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子どもが子どものままでいられる世界を

大学時代、学童保育のバイトをしていた。
毎日、可愛い子どもと駆け回り、一緒にお絵描きをし、おやつを食べ、本気でオセロをするという夢みたいなバイトだった。

そのなかに、ちょっと乱暴者の男の子がいた。
小ぶりのジャイアンといった感じで、誰かを叩いたり、癇癪を起して暴れたり、悪口でほかの子を泣かせたりした。
だから、周りの子もその男の子が遊びの輪に入るのをちょっと嫌がるようになった。その子は妹が生まれたばかりだった。だから、赤ちゃん返りもあったんだと思う。

こんなに小さなうちから、みんなに悪い子と思われるのは悲しい。
どうしたらいいんだろう、と思っていた。

あるとき、みんなでトランプをしていて、その子が負けかけると
案の定怒り始めた。みんな「また始まった」という諦めムード。
そこでぱっとひらめいた。

「あー!そういえば、私、魔法の注射を手に入れたんだった!
この注射をすると、みーんなやさしくなっちゃうのです!ブス―ッ!」

とその子を捕まえて、注射を打つ真似をした。
すると、その子がのってくれて、「なんだろ、おれ、かってにかおがニコニコしちゃうよ~!」と機嫌を取り直してくれた。きっとその子も、機嫌を直すきっかけがほしかったんだ。

ニコニコしたその子をみんなも嬉しそうに迎え入れ、そのあとも楽しいムードで遊べた。「〇〇、えらかったね」と声を掛けた子もいた。

その日の帰り支度のタイミングで、またその子が他の子を強い口調でなじって、泣かせてしまった。するとその子は私のところにきて、小さな声でこういった。

「まゆちゃん、あのちゅうしゃ、うって」

善くありたいという気持ちをこんな小さな子が持っている。
出会った子どもはみんな、美しかった。ピカピカの原石の心をそれぞれに持っていた。

そのピカピカを安心して放つ環境があれば、子どもは誰だって輝ける。
安心して子が優しくあれる場所を、大人の私が作るべきなんだ。

そのバイトの間じゅう、こんな気づきが毎日のように起こった。
私が世界をいいものだと思えるのは、このとき、子どもたちに会えたからだ。人間の原石が、美しいということを知ったからだ。

いつか、恩返ししたいと思ってた。
子どもが安心して子どものままでいられる場所を、作りたいと思ってた。
それにはまず、大人が子どものこころとからだを守る方法を正しく知ることだ。そして、子どもを守る大人のこころも安心させてあげることだ。

「小学生おまもり手帖」

やっと一つ、恩返しできたかな。






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