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『TXQ FIXTION イシナガキクエを探しています』と“宙ぶらりんモキュメンタリーJホラー”の挑戦(ネタバレ有?考察と感想)

※数行しかないイシナガキクエ考察と感想だけ読んでくれる人は↓のリンクから。
ネタバレ、私個人の勝手な妄想に近い考察で出来ているので、ご理解の上お願いいたします。


※そして、私は近年の日本のホラー映画に対し基本的に否定的・嫌いです。
そのあたりを織り交ぜての雑記になっておりますので、合わない方、近年の日本のホラーにお気に入りがある方、ネガティブな意見は目に入れたくない・受け入れられない方は回れ右が吉です。


・「スプラッタ」や「心霊」といった“恐怖の種類”
・「アート」や「風刺」や「社会批判」といった“表現の意図
・「POV」や「台本無し」や「モキュメンタリー」といった“演出味先行の作品構図
などの特色や属性から映像作品はジャンル分けされるものであるが、端的に言ってしまうと
考察頼り・ヒントをばら撒いて明確な答えは語らない・別ジャンル番組のふりをした
“宙ぶらりんモキュメンタリーJホラー”

は、もはや一つのジャンルとして確立されている。 
この手法は何も、この属性の作品が乱発される今に始まった事ではない。
低予算ながら臨場感で魅せた『パラノーマル・アクティビティ』(1999)が切り開き世に知らしめたモキュメンタリーホラーは、Jホラーにおいては、モキュメンタリーの神と言える白石晃司監督の『ノロイ』(2005)は傑作として名高く、特に近年加速度的に『フェイクドキュメンタリーQ』『このテープ持ってないですか?』『祓除』『SIX HACK』『Aマッソの頑張れ奥様ッソ!』『カルマの木』等、同一の作り手・作家陣によるテレビドラマが話題をさらっている。
(WEB読み物媒体発祥『近畿地方のある場所について』も、メディアミックスとまではいかないものの、上記映像作品と作り手や演出?の部分で無関係ではない)
やや毛色は違うが、キラキラ系恋愛ドラマ『初恋ハラスメント』も大いに盛り上がっていた。

個人的にはこのジャンル(勝手に“宙ぶらりんモキュメンタリーJホラー”と先程書いて呼んでいる)に関しては、連発されすぎて正直飽きてきているので、今回これらの作品群には詳細な言及はしない。
不意打ち的に現れるから驚き、面白く、考察したくなるのであって
「ヒントばら撒くし別ジャンルのフリしてホラーやります!はっきり謎解きの答え言わないので考察しに来てください!!」
という構えを見せた作品が次々に現れると、さして謎解きが好きなわけではない私は特に興味を惹かれなくなってしまった感はある。

ただ、これは私の勝手な好き嫌いと疲労の問題であって、これらの作品群が面白くないという事ではない。
むしろ、演者のファン向けでしかない不誠実なホラーを連発してオワコン化した、閉塞しきった最近のJホラーの腐敗に風穴をあけたのはこのジャンルだと思っている。

若者向けのお化け屋敷ラブコメと化した貞子の寒々しさを観たか?
整合性ゼロ、演技脚本画面全てにおいて作品として直視できなかった『それ森』を観たか?
現実の習俗モチーフにしつつ、個人の自己犠牲で現代人のリフレッシュ物語でしかない村シリーズを観たか?
間取りからたどり着いてしまう一族の争いをジャンプスケア一辺倒に改変した自称ミステリーを観たか?
(これらが好きな人には、予告なく気分を害する書き方だったのでお詫びします。これらが好きな人の感性を否定しないし、ビジネスとしての映画のあり方として理解していますが、ホラーとして私はこれらを全く愛せなかった、という個人的好き嫌いを暴言的に書いてしまいました)

“宙ぶらりんモキュメンタリーJホラー”は、これら最近のJホラーから匂い立つ、悪臭の如き不誠実さを全く持っていない。
第一に、リアリティ重視の為、顔や事務所の売り出しで話題性とお金を呼ぶような有名アイドル・美形タレントを使い「あの人の話題作!」として起用しない地道さがある
なので第二に、顔ファンやアイドルオタクターゲットの集客でなく、散りばめられたヒント、作品自体に、「謎を解きたい」という牽引力がある
これはSNSを上手く乗りこなした手法・情報コントロールとも言える。
そして第三に、この考察必須なモキュメンタリーが連発され定着した事で、この“宙ぶらりんモキュメンタリーJホラー”という属性を持つ作品群へのジャンルファンを獲得、裏切ることなく楽しませ続けている事。
ここの注目ポイントは“ジャンルファンの獲得”。つまりは、同一シリーズの続編やスピンオフを捻り出し、キャラクターやデザインでずるずるファンを引っ張らずとも、毎回違った新しいストーリーを新鮮に提供しつつ、変わらない考察やヒント探しの面白さを期待通りに提供し続ける作り手の手腕だと私は感じている。

