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【判例から考える】今後の複雑な副業・兼業問題を考える~大器キャリアキャスティング事件

副業・兼業については、厚生労働職からガイドラインも出て、労働力不足の昨今、ますます注目されてきています。


今回は、令和4年度『重要判例解説』に副業・兼業の判例として掲載されている「大器キャリアキャスティング事件」をもとに、これからの副業・兼業について記してみます。

大器キャリアキャスティング事件とは?

「大器キャリアキャスティング事件」、この「大器キャリアキャスティング」というのはガソリンスタンドの運営を委託されていた会社の名前です。

とある労働者Xは、まずこの大器キャリアキャスティング株式会社(以下、Y社)で雇用され、セルフ式のガソリンスタンドで深夜早朝勤務をはじめました。

が、その直後、同じガソリンスタンドでの勤務を、今度は、大器キャリアキャスティング株式会社に運営を再々委託している会社、東洋石油(以下、A社)でも雇用され、同じ場所で働きながら、その日によって雇用主が違うという状況に、X本人がしたのです。

結果、Y社とA社でそれぞれ働いた時間を合算すると、最大でひと月303時間45分。
30日の月でひと月が720時間ですから、ほぼ半分働いていたような状態にまでなりました。

労働者Xは、長時間労働で精神疾患を発病。

労災保険も認められ、給付がされているので、明らかに会社の責任ということですが、雇い止めの撤回や損害賠償をもとめたこの裁判でも、会社側の責任が認められたかたちとなりました。

Y社が、自分の会社のシフトでないときもXが勤務していたこと、A社でも雇用されていることを掴んでいたのに、自社のシフトを減らさせるなどして長時間労働を是正しなかった、社員に対する安全配慮義務に違反していたということがその理由です。

この事件は、本業も副業も勤務場所は同じということで非常に特殊な例です。
したがって、通常の副業・兼業は、相手先の会社をお互い知らない場合がほとんどですから当てはまらないのですが、他の2点において、現在の副業・兼業について考えさせられる点があります。

考えさせられる1.同じ場所で働いているからといって雇用主が同じとは限らない

ひとつめは、同じ場所で同じように働いているからといって、雇用主が同じとは限らないということです。

昔は、同じフロアで働いていれば、正社員やパート社員の違いはあっても、ほぼ、雇用主は同じでした。

ですが、派遣という働きかたが生まれてからは、そうではなくなってきています。

同じ場所で、同じような仕事をしていても、ある人は直接雇用、ある人は派遣会社に雇用され、派遣されてきている人、という状況になっています。

今回は、直接雇用ではありますが、そもそも会社間の業務委託関係があったために、同じ場所でも雇用主は別、という結果になっています。

同じ場所で働いているからといって、一律に扱うことが難しくなってきている状況になってきているわけです。

この事件でA社は、Xの本業のことを知る機会がないということもあり、安全配慮義務違反は認められませんでした。
ですが今後は、こういった複雑さを前提に、「業務委託しているからうちは関係ない」ということが通用しなくなってくる可能性がありますので、注意です。

考えさせられる2.一定の収入が保障されないとこういった働きかたは増える

この事件については、会社から労働者に過重労働を強いたわけではありません。

あくまで労働者Xが、自分でシフトを入れた結果、長時間労働となったのです。

裁判は終わっても、では、どうして労働者Xは、月に303時間も自分からシフトを入れたのか?という問題が残ります。

それはやはり、時給で収入を得ている人が踏み入れてしまう道ではないでしょうか。

この労働者Xの労働内容は、セルフ式給油所において、モニター越しに顧客の行動を確認し、安全が確認できたら給油機の許可スイッチを押すこと、また、清掃関係など、決して重いものではなかったということが、裁判で示されています。

こんな楽でお給料がもらえるなら、どんどん入れたほうが得だと思ったのかもしれません。

結果、仕事内容は重くなかったとしても、303時間の長時間労働は心身に影響をきたしてしまいました。

労働政策研究・研修機構の調査によると、「1つの仕事だけでは収入が少なくて、生活自体ができないから」副業をしている人が、非正社員で31.3%、正社員で20.2%いるとのことです(詳細は以下記事参照)。

そういった人が、労働時間を増やせば収入があがると、むやみに労働時間を増やせてしまう状況が、現代にはあります。

1社のなかでの労働時間は管理できても、副業・兼業しており、その事実を一方が知らない状況は、明らかになっていないだけで、実は多いと思われます。

それに、最近は、タイミーやメルカリハロなどに代表されるスポットワーカーという働き方もあります。

ちょっとお小遣いがほしいから、ということで、すぐにその場で働き口をきめてその日だけ働くことは当たり前に行われています。
その場合、個社での労働時間は管理できていても、スポットワークを提供しているプラットフォーム業者を横断して利用すれば、もう管理のしようはありません。

そういった働き方があっている人も、中にはいるかもしれません。

ですが、健康管理の問題は、誰に対しても必要です。

より一層の自己の健康管理の働きかけや、そういった働き方をしたくてしているわけではない人へは正規雇用をすすめるなど、今後いよいよ重要性が増していきそうです。

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