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【本】酒井穣 『ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由』


2022年に離職した人は約765.7万人、そのうち個人的理由で離職した人のうち「介護・看護」を理由とする人は約7.3万人と、約1%を占めています(厚生労働省の雇用動向調査)。

介護離職のもっとも大きな問題は、介護をする人の収入だけではなく、社会とのつながりが途絶えてしまうこと。

その危うさについて、企業の取締役を務めながら20年以上母の介護をした、KAIGO LAB編集長・株式会社リクシス取締役副社長の酒井穣さんが警鐘を鳴らしているのがこの本です。

とはいえ、この本は、介護発生前の会社員や、企業の人事部があらかじめ読んでこそ、価値が最大化できる本だと思いました。

親・兄弟はじめ身近な親戚がいる会社員は、必ず読んでおくべきです。

本書を必ず読むべき理由

必ず読んでおくべき理由は、介護には3つの特徴があることです。

  1. いつ始まるかわからない、突然始まる場合がある

  2. 介護については情報も考える時間も不足している

  3. 日本の社会福祉は知らないと損をする制度で、知識が有効な武器となる

つまり、いざ介護に直面してからでは、遅いということです。

本書を読めば、いかに、介護について情報や経験が少ない上での誤解が多く、介護離職にデメリットが大きいかが事例からよくわかります。
その説明に納得したうえで、「ではどうすればよいか」が丁寧に説明されるため、介護がはじまってすぐ、多くの人に起こる「介護パニック」に陥らずにすむのです。

著者の主張

介護離職をさけるために以下の5つは守るべきと著者はいいます。

  1. 介護パニックから脱出するために介護を勉強する

  2. 会社の制度があっても、なるべく長期の休みは取らない

  3. 身体介護と家事の負担はできるだけ分散する

  4. 自治体の窓口などを活用することを忘れない

  5. 自分に合っている家族会を見つけて参加する

とはいえ、1については、この本を読み、「介護のプロ」との人脈を作っておくことで十分ではないかと思います。

著者は、こうも述べます。

まずはあなたが勤務している企業もまた、あなたの介護離職を恐れていると言う事は知っておくべきでしょう。今はまだそうした制度が充実していないかもしれません。しかし、場合によっては、あなたが行っている介護をテストケースとして、あなたに合わせた新制度を構築してくれる可能性もあります。

男性介護者ならではの弱さは、個人技で何とかしてしようとしてしまうところだとの指摘があります。
男性社会は縦社会。
横のつながりで機能するチームを組むと言うことについての学びが足りないのかもしれない、と著者は述べますが、いつまで続くかわからない介護は、チーム戦でないと続きません。
20年以上介護を続けた著者からの言葉は重く響きます。

なにより今の人手不足の世の中、会社もまた、社員の介護離職を恐れているのです。
今はまだそうした制度が充実していなくても、実際介護に直面する社員がいたら、その介護をテストケースとして、制度構築に動かざるを得ないでしょう。

そのためにも、一人で抱え込まず、チーム戦にする必要があるのです。

また、介護離職するのは、介護対象者である親やその人が大切だからでしょう。
大切ならば、幸せでいてほしいと願うと思います。
著者は、そのためにも介護職に頼ることが必要だと述べています。

心身の障害を得た親にも、自分らしい人生を求めて頑張り、生きていて良かったと感じられる瞬間を届けたいと思いませんか?それを実現するのが介護であり、そのために日々勉強を重ねているのが介護職なのです。

自分のためにも、介護対象者のためにも、よりよい道は、決して一人で抱え込んだり、介護離職することではありません。

最後に、私たち全員へのエールも

本書が素晴らしいと思うのは、介護を通して、人生についてまで視野をひろげていることです。

「介護と言うのは、必ずしも、心身に障害を抱えている人にだけ必要なものではない」と著者はいいます。

「仮に健康に見えたとしても、自分の人生に絶望しており、生きていて良かったと感じられない人には、何らかの介護が必要だと思います」

私は、この言葉に衝撃を受けました。
その「何らかの介護」というのは、介護保険のメニューにあるような目に見える形ではないにしても、確かに、必要ではないでしょうか?

自分はどうなのか、自分の周りの人はどうなのか?
何らかの介護が必要な人がいたら、では、どうすればよいのか。
そんな何歩先までも考えるきっかけも与えれくれます。

そして、こんな私たちへのエールもをくれる本でもあります。

不運を嘆いても、未来は変わりません。自分でコントロールできることを、しっかりとコントロールすることで、開けてくる世界もきっとあると信じています。


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