藪から棒に文学論 おかしみ10(完結)
「つまりだね、おかしみとは、持ち上げて落とす時に抱く減少感と、それに伴うちょっとした滑稽味をいうんだ。マックス・ジャコブでは、人間、つまり肉体という物質も魂も備わっている立派な人間かと思いきや、魂なんてどこにもない、単なる物質に過ぎなかった」
「持ち上げて、落とすってことかい」
「いかにも。西脇では、むさし野という詩的響きをもつ地に、文人のほめる、おそらくは立派な桂の樹があると思いきや、卑近な場所に、誰もほめないような、曲がっている貧しい一本があったに過ぎない」。
「立派な場所に立派な樹があるのでなく、立派でない場所に立派でもない樹があった、ってことかい」
「ご名答。いずれも持ち上げては落とし、そこに気づくところにおかしみがあり、これを西脇は淋しさともいう。ま、そんなところさ」
「ふうん、いちおう君なりに考えているんだね」
「失敬な奴だね、君も‥。別の観点から公式的にいえば、以下のようにも言えるかしらん」
おかしみ=ユーモア+ペーソス
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