいる、「モブキャラ」の「私」の話。大きな物語展開があるわけではありませんが、地に足のついた生活者である「私」の一人称には、「あるある」の面白さが詰まっていて、思わずニヤリとさせられました。固有名詞の出し方やディテールがしっかりしていることに加えて、絶妙な比喩表現や、リズムのある文体がそれを支えています。

ほ、褒められてるよね? わたし、褒められてるよね?(そりゃそうだよ、通ったんだから……)

さっそくツイートする。
「二次通過してましたー!」
すぐにみなさんから「いいね」が付く。
いっちー(市川沙央さん)が「おめでとうございます!もっともっと行ける行け~!絵文字絵文字絵文字絵文字」と絵文字いっぱいでコメントをくれる。ぶわっとうれし涙が出る。

そこから先はずっと反芻していた。岩盤浴で反芻、炭酸泉で反芻、日替わり湯で反芻、サウナで反芻、水風呂で反芻、オロポで反芻、電車で反芻、お迎えで反芻、ご飯作りながら反芻、翌日も反芻、翌々日も反芻、以下きりないので省略。もし私が牛だったらものすごい量の草を上質な肥料に変えていたことでしょう。

そのあとやっと少し正気を取り戻し、他の通過者のみなさんの作品に対する選考コメントを読んでいたら……ずん、ずんずん、ずんどこ、キ・ヨ・シ!ってな感じで落ち込んできた。みんな、どえらい面白そうな作品やないか……。こ、コメントもなんか、私のよりいっぱい褒められてる気がする……。

で、ででででも! 
これまで二回出して一次も通らなかった自分が、二次通過はすごい! 確実に筆力が上がっておる! そのことをまずは喜ぶのだ! いやでももっと先にも行きたい! 行ける! 「受賞の言葉」で受賞の言葉を言うのがわいの夢なんや!(言霊)

そして余韻に浸るのはいいけれど、今後は言動に気を付けるのだ……! 

なぜならNHKの最終面接で浮かれまくって、健康診断会場でペチャクチャ未来の同期(仮)に喋りかけまくって、係の人(じつは局長疑惑アリ)に注意され、そのあと役員面接でしっかり落とされたのだ。同じ轍は踏むまい。リメンバーNHK。
だから私、余計なこと言ったり、騒いだり、運営さんに迷惑かけるようなこと一切しません。SNSとかも慎むし。本当に大人しく自宅で余韻に浸ってサインの練習とかしているので……なにとぞ……なにとぞ……。
 
二次選考の次は最終選考だ。最終選考に残ると電話連絡がくる。某匿名掲示板で昨年電話が来たという日を念頭に置き、その日はマナーモードにせずに電話を待った。
待った。
……待った。

いやー、鳴らなかった。リンともルンとも鳴らなかった。他の二次通過者にはもう連絡があったのだろうか。つい某匿名掲示板を覗いてしまう。すると、わ、私の名前が出てる。ひぃっ、怖い! ネット怖い! 「清さん、最終選考いくんじゃない?」「いや、あの編集部コメントの感じじゃいかなさそう」しょぼん……。そんなんうちかて思ってる!

 毎日チェックしていると、時々また「清さん」の話題が出てくる。ひぃぃっ! しかし、ありがたいことに、つねに私の名前は「さん」付けされていて、イヤな気持ちになるコメントは全然なかった。それどころか、「応援してる」というコメントまで見つけて、え、この人身内かな?って思った。自作自演を疑われ、「わたし、清さんじゃないよ」とその人は否定し、うん、その人が私じゃないって私も知ってる、と思い、ご本人登場しそうになったけど、堪えた。リメンバーNHK。ドントフォゲットNHK。
これから先も私が匿名掲示板に書き込むことはないであろう。エゴサ―チはするかもしれんが……。さん付けしてくださった皆さん、ありがとうございます。今後ともなにとぞお手柔らかに。

 結局、最終選考には残らなかった。じつはエッセイの原稿、R18文学賞を受賞したら華々しい締めくくりができるから、その結果後に締め切りを設定してもらっていた。
 それほど謎の自信があり、結果二次選考までいったときには、マジ金屏風の未来しか見えていなかった。エッセイと受賞作単行本の同時発売も戦略としてはアリだよね、なんて思っていた。どれどれ、出版不況を吹き飛ばしてやりますか、と指の関節をコキコキ鳴らしていた。

 ほんとにねー、そういうもんじゃないのよ、受賞って。勢いとか、運とかめぐり合わせとか、戦略とか策略とか、そういうもんじゃないのよ。その作品が受賞する力がある、力がない、のどっちかでしかないのよ。

 そのことを連載を重ねれば重ねるほど理解していったのだが、今回は骨の髄まで脳のひだひだの隅々までよーくわかった。

 でも、ま、俺の目指したお前がそういう奴でよかったよ!
(振られた奴がせめて体面を保とうとするやーつ)


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