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第3話 「透明な決意」

    雨の試運転を見にやってきたソラはある少女と出会う。霧野真夜と名乗った少女はいったい何者なのか・・・ソラはそんなことはどうでもよかった。ただ、ソラには分かっていた。マヤが同じ夢を持っている仲間だということが。マヤと出会って、ソラは忘れていた大事な事を思い出した。トオルもまた同じ夢を持つ仲間だということをようやく思い出した。 

「そっか。そうだったんだ。そうだよな。」

  勝手に納得して1人でつぶやいているソラをいぶかしげに見つめるマヤ。その視線に気付いたソラはマヤに告げる。 

「あ、ごめん。俺大事な用事思い出した。また、会えるよな?」 

 そっとうなずくマヤを置いてソラは駆け出した。走りながらソラは腕にはめた時計を確認した。時刻は17時過ぎ。 

「今日は午後の授業がなかったから、もう部活終わってるかも。」

 ソラは息を切らして学校に舞い戻って来た。ソラは下校する生徒たちの中にトオルを見つけた。 

 「トールー!」 

 自分の名前を叫ぶ声に驚きトオルはソラの方へ近づいてきた。 

「どうしたんだよそんな必死に人の名前読んで。何事かと思うだろ?」

 いつも通り余裕なトオルにソラは呼吸を整えながら言った。 

「なぁトオル・・・俺たち言葉にはしなかったけど、同じ夢を追いかけてたよな?」

 いつもと違って真剣に問いかけてくるソラに状況がつかめず黙るトオル。

 「思い出したんだ、トオルと初めて会った日のこと。トオルはこう言った。『大変だな。お前も』って。」 

「そんな事言いにわざわざ戻ってきたのか?」 

「今の俺たちにはその夢を実現することは出来ないって分かってた。だから、将来第一大学に入って研究をするつもりだった。てっきりトオルもそうだと。・・・だから、トオルがCクラス編入を承諾したのが信じられない。本当にお前の意思なのか?何かあったんだろ?お前を諦めさせる何かが。」 

「何言ってんだよ、俺は別に…」

 まっすぐに見つめてくるソラの目にトオルははぐらかすのをやめた。 

「ソラにはかなわないな。」 

 トオルはそうつぶやくと重い口を開いた。 

「実は、進学試験で指定された数式を使って実証できる事例を述べよって問題があってさ。・・・それで、つい・・・」

 ここじゃちょっと話せないと小声で言うとトオルはソラを連れて学校の裏にあるヘチマのビニールハウスの中に入った。ヘチマは少量の水で育つので中学生の実習ではよく用いられている。ハウスの中では地面の土が向き出しになっており、天井にはUVライトが設置され、下には水路が通っている。ヘチマは世話がかからないため放課後ここに来る人間はいないだろう。念のため周囲に人がいないか確認してからトオルは話を続けた。 

「実は、テストの問いに答えたつもりが、つい、地上生活の必要性とその実現方法の考察を答案用紙に記入してしまったんだ。」 

「バカだな。でもなるほどって感じだよ。」

 ソラは納得した。同時に安堵もした。 

「うるさいよ。それで、学校側も学内に犯罪者がいるとは言えないし、黙認する代わりにCクラスへの編入を要求してきたんだ。」 

「それをやすやすと受け入れたってわけか。」 

「他にどうしろっていうんだよ。俺は奨学金で学校に通ってるし、地下時代から経費削減のために中学は義務教育じゃなくなったんだ。他の中学に転校することも俺にはできない。」 

「でも学校側だってバレたらまずいわけだし。」 

「そんなに甘くねーよ。犯罪なんだから。」 

「おかしいよ。なんで夢見ることが犯罪なんだよ。」 

「今さら何言って・・・でも、確かにそうだよな。」 

ソラたちは気づき始めていた。この世の過ちに。人は長いものに巻かれる。法律と言われれば、悪党でないかぎり、守ってしまう。それがどんなに馬鹿げたルールだったとしても。古代より人類は人種や身分を差別して当たり前のように人権を侵害してきた。この、地上連想禁止法もそれと同じではないだろうか。逆に言えば、人々が過ちに気付くことができれば、法律だって改正できるはずだ。 

 「トール、俺が今何考えてるか分かるよな?」 

「お前のことで分からないことなんかないさ。でも、俺たち二人きりじゃダメだ。もっと仲間を集めよう。」 

 「それなら心あたりが二人いる。」 

 「さすがリーダーだ。」 

 「え?俺がリーダー?」 

 「言い出しっぺだろ?」 

 「正確には何も言ってないけどな。」 

 いつもどおり冗談を言って二人は笑った。 



つづく

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