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小さなお雛さま

もうすこしで雛祭りだ、ということに気がついて、今しがた急いで雛人形を飾った。といっても、段飾りの雛人形や、ガラスケースにまとめて入っているタイプの雛人形ではなく、親指サイズにも満たない、小さな男雛と女雛だけの雛人形である。

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桜の花びらのうえに座っている。

今からだいぶまえ、デパートの催事が何かで栗八工房舎さんの雛人形に出会い、そのとき購入したものだ。

雛人形はそれまで久しく飾っておらず、そもそも子供のころはガラスケースに入った雛人形セットが家にあり、人形そのものよりも小さな道具や三色のひし餅の方に興味が惹かれて、それがこの季節にだけ味わえるたのしみだったのだけれど、大人になるにつれ、雛祭りという行事自体への興味がだんだんと失せていって、結局、その雛人形は自分が二十歳を過ぎたころ、身内に譲ることになった(本来、譲るのはNGな行為らしいけれど)。

でもそれから年月が経ったあるとき、ふと、季節を感じるものを部屋に置きたいという気持ちに駆られた。きっと丁寧な暮らしのようなものへの憧れが募っていたときだったのだろうと思う。そんなとき、たまたま見つけたのが栗八工房舎さんのこの雛人形だった。ほのぼのするような見た目で、桜の花びらに乗っているのが愛らしく、すぐに一目ぼれしてしまい、今更ながら雛祭りという行事にひっそり参加してみるのも悪くないかな、と思いついて、気に入った顔の子をひとつ選んで持ち帰った。

以来、雛祭りの近くになると、いそいそと箱からこの雛人形を取り出し、部屋のかたすみに飾っている。季節のものを大事にしていると、実際丁寧な暮らしができているのかはさておき、丁寧な暮らしをしている気になれるので気分もよく、愛らしい雛人形を見ているだけで心が和んで、すぐそこの春の訪れを感じることもできる。

毎年、短い期間だけお出ましするこの雛人形だけれど(今年は出し忘れていたので超短期間だけれど)、今年も束の間、その愛らしさに和ませてもらいながら、こぢんまりと桃の節句をたのしむつもりだ(桃の節句という響きも愛らしい)。

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