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雪の日のココア

その日、友人とは代官山駅の改札口で待ち合わせをした。

その友人とは二、三か月に一度くらいの頻度で会っていて、彼女と会う日はいつも天気に恵まれるので、互いになぜか自信をもって、「私たちが会う日は必ず晴れになる!」といつも胸を張っていたのだけれど、その日、駅に着くと外は底冷えする寒さで、しんしんとした雪が降りしきっていた。

よりよって代官山で会う日に雪が降らなくても、と思った。
代官山は街ぶらするのに最適な街で、デパートに入るとか、映画館に入るとか、そういうことをする街ではなくて、散歩がてら小さなお店をのぞき歩くのが愉しみの街だと思っていたからだった。

ならば電車に乗って、渋谷に行くことも、みなとみらい方面に行くことも、そのときしようと思えばできたはずだった。けれども私たちのなかにその選択肢は最初からなくて、当然のように二人して雪の降りしきる代官山の街を歩きだした。

いくつか店を見てまわり、いつものようにおしゃべり目的で無駄に歩こうとしたけれどもすぐに寒さに手がかじかんで、足裏もどうしようもなく冷えきってしまい、たまらず私たちは目についた一軒のカフェに入った。

全体的に木調で統一された、ナチュラルでかわいらしい雰囲気のカフェのなか、私たちは窓に面したカウンター席に座り、渡されたメニューを眺めてすぐに二人そろって同じ飲み物を注文した。

寒い日にはココア!
互いの意見はそれで一致だった。

窓の外をみると、依然として雪はしんしんと降りしきっていて、地面には雪が積もり、景色はだんだんと白くなっていった。

そんな景色を眺めながら、ようやく暖をとれたことにほっとしておしゃべりの続きをしていると、しばらくして待望のココアが目の前に運ばれてきた。

ココアはどろっとした濃厚なタイプで、飲むととても甘く、とてもおいしかった。

マグカップを手の平で包むと、冷えきったせいで感覚のなくなっていた手の平に熱がじんじんとしびれるように伝わってきた。

一口、二口、無言で飲んだところで、どちらからともなく目を見合わせて笑った。なぜだか分からないけれど、二人して急に笑いがとまらなくなった。

すごーくおいしくて、すごーくしあわせ。

可笑しいくらいにきっと、互いにそんな気分になったのだった。

あれから何年もの月日が過ぎて、今、そのカフェはなくなり別のカフェに変わってしまったけれど、今でもその友人と会うと、あんなにおいしかったココアはなかったよねえ、と、ときどき思い出しては二人で笑う。

寒くて、しんしんとした雪の降り積もる日。冷えきった体をもって飲む濃厚ココアは、こんなにもおいしくて格別なものだと、あのとき、私も友人も、はじめて知ったのだった。

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