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【本】神田房枝『知覚力を磨く―絵画を観察するように世界を見る技法』

自分の世界を見る目が、ひっくりかえる本でした。

なぜ読もうと思ったか?

手に取ったきっかけは、学びデザイン荒木博行さんのVoicyでの紹介。
ワトソンに毎日見ている階段の段数について尋ねるホームズのエピソードがミステリ好きな私には非常にこうばしく、絵を見るのが好きなこともあり、手にとりました。

大げさではなく、自分の世界を見る目が、ひっくりかえりました。
この本は実際の絵画が収録されていて、自分のものの見方を体感することができます。
きっと、多くの知覚の訓練をしていない人が、眼の前の世界がひっくり返る驚きを感じられるのではと思います。

どうひっくり返るかはぜひ本書をご覧ください。

なぜ、知覚が重要か?

本書の冒頭には、レオナルド・ダ・ヴィンチの
「あらゆる知識のはじまりは、知覚である」
という言葉が飾られています。

つまり、どんなに知識があって、どんなに頭が良くても、最初に自分が外部から得る情報がとぼしければ、尻すぼみになるということです。

「人間の知的生産には、知覚→思考→実行という3つのステージがある」と本書はいいます。
つまり、知覚が乏しければ実行にまで影響があり、知覚を磨いていけば、アウトプットの質もあがるということです。

現代人は、「なにか情報を得ようと探しものを見つけるために見る」検索モードか、「ただぼんやりと見ている」のどちらかで、「そこにあるのに、観ているつもりで観ていない」「純粋に見る/観察するということができていない」といいます。

この、「純粋に見る/観察する」ということは、AIには難しいことで、人間特有のものであるとも書かれています。

では、しっかり観察する目をやしなう、知覚力をみがくためにはどうすればよいのでしょうか?

本書は4つの方法を紹介しています。
①知識を増やす(自分からかけ離れたものを学び、異質な者どうしを関連づける)
②「他者」の知覚を取り入れる~多様性、読書など
③知覚の根拠を問う~なぜ自分はそのような意味付けをしたのか?
④見る/観る方法を変える

リベラルアーツ、人文学こそ、この知覚力を鍛えるものではないかとも本書では書かれています。

また、この本ではたった3時間で医学生たちの「診断する力」が13%向上した「絵画観察トレーニング」についても紹介されており、その一端がこの本でも味わえます。

絵画を観察してみよう

「自主トレ」の観察時間のめやすは、ひとつの絵画につき15分。

私はそんな長い時間、ひとつの絵のまえにたったことがありません。
ルーブル美術館の調査によれば、人が鑑賞に費やす時間はわずか15秒だそうです。

では、絵画の観察とは具体的にどうするのでしょう?

①全体図を観る
②組織的に観る
 1.全体図でコンテクストと基本的要素を把握
 2.フォーカルポイントを選び、詳細を観察
 3.残りを部分にわけてそれぞれ詳細を観察
 4.一歩下がって全体図を眺めながら解釈
 5.周縁部を確認し、再解釈を検討
③周縁部を観る~ブラインドスポットもしっかりと
④関連付けてみる~その人の感覚、その場のにおいなどをイメージする

本書では、このやりかたを、実際の絵画をもとに具体的に紹介しています。
私は本書でここが一番読み応えがありました。
美術館にいくときに持ち歩きたい部分なので、本書の早期の文庫化を望んでしまいます。

さいごに

不確実な時代の意思決定として注目されるOODAループも「観察→適応→意思決定→行動」と、観察からはじまるということです。

「つねに全体図を眺めながら、各部分を1つの画面に統合していく試みこそがマネジメントの本質」という指摘も本書はしています。

企業は、「教養ある知識人」は求めておらず、「明確な答えがない問いに対して、自分なりの答えを提案していく学問」人文科学をリベラルアーツとしてマスターし、高い知覚力をもった人を求めている、と本書は結論づけます。

今後、世界がますます不鮮明になっていくなかで、私たち一人ひとりも、曖昧な問題を自分の目で観察し、医師のように「診断」を下していかなければなりません。
そのためには、いったいいどうすればいいのか?
朗報があります。ここまでお読みいただいた読者のみなさんは、その力を磨く方法をすでに手にされているからです。

この部分、読むといてもたってもいられなくなりませんか?

末尾には、なぜクロマニヨン人が生き残ったのかについての魅力的な説も紹介されており、さらに知覚力についての興味が高まります。

知覚力を鍛えるために、私もまずは本書がすすめるとおり、月に一度は気になった絵画をひとつじっくり、できれば実際に美術館やギャラリーにいって、観察してみたいと思います。



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