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自社だけでなくサプライチェーン全体の人権問題を~人権デューデリジェンス(人権DD)日本の動きと社労士 #0147/1000

1.またもや経済産業省からの人的問題の発信

最近、「人材版伊藤レポート」や「未来人材ビジョン」など、経済産業省の「人へのまなざし」が、社会保険労務士の問題意識とクロスすることが多くなっているように思います。

考えてみれば当たり前で、経済や企業活動と「人」とは切っても切れない関係。

今回も、経済産業省から「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン」が提案され、パブリックコメントでの意見募集期間を経て、発表される予定です。

https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000239771

これは、欧米で法制化がすすんでいる、企業・国をまたぐサプライチェーン全体における人権保護の取り組みにかかわるガイドラインとなります。

2.キーワードとなる人権DDとは

このガイドラインでキーワードとなるのが、人権デューデリジェンス(人権DD)。

人権DDとは、ハフィントン・ポストによれば以下の通り。

「デューデリジェンス(Due Diligence)」といえば、金融の世界では「投資先の価値やリスクを調査すること」ですが、「人権DD」は次のような取り組みを意味します。
「自社や取引先の企業において、どのような場所や分野で、どのような人権に関わるリスクが発生しているかを特定し、それに対処すること」

https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_60e6ea62e4b0e01982ea88f6

自社だけでなく、自国だけでなく、その製品のステークホルダー全体が対象となります。

この議論のきっかけは、2011 年、「ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために」(「国連指導原則」)が国連人権理事会において全会一致で支持されたことです。

この指導原則では、人権保護は国の義務だけでなく、企業にも責任があると指摘しています。

その一環として企業へも人権DDの実施がもとめられ、人権DDが注目されるようになりました。

人権DDにかんする日本の企業への日本政府からのメッセージが、このガイドラインとなるわけです。

同時に、日本で事業活動を行う企業は、国連指導原則の下、日本国内のみならず世界各地における自社・グループ会社及びサプライチェーン等における人権に対する負の影響に注意を払わなければならない。
日本政府は、これからも、国家としての義務を積極的に果たしていく。
本ガイドラインの策定をはじめ、企業による人権尊重の取組を促進すべく、企業に対する周知・啓発活動を推進していく。

責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)より

とはいえ、これがはじめての日本での人権DDにかんする動きというわけではありません。

まず2020年に外務省が「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020-2025)」を公表しました。

その後、2021年、外務省と経済産業省が合同で「日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況のアンケート調査」を行ない、結果を公表しています。

https://www.meti.go.jp/press/2021/11/20211130001/20211130001-1.pdf

昨年の段階では、人権方針を策定したり人権DDを実施している企業は過半数をこえていましたが、外部ステークホルダー関与は3割という結果が出ています。

今回のガイドラインはその次のステップ。

サプライチェーン全体に目配りするという段階はもう少し先のようです。

3.社会保険労務士としてチェックしたいポイント

このアンケートには、「人的資本経営」に関わりそうな結果も掲載されています。

それは、人権対応の基礎項目の実施率が高い会社ほど、売上規模が大きくなるという相関関係です。

この結果だけみると、規模の大きな会社ほど、人権問題発生へのリスク意識が高いため、しっかり取り組んでいるということの反映に過ぎないかもしれません。

しかし今後人権DDの議論が活発化し、データが増えてくれば、人権問題をきちんとすることが人的資本経営とあいまって、経営を安定させたり好転させたりする、という流れも見えてくるかも知れません。

また、今回の「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン」にはだめな例が箇所箇所で紹介されていますが、いま問題になっている技能実習生についての問題が数多く取り上げられています。

しかもなかには、ステークホルダーだけではなく自社内においての事例もあります。

4.2.1 検討すべき措置の種類
4.2.1.1 自社が人権への負の影響を引き起こし又は助長している場合
例:法律によって明示的に禁止されているにもかかわらず、自社内において、技能実習生の旅券(パスポート)を保管したり、技能実習生との間でその貯蓄金を管理する契約を締結していたりしたことが発覚したため、社内の他部門はもちろん、サプライヤーに対しても、そうした取扱いの有無を確認するとともに、それらが違法であることを周知し、取りやめを求める。

4.2.1.3 取引停止
例:サプライヤーが、技能実習生に技能実習に係る契約の不履行について違約金を定める契約の締結を強要したり、旅券(パスポート)を取り上げたりしている不適切な 状況が確認されたことから、そのサプライヤーに対して事実の確認や改善報告を求めたが、十分な改善が認められなかったため、実習先変更や転籍支援を行う監理団体に対して連携・情報提供するとともに、そのサプライヤーからの今後の調達を行わない こととする。

救済(各論)例
自社において、技能実習生との合意に基づかない家賃や光熱水費の天引きが行われていたり、夜間労働に係る割増賃金の支払いが適切に行われていなかったりしたことが発覚したことを受け、天引きについて丁寧な説明を実施した上で技能実習生の自由意思に基づく承諾を得るとともに、未払金を即座に支払う。

貯蓄金管理の禁止や、一方的な給与天引き、割増賃金の支払いなどは、社会保険労務士がおおいに関われる課題だと思います。

経営者へのサポートとして社会保険労務士ができることが、ますます多岐にわたっていきそうです。

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