家族との関係②ユリコさんの場合

人の為に、何かをして「あげる」が口癖だったユリコさんの娘さんから晩年のユリコさんの様子を聞く事が出来た。

「お母さんはワガママで、地球は自分の為に回っている、車の免許は持っているけれど、ほとんど運転した事が無く、友達や弟に(ユリコさんの息子さん)しょっちゅう迎えに来て貰っていた。自分中心に物事が回っている様な人だった」

これは、私達からすると衝撃的な話だった。いつもニコニコして人当たりの良い方だと思っていたら、真逆の方だった。運転も好きで、よくこの道を通っていた、と、本人から聞いていたので、運転をほぼしていなかったなんて。驚いた。

娘さんが嫁いでから、旦那さんを亡くした後の、高齢のユリコさんが心配で2回程同居した事が有るらしいが、上手くいかず、ユリコさんは一人暮らしをされていた。

週に何回か、娘さんが食料を持ってきて様子を見る事で、生活は保たれていたらしい。

ある日、そんなユリコさんの様子がおかしい事に気付いた娘さん。お湯が沸かせない。ポットが使いこなせない。菓子パンばかりを食べている事に気付く。

そう。認知症の症状が出始めていたのだった。

娘さんとの同居は、ユリコさん本人が拒否。ずっと自分の思い通りになってきた彼女の人生。気高くプライドが高い彼女は、娘に弱い所を見せたくなかったのである。

認知症の症状も少しずつ進行。だんだん家から出なくなり、腰も脚も弱る。このまま一人暮らしは限界だと娘さんからのSOSで、入居が決まった。

娘さんが施設に着換えを持ってきても、ユリコさんは知らんぷり。ユリコさんの誕生日にお花やケーキを持ってきても、「あらあんた、いつ来たの?」とだけ言い、知らんぷり。娘さんは落ち込むかと思いきや、「いつものお母さんなので」と笑顔で帰っていく。

不思議な親子関係だな、と思っていた。後に分かる。ユリコさんが娘や息子に冷たくする理由。

ユリコさんが入居して1年半ほど経った頃、ユリコさんに直接聞いてみた。子供達との関係やユリコさんの気持ちを。

「ユリコさん、どうして娘さんが来ても何も話さないの?」

『だって、頼んでないもの。勝手に来てるんでしょ。私、呼んでないもの。』

「頼んでなくても、必要な物を持ってきてくれるって、当たり前じゃないよ。ありがとう位言わないの?私に色んな事を教えてくれるユリコさんだからさ、人に言うけど自分が出来てないって、説得力無いけど」

『娘に迷惑掛けたくないし、弱い所、見せたくないのよ。。。』

「これから歳を取って、だんだん弱くなっていくじゃない?言葉で伝えられる内に伝えてあげた方が私は良いと思うけどね。死んだら言葉で伝えたくても伝えられないよ。私は毎日言うよ。ユリコさん、いつもありがとうございます!私ユリコさんの事、大好きだからさー。」

少し黙った後、ユリコさんは『そうよね。。私もお姉さんの事は大好きよー!当たり前じゃない!』と笑って、ベッドに横になった。

この後、歯医者に通う事になったユリコさんが、歯医者のトイレで籠城する事に、なるなんて、この時の私は知る由もなかったのである。