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唐川侑己さんが出ても(幕張から)帰れま10 #4:誰かにとっての、それぞれの「やるべきこと」(G-M)

 まず、ちょっと落ちついてほしい。いいですか。

 同点の8回裏、球場に流れたのは「Get The Party Started」ではなくて「Just Vitality~自分への挑戦状~」だった。それはそうだろう、と私は思っていた。何しろ今シーズンの唐川さんは開幕からフル回転だった。スケジュール帳に登板した日を記録しているのだが、数えてみたらなんと京浜東北線が遅延した日数に迫るほどのペースだった。今週はヤクルトのクリーンナップを中1日で二度も相手にするという大変なこともこなした。さすがに温存だろう、と思っていた。

 それが「温存」ではなくどうやら「行かせたかったけど行かせられなかった」らしいと知ったのは、帰りの電車の中だった。

 10日の(勝ち投手になった)試合でも、解説の薮田さんは「疲れがきているのではないか」というようなことを言っていた。京浜東北線が遅延するぐらいのペースで投げていれば疲れもでるだろう。でも疲れたから、万全じゃないから行かないわけにはいかない。というかいつも万全で元気で何百球も投げられるぜ! というピッチャーなどいない。Wikipediaに「人間にとって体の構造を考えると物を投げるという行為は不自然であると言われている」とそもそも論みたいなことが書いてあり、そんなことを言われましても……と途方に暮れたのだが、唐川さんをはじめピッチャーのみなさんはそんな人間にとって不自然な行為を日々行っているのである。それにしても人体もいい加減物を投げる行為に適応してくれよとも思うのだが。

 そういうわけで登板を回避した唐川さんに代わって8回のマウンドに上がった大嶺さんは4失点した。岡本くんにバコーンとスリーランを放り込まれ、守備のミスもあってさらにもう1点失った。直前まで「唐川でいこう」と考えていたということはスクランブル登板だったのかもしれない。

 その時はまだこの裏の事情を知らなかったけれど、とにかくカメラを構えながら(なぜかピッチャーとちょうど重なる位置に柱がそびえ立っているピッチャー撮影禁止みたいな席だった)心の中で(がんばれ……!)と思っていたら、どこかから「ピッチャー代えろーー!!」という声が聞こえた。それに付随してクスクス笑う声もした。あぁ、最悪だな……と思ってしまった。まず大声を出すな。ハマスタ(大野のとき)でも後ろが激烈うるさかったが、球団側がガイドラインを策定して、なんとか観客を入れて試合ができるよう尽力しているのに、客側がそれを守らないなら意味がない。二度ほど無観客になった時あちこちから不満だったり残念がる声が上がっていたが、ルールを守れない人が一定数いるなら、「来ないでください」と言われても文句は言えない。

 私だってめちゃくちゃ大声出したい。ヤジをかき消すぐらい「がんばれーー!!」って言いたい。あのヤジの音量ならグラウンドの中まで聞こえたかもしれない。私も振り絞ればそれぐらいの声は出せる。たぶん。でもしない。ルールだから。ルールを破ってる人間の声だけ向こうに届いてしまうなんてあってはならないだろうが? という気持ちがふつふつと沸いてくる。

 でも大嶺さんは代えられることなく、そこに立ち続けた。ちゃんとこの回の3つ目のアウトまで取った。何点失おうが任されたイニングを最後まで投げ切ること、それが今やるべきことだったからだ。


 それは私がチラチラ見ていた隣県での中日-西武戦でも感じたことだった。この日の中日先発は言わずもがな大野雄大。対するは髙橋光成くん。そんな両軍のエース対決の中、西武はミスでけっこう失点した。捕球ミスに悪送球にフィルダースチョイス。悪いことは続くものだな、と納得してしまうくらい積み重なった。でもそこで試合を諦めたりしなかった。エラーした山川穂高さんはその後大野からツーランどすこいを放った。5-0だったスコアは最後、バックホームが少しでもズレるかタッチが一瞬でも遅ければ同点になっていたかもしれないところまで縮まっていた。ミスで失点しても点差を詰めた直後にまた広げられても、みんなやるべきことをまっとうしようとしていた。

