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小鳥遊五月「葵祭」

葵祭   小鳥遊五月

口笛のはじめ掠れる雪解かな
ヘルメット脱がず子猫に触れたがる
また同じ別れ話を目刺焼く
剪定の枝踏んでゐる返事かな
卒業の日のハムカツの厚さかな
絨毯の皺をならして桃の花
エイプリルフール厠に天使の絵
真四角に地図の折目やチューリップ
少しづづ磯巾着の落ち着きぬ
外したる指輪のかるし春の風
柳絮とぶ天文台の丸き屋根
水筒の茶を流したる朧かな
風船にはりついてゐる紙吹雪
追伸に葵祭のありしこと
麦秋のきゆうくつさうなたまご焼き
現の証拠やソックスを上げに上げ
花びらのくつついてゐる薔薇かな
叩いては叩いては蠅叩見る
紫陽花に触れて廃品回収車
ごきぶりのこれは二匹目かもしれぬ
折鶴の水平な羽青嵐
梅雨蝶が三面鏡にさつと入る
虹見える子が虹見えぬ子に教へ
やはらかき枕柘榴の咲いてをり
捕虫網閉ぢこめてから考へる
まひるまの提灯からすうりの花
しばらくはプールの水にまかせたる
みつちりと裂け目の入るトマトかな
向日葵の表も裏も人通る
裸木に凭れてゐたり桜桃忌
楕円とも円ともいへる踊の輪
ドーナツ屋にて盂蘭盆のはなしかな
割り箸に小さきささくれ葛の花
西瓜のレジ袋その他のレジ袋
工場の門開いてゐる吾亦紅
叉焼に紐を巻きつけ野分雲
にはたづみ少しはなれて松手入
後ろより来る先生曼殊沙華
旅先の秋の祭をよぎりけり
蓮の実のとんで天窓からの空
標識のまつすぐ傾ぐ枯蟷螂
切手には夏目漱石みやこ鳥
二丁目の小さきポインセチアかな
雪だるまいよいよ塀の雪使ふ
縄跳をもつて大縄跳へ入る
綿虫やベンチあたたかさうな色
柵に傘かかつてゐたる龍の玉
冬鷗木目のやうな波来る
凍鶴の脚組みかへてゐるところ
冬菫寺に鞄を置きにけり

角川の落選作です。結構時間をかけて作った連作なので、未発表にすることも考えました。ですが、俳句というのは思い入れがあればあるほど腐るものだと思うので、思い切って公開することにしました。感想お待ちしています。

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