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「ユリゴコロ」をよんで

気持ちの悪い話でした。この物語を人に勧めたら、相手から心配されるかもしれません。でも、心に強く残る物語でした。最後は理由はわからないけれど涙が止まらなくて。秋が深まり肌寒くなり、別れがつらい気候だからかもしれません。

あらすじ


亮介が実家で偶然見つけた「ユリゴコロ」と名付けられたノート。それは殺人に取り憑かれた人間の生々しい告白文だった。創作なのか、あるいは事実に基づく手記なのか。そして書いたのは誰なのか。謎のノートは亮介の人生を一変させる驚愕の事実を孕んでいた。圧倒的な筆力に身も心も絡めとられてしまう究極の恋愛ミステリー!

アマゾンのリンクのあらすじより引用

恋愛ミステリーとありますが、愛がすべて恋になるわけではない…もっと深い話だと思います。

それにしても、手記を他の人に読ませるだなんて…………絶対無理……
自己開示があまりできないタイプの人間なので、日報ですら提出できない人です。自分の内面はとてもとても大切なので。
高校生から、レンタルスペースで㏋を作ったり、大学生になればツイッターとアメブロ、今はxとnoteと、やり続けていますが、すべて身近な人には自分が開示されないから続けていられるんだよなぁ……


心に残ったフレーズと雑多な感想

例によって、伝わらないネタバレがたくさんあります。


ハ、ハ、確かにな、いちばんの大荷物は、大切な者たちの記憶かもしれんな。これだけは捨てるに捨てられない。どこまでも連れていくしかないわけだ

P320

物語のラストにて、荷物を持たず最後の旅行に行くという父を見送るシーンで。でもこのあと、この二人はきっと……それが幸せなのだろう。

数か月前、あの世には思い出すら持っていけない、という事に気が付いて愕然としました。
それどころか、ボケたら死ぬ前に思い出も失うことになるし…とか、仕事が単調だと、考え事がたくさんできるからいいんですが、変なこと考える時間もあるから困りますね。
それでも、どこまでも連れていけるのは、思い出だけ。どこまでも連れて行かないといけない、ということなのです。

 集まった老人のなかには、昔懐かしい歌を小声でいっしょにうたったり、手拍子を取ったりする人たちもいて、白い綿帽子をかぶったような祖母の頭も、椅子の上でゆらゆらと揺れた。
 家族に起こったことのすべて、母美紗子の誕生から死に至るまでのすべての記憶が、かつてはこの小さな頭のなかに刻み付けられていたのだ。けれども今、祖母の心は朦朧とした霧のなかを、実体のない影のようにさまよっている。
 それでもなお、ときどき怯えたように宙を見つめたり、理由もなくしくしく泣きだしたりするのは、壊れかかった意識のどこかに刺さったままの記憶のトゲが、チクリと痛むことがあるからだろうか。

P298  ※母美紗子とは主人公の母のこと。祖母の娘のこと

主人公の祖母、つまりユリゴコロの手記を書いた快楽殺人犯の母親は、物語の終盤は認知症に。物語に出てくる認知症患者は、たいていはつらいことを一人忘れた哀れで幸せな存在のように描かれるケースが多い(ような気がする)のですが、彼女は認知症を患ってもなお消えない後悔や罪の意識も描かれていて、胸がきゅっとなる場面も……

 短い期間にいろいろなことがあった。そしてなんだか僕は、いっぺんに十歳も二十歳も年を取った気がする。
 人殺しの娼婦と、その娼婦を買った行きずりの男。ほんとうの両親である二人に対して、いったい今、どんな気持ちを抱いているのかと自問しても、正反対の感情が複雑に絡まりあうばかりで、まともに答えることができない。たぶん、答えなんか一生見つからないだろう。
 けれども、年をとるというのは、たぶん、混乱を混乱のままに抱きかかえて生きられるようになることではないだろうか。人間の心そのものが、永遠に解き明かせないひとつの混乱だと、知ることではないだろうか。

P290

物語の最後の場面から引用しました。
主人公はどこまでも受け身、受け入れるだけの存在であったと思います。それがこの、混乱を混乱のままに抱きかかえて生きる、という一文から、受け入れる覚悟ができた、ということなのだと思います。



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