 もちろん大野(3勝目おめでとう! やっと!)もそうだった。投球ももちろん素晴らしかったが、味方がファインプレーした時にガッツポーズしてたり、ナイスキャッチしてくれた大島さんをベンチ前でニコニコして迎えたり、必殺ベースキックを放って自分で自分を助けたり、メヒアさまさまから空振り三振を奪って吠えたり(大野のこれに惚れたので見られてうれしかった)、7回まで投げてリリーフ陣の負担を減らしたり、チームを奮い立たせ勝ちに導くエースの仕事をしっかりやり遂げていた。

(↓必殺ベースキックはこちらから)


 虫明さんのヤクルト観戦エッセイでは、繰り返し「誰かがケガなどで抜けてもいる人でがんばらなきゃいけない」ということが語られる。

(↓この記事とか大好きです……)

 ヤクルトでもロッテでも巨人でも西武でも中日でも、どこも全試合考え得る限り最上のメンバーで臨める保証はない。特に今は、故障じゃないのにいきなり主力級がごっそり抜けることが普通に起こりうる時期だ。誰かがいなくても今いる人、試合に出られる人でやらなければならない。


 勝ちパターンの一番頼れるピッチャーが投げられなくても、相手の主砲に致命的な一発を浴びても、エラーが重なっても、そこにいる人たちは歯を食いしばってその場でやるべきことをやらなければならない。では、ただ黙って見てるだけの私がやるべきこととは何なのか。ファンにもいろいろな人がいるし、「ファンなら○○しろ!」と強制することはできない。厳しいことを言いたい人もいるだろう(ヤジはさすがに家でやれと思うが)。でも私はやっぱり、そこに立ち続ける人に「がんばれー!!」と言いたい。


 それにしても岡本くんはすごい。東京ドームではないので登場曲のサザン(とソロ曲)が聴けないのが残念だ。ビジターでも流してはどうか。ビジユニ姿の唐川さんめちゃくちゃカッコよくて美しくて大好きだけど「Get The Party Started」が流れないので心細くて泣きそうになる。あと香月さん。おととしのファン感で機長帽子被ったかわいい藤原くんの写真をストーリーに上げてくれてありがとうございました。代打で登場した時球場全体から拍手が起こったのが素晴らしかった。やっぱりヤジより拍手がいい。武器ではなく花を(?)。巨人で元気に戦力になっているようでよかった。彼と入れ替わりにロッテにやってきた澤村さんはメジャーへ旅立っていったが、2人の対戦というのもちょっと見てみたかった。


 そして9回表に登場した成田くん。私に「秋田は秋田でも秋田市の人はそれほど訛らない」ことを教えてくれた秋田県民である。言うまでもなく秋田市じゃない人が訛ってることを教えてくれたのは柳葉敏郎。最後のイニングを無失点で締めた成田くんは相変わらずカッコよかった。2軍で牙をといでいた時間、しっかりとやってきた成果が表れたようなピッチングだった。負けた試合だろうが、それを感じることができただけでも今回はよかったと思う。


 じゃあ唐川さんがやるべきことは何かというとたぶん休むことであろう。唐川さんにも私にもとにかく休息が必要である。私ももう緊張疲れがひどい。10日など同点の8回表でおとといとほぼ顔ぶれが同じ人たち(一発打てる人ばっかり)と対戦する唐川さんを見ていたらなぜか右腕が痺れ始め、最終的に全身痺れスマホで文字を打つのも大変になってしまった。なんだこれは。唐川さんは実は神経毒とかを持っているのだろうか。ピトフーイ的な何かなのだろうか。確かに美しいものには毒がありがちだが。そうならそうと早めに言ってほしい。


 それはさておき、別に予見していたわけではないが今回で一旦「数打ちゃ当たる」方式で取っていた試合のチケットが尽きた。久しぶりに「次の観戦の予定がない」ということになる。また、できるだけ早く元気に痺れる場面でマウンドに上がる唐川侑己が見られますように。彼だけじゃなく大野雄大も藤原恭大も愛するみなみなさまも、少しでも元気に長く野球ができますように!

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