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山の桜

晴れていると、窓から山が見える。おとといは黄砂で白くかすみ、昨日は曇りで薄暗かったが、今日はきれいに晴れていた。山の中にはところどころ白っぽいような部分があり、あまり人目に晒されない桜も、その場所で咲いていることに気づく。

3月には、元勤務校で初めて担任した子どもたちが卒業していった。卒業式の日、昇降口の周りに保護者や先生たちが花道を作り、卒業生を見送った。2年ぶりに会った子どもたちは、いつもより気取った格好で、胸元にお花のコサージュをつけていて、背もめちゃくちゃ伸びていて、すごく大人になっていた。
列になって歩く子どもたちは、私にとってものすごく大切な大好きな存在だった。「教え子」という言葉では、ひとくくりにできない。私がみんなに先生の在り方を教えてもらったのだ。「みんなが私を先生にしてくれた」というやつだ。本当に、心から、そう思う。

だから、ひとりひとりに「おめでとう」と声をかけた。できる限り名前を呼んだ。31人、全員呼べただろうか(転校した子がいるので、厳密には数人少ないけれど)。とにかく呼んだ。
同じ年に隣のクラスを担任し私が退職したタイミングで別の学校に行った先生もその場に来ていて、私の横で、熱狂的なアイドルファンみたいに子どもたちに声をかけていた。その先生と私の2人が、間違いなく、あの花道で最もはしゃいでいた。帰り道に少し反省した。


彼らが大きくなった2年間、私は成長できていただろうか。教室を離れて働き方が変わって、苗字が変わって、新しい人とたくさん出会って、料理をする時間と睡眠時間が増えて、本を読む量も増えた。それから、運動量が減って、声を出す量が減って、手で文字を書く量が激減した。

子どもたちを相手に話したり教えたり笑ったり怒鳴ったりする日々が懐かしいけれど、今は今でものすごく恵まれている。2年間でやってきたことを、遠くの人にも見つけてもらえるようになってきた。山の中腹の桜みたいに、今ある場所で、できることを一生懸命やっていきたい。

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