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2. ミレトス学派 3. アナクシメネス

※※以上の"A Presocrated Reade"の 2.3. アナクシメネスの訳です。比較的自由に訳しています。

古代の伝承では、アナクシメネスはアナクシマンドロスの後輩か教え子であった。アナクシマンドロスと同様に、彼はタレスの唯一の原初的物質があるという説に同意する。しかしこの原初的物質が何なのかについては、彼はタレスともアナクシマンドロスとも袂を分かつ。彼はこの根本的物質をアエルと呼ぶ(ふつうは「空気」と訳されるが、アエルは一般に空気とみなされるものよりも厚い霞のようなものであり、理論的に言えば透明である)。アエルは宇宙内で他の物を生み出すほど不定であるが、アナクシマンドロスのいうアペイロン(または無限なるもの)ほどには不明瞭ではない。アナクシマンドロスは、何がアペイロンから生じて寒熱を生み出すのかをはっきりとはさせなかったようである。だから、アペイロンはアナクシマンドロスが意図するような宇宙的規模の作業を行うにはあまりに不定に過ぎる、とアナクシメネスが主張したのも当然であろう。タレスとアナクシマンドロスの立場から大きな一歩を踏み出して、アナクシメネスは凝縮化と希薄化を宇宙におけるアエルと他の物質の変質過程に明確に含めている。他のソクラテス以前の哲学者たちと同様に、アナクシメネスはあらゆる種類の気象学的現象と他の自然界の現象に説明を加えている。

21.…アナクシマンドロスと同様に、アナクシメネスは自然の根底にあるのは唯一かつ無限なるもの[アペイロン]であると公言するが、それは、アナクシマンドロスの考えるような不定なるものではなくて明確なるものであり、それは空気であるという。空気は変質して何らかの物質となるが、どんな物質となるかに応じて、希薄さと濃厚さの点で異なるものとなる。より細かくなれば、空気は火となる。より凝縮すれば、空気は風となり次いで雲となる。そしてよりいっそう凝縮すれば水となり、土となり、さらには石となり、そしてここから他のあらゆる物となる。アナクシメネスもまた運動を永遠なるものとして、変化はまた運動を通してなされる、と言う。

22.空気である我々の魂が我々をひとまとまりにしては支配するように、息と空気は宇宙全域を取り囲んでいる。(偽プルタルコス)

23.アナクシメネスの結論では、空気は神であり、生成したものであり、側的できず、不定であり、常に運動している。(キケロ『神々の性質について』)

24.アナクシメネス…が公言するには、原理は無限なるもの[アペイロン]である空気であり、この空気から生成しつつある物が生成するのであり、いままで生成してきたもの空気からであり、これから生成するものも空気からなのである。神々と神聖なるものも空気から生じたのである。爾余の物は空気の生成物から生じるのである。空気の形は以下の通りである。すなわち、空気は最も拡散していれば不可視であり、しかし寒さ・熱さ・湿り気によって、またその運動によって、目に見えるものとなる。空気は常に運動しているが、それというのも変化する万物は、もし運動していなければ変化もしないだろうからである。空気は濃厚化あるいは希薄化する時には、外見上は異なるものとなる。拡散してより細かい状態となると火となり、他方空気は凝縮化すると風となる。雲はフェルト状態を経て空気から生じ、水はこのフェルト状態がさらにはなはだしい程度となって生じる。さらにいっそう凝縮化すると土となり、絶対的厚さの段階に至ると石となる。

25.あるいは老年のアナクシメネスが信じていたように、寒さも熱さも物質の範疇には置かずに、物質に共通する属性とみなそう。そしてこの二属性は変化の結果としよう。というのも、アナクシメネスは公言するのだが、物質の収縮した状態と凝縮した状態は寒さであり、他方で細かくて「緩い」(まさにこの言葉を使って呼ぶのだが)ものが熱さなのである。結果、アナクシメネスが主張するには、人間が口から寒熱のどちらも出すのは当然だと言えるのである。何故なら、息は唇によって圧縮され凝縮されるや冷たくなり、そして口が緩和されると、逃げようとする息は希薄化されるので温かくなるからである。(プルタルコス『冷たさの原理』)

26.空気がフェルト状になりつつあった時に初めて生成したのが大地であり、それはきわめて平らである。こういうわけで、それは理の当然として空気の上に載っているのである。

27.アナクシメネス、アナクサゴラス、それにデモクリトスが言うには、大地は平らであるので静止状態にある。というのも、大地はその下にある空気の周囲を回るのではなくて、蓋のように空気を覆っているからである、あたかも平らな物体が明らかにそうしているようにである。それらの平らな物体は抵抗するので風が動かすにも難しいのである。彼らが言うには、大地は平らであるので、下方の空気については大地は同じことをするのである。そして空気は、横に動く余地が十分ではなく、下方にも空気があるために、かたまって静止状態にあるのである。(アリストテレス『天体について』)

28.同様に、太陽と月とすべて他の天体は、いずれも炎のように燃えているのだが、平らであるために空気の上に載っている。星々は大地から湿気が立ち上って生じるのである。湿気は細かくなると火が生じ、上空に上る火からは星々が形成される。また星々の領域には土から成る物体があり、星々と共に公転する。アナクシメネスが言うには、他の人々が言うように星々は大地の下へと消えて行くのではなくて、大地の周囲を回るのであるが、それは帽子が我々の頭の周囲を巡るようなものである。太陽が隠れるのは大地の下にいるからではなくて、大地の高い部分によって覆われるからであり、そして太陽が我々からあまりに遠い距離にあるからである。星々については、その距離のために熱を地上にまでは届けないのである。

29.アナクシメネスの述べるところでは、雲が生じるのは空気がいっそう分厚くなる時である。さらにいっそう凝縮すると、雨が絞り出される。雹や霰が起こるのは落下する雨が凍る時であり、雪になるのは風が湿気に巻き込まれる時である。

30.アナクシメネスが断言するところでは、大地がびしょ濡れになりつつあり、そして乾かされつつある時に大地は破裂し、そしてこれらの盛り上がった土が決壊して崩壊することから地震が起こるのである。こういうわけで地震は干ばつと大雨の際に起こるのである。というのも干ばつの際には、言われているように、大地は干上がりながらもひび割れ、そしてあまりにも水分を含むと散り散りになるのである。
(アリストテレス『気象学』)

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