この記事のタイトルで、私は新たなJホラージャンルの出現と快進撃を「挑戦」と書いた。
それは考察クラスタと呼べるような探偵的視聴者に対する“謎の提示”を表現しての事だが、ホラーシーン、テレビ番組シーンにおいては挑戦的なのは言うまでもなく、しかしもはや「活躍」或いは「台頭」と書くべきなのかも知れない。
新しい楽しみ方の新しいホラーファンを確立し、今、最も今後が楽しみで勢いのある恐怖表現。
それが“宙ぶらりんモキュメンタリーJホラー”の得体のしれない不気味な魅力なのだから
『祓除』の“除”の字で何故あそこが欠けているのか……背筋さん、まさかですよね……

□『イシナガキクエを探しています』ネタバレ有考察?感想

おそらく、イシナガキクエが死んだのはまだ若い頃、多分だが、米原が「失踪した」と言っていた二十代の年齢であろう。
最終回ラストで砕けた骨壺から出てきた若い男女の写真は、若き日の米原と生前のキクエの姿だと思えた。
米原が所持していた空き家の書斎に置かれていた本は、霊の研究書。これはつまり、過去に米原が霊の研究を行い、キクエの霊をこの世に呼び戻そうと試みたという事ではないだろうか。
それがきっかけ?或いは何らかの理由で、キクエは成仏できない霊としてこの世に現れていた(成仏できないキクエの為に米原が霊界の研究をしていたのかも)。
米原が辿り着いた方法は
「キクエを憑依させた人間(=代理人)を殺し葬る事で、今度こそ成仏させようとする」
という儀式。
そのキクエ憑依こそが、写真に番号の書かれておらずはっきり写っていた数枚の光景ではないだろうか。
“口から何かを出す”というナレーションで見落としていたが、あれは本当は、口に何かを入れる、つまりキクエの霊を体に入れている瞬間の代理人達の写真ではないだろうか。

代理人はキクエが憑依すると写真に写りにくくなる。それを殺し葬る。
が、キクエは成仏しなかった。ゆえに繰り返され続けてきた。35回も。
何故私が“成仏できず繰り返された”と感じたかは、空き家と骨壺にあった馬頭観音の札である。
馬頭観音は、輪廻の輪から抜け出せない(=天国に行けずあの世とこの世をぐるぐる回っている)者を救済する仏尊という役割を持つ。
ゆえに米原は、何度繰り返しても成仏できないキクエの救済を馬頭観音に願ったのではないだろうかと、そう思えてならない。
(始めは、キクエは丙午の呪われた女性なのかと思ったが生まれ年が違う)
本編内容とは離れるが、番組イメージヴィジュアルでは、
“顔のない女性の前を這う、ツノのない甲虫”
のもの
もあった。
些か強引な連想とは思いつつ、ツノのない甲虫「スカラベ」(コガネムシ状の虫。主にフンコロガシ)は、エジプトでは“生まれ変わりの虫”として象徴的なイコンであった事も、キクエが米原によって何度も「処置」され代理人の肉体とともに死にながらも、この世に新しく現れる事を繰り返している事を物語るイメージなのでは……と考えてしまった。

「キクエはもうこの世にいないと確認したかった」
生放送で米原が発した言葉は、キクエは成仏できたか、またこの世に戻ってきてはいないかを確かめたかった……という意味だろう。
2024年に至るまで、米原は番組スタッフと出会った後も、探し続けていた。
キクエの成仏を悟ったのか、米原はこれまでの「代理人」達への行いを詫び罰するように自らに火をつけて自殺。
もしかしたら、
「キクエが成仏できたら全て終わりだ、そう伝える合図として焼身自殺する」
と、米原は協力者に伝えていたのかも知れない。
米原の死後、家に現れていた人々はあの儀式の協力者達で、写真を持ち去り、もしかしたら、空き家に安置されていたキクエの骨壺に、自治体に葬儀を行われたという米原の骨を混ぜてやったのかも知れない。

骨壺は倒れ、遺骨が散らばった。
それは、キクエと米原の魂が今度こそ一緒に旅立っていった痕跡なのかも知れない。
TVスタッフが目にした、かつての写真の二人のように、寄り添って。

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