【本】千葉雅也『勉強の哲学~来るべきバカのために』
『現代思想入門』の、どこか型にはまりきらない風通しのよい文章、それでいて透けた地面の下に見える深い深い知識と含蓄の海のうごめきに魅せられ、千葉雅也さん強化期間はじめました。
1冊目は『勉強の哲学』。
文庫で250ページの手軽さから手をとりましたが、色とりどりの楽しげなきのこやお花があふれた奇妙な森に迷い込んだ気がしています。
勉強するとは、ある価値観で固まってしまった自分を壊して、もっといろんなものを肯定的に面白がれるようになる自分を作り直すこと。
世界をより面白がれるように、生活がよりクリエイティブになるようにすることだとこの本ではいいます。
それに、いまの自分からどんどん脱皮して人間を太く広くしていきたい私は大賛成です。
この本で面白かったのは、そういった概念の抽象的な面と、じゃあどうやって勉強すればいいの?という声に答える具体的な面と、両方があること。
1.抽象的な勉強方法
まずは抽象的な考えかたとして紹介されるのは、「勉強の三角形」です。
懐疑(アイロニー)→連想(ユーモア)→享楽→懐疑・・・
が、「勉強の三角形」。
すべてのものを疑い、深掘りしていくアイロニーをひたすら無限に続けていくと虚無になってしまう。
そこで、虚無になるまえに、いったん懐疑に有限を設けて、横展開する。
他の視点から見るというユーモアに切り替えるわけです。
ですが、それも横展開しすぎると、広がりすぎて収集がつかなくなる。
そこでは自分の「享楽」「こだわり」がユーモアを有限にします。
そしてそこを懐疑で深めて・・・・
それを繰り返していくのが、抽象的な勉強の進め方。
ここで面白かったのは、「可能性をとりあえずの形にする。言語はそのためにある」という指摘です。
「貧困に苦しむ人がいない世界」が実現されていなくても、その世界を表現することはできる。
言語は環境から切り離して操作できる、ということから、自分を言語的にバラす、というくだりにしびれました。
2.具体的な勉強方法
勉強するための具体的な説明は、こうです。
1.手にする本の種類
まずは入門書を複数比較して専門分野の大枠を知る、それから教科書や基本書で詳細を確認する。完璧な通読は不可能。
2.信頼性できる本を選ぶ、そのチェック方法
専門家集団からの相互信頼があるものを信頼する、ねばりづよく比較を続けている人を信頼する。
3.読書における言葉への関わり方に気をつける
自分の言葉で読もうとしない、他者のまっさらな言葉として読む。
そのために大事な部分については、出典から正確に引用するよう気をつける
4.ノートアプリを利用する
複数の勉強を同時並行的に進め、相乗効果を期待する。
自由連想的に書きながら考える、箇条書きの技術(アウトライナー)を用いる。
ここで面白かったのは、「手書きは強く有限化が働く」という指摘です。
紙で書くという行為は、その内容が紙や体の有限性から強くしぼりこまれるので、考えの太い部分を整理するのに役立つということ。
デジタル・アナログを使い分けることを、刃の大きさが違うノミや、目の粗さが違うヤスリを切り替えて彫刻を作っていくことに喩えられているのがわかりやすく、ぽんと膝をうちました。
また、自分の「享楽」を知るための「欲望年表」の作り方も具体的でした。
自分が妙なこだわりをもっていたことなどをリストアップしていき、時代のできごとや自分の関心事の年表といっしょくたに作成したのが「欲望年表」。
自分の基本的なプロフィールが中心となるメイン年表に、「このころはやたらこれが好きだったな」と思うものを書き連ねたサブ年表をつなげることで、広大で無限な連想=ユーモアの世界が有限になる。
今回読んだなかでは「享楽」がぴんとこない部分だったので、私も「欲望年表」をつくるべく、昨日から思いついたこだわりをメモしはじめました。
ミニチュアが好きで集めていたこと、ネグリジェがすきであこがれていたことなど。
無理にかきあつめようとするとぽろぽろ漏れてしまうものも、こわれてしまうものもありそうなので、少しずつやってみます。
最後に
根拠を疑って真理を目指すのがアイロニー。
根拠を疑うことはせず、見方を多様化するのがユーモア。
絶対性を求めず、相対的に複数の選択肢を比較し続ける、比較し続ける途中で中断し、ベターな結論を「仮固定」し、また比較を再開する、これが勉強のプロセスの基本姿勢。
この粘り腰の姿勢に、ネガティブ・ケイパビリティと通じるものを感じました。
白か黒か、「現代思想入門」にあった、デリダの「二項対立」から脱しつつあると思う現代の私たちは、どちらにも引き裂かれつつ、どちらかに偏りすぎてしまわないよう、自分の筋力で「仮固定」し続けるということがひときわ大事な時代に生きていると感じます。
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