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勤務間インターバル制度の導入は経営戦略!~労働時間と「人的資本」 #0027/1000

今日は私たちの働き方に大きく関わる「勤務間インターバル制度」という仕組みと、「人的資本」の考え方についてまとめます。

「勤務間インターバル制度」は努力義務

「勤務間インターバル制度」とは、前日の終業時刻から翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を確保しようとする制度です。

このインターバルの時間は会社ごとに設定します。

例えば11時間と設定した会社の場合、前日22時に仕事を終えたら、翌日の仕事は11時間後の9時以降に開始とする、というようなものが勤務間インターバル制度です。

2018年6月に「働き方改革関連法」に基づいて改正された労働時間等設定改善法で、この制度の導入が事業主の努力義務となりました。

「努力義務」は、「導入するように努める」ことをうながすもので、守らなければ罰せられる等の法的拘束力はありません。

行政からの罰はありませんが、対応を怠ったり、努力義務とは正反対の行為を行うと、不利益をこうむった被害者から訴えられた場合は不利になりますし、監督官庁から行政指導を受ける可能性はあります。

「努力義務」はのちに法改正で「義務」になる可能性もあります。

努力義務のうちに導入の検討をしておくと、義務になっても慌てずにすみます。

では、「勤務間インターバル制度」を導入すると、何が良くなるのでしょう?

「勤務間インターバル制度」の意味

厚労省の資料「労働時間等設定改善法 労働時間等見直しガイドラインについて」(2022年3月)には、こうあります。

近年、変形労働時間制をはじめ、フレックスタイム制、裁量労働制といった弾力的な労働時間制度を採用する企業が増えてきました。こうした弾力的な労働時間制度のもとでも、繁忙期等の特定の時期に長時間労働になる、交替制勤務において勤務間隔の短いシフトで勤務しなければならない等のために、十分な休息時間を確保できない状況が生まれています。このような場合には、勤務間インターバル制度をこれら弾力的な労働な労働時間制度と併用することにより、十分なインターバル時間の確保が可能になります。

フレックスタイム等の労働時間制度やテレワーク等で、最近は労働者の働きかたがずいぶん自由になってきました

でも、どんな柔軟な働きかたであっても、過重労働は健康に害を与えます。

特に問題となるのは、ストレスや疲れを軽減してくれる睡眠時間が不足することです。

勤務間インターバル制度の資料には、必ずといっていいほど、睡眠時間についての研究結果が紹介されています。

  • 毎日 4 時間の睡眠時間の場合、その状態が 6 日間継続しただけで、一晩徹夜したのと同じくらいの遅延反応が生じる

  • 10 日以上続くと二晩徹夜したのと同等レベルの遅延反応が生じる

  • 毎日 6 時間の睡眠時間の場合でも 10 日以上その状態が継続すると、一晩徹夜したのと同等以上の遅延反応が生じる

22時に仕事を終え、翌朝8時に出勤する場合は、通勤時間や寝る前の支度、朝の支度の時間を短めの4時間を考えても、6時間しか睡眠時間がとれません。

それが勤務間インターバル制度を取り入れれば、9時までは出勤できなくなるので、7時間は睡眠時間が確保できます。

2020年3月に厚労省が公開した「勤務間インターバル制度 導入・運用マニュアル」には、実際にその制度を導入した会社の声がのっています。

某製薬会社は、顧客である医師の勤務状況に合わせて早朝や夜間に医療機関を訪問しなければならないMR職(医療情報担当者)が、自宅からの直行直帰が多いことをふまえて、「終業時間」から「始業時間」ではなく、「自宅に到着した時刻」から「自宅を出発した時刻」までを考慮できるようなシステムにしていることを紹介しています。

たしかに、勤務間インターバル制度を一律で導入しても、通勤時間は人により違います。

睡眠時間・休息時間を担保することがこの制度の目的と考えると、これからまだまだ活用される可能性を秘めた制度といえます。

「勤務間インターバル制度」利用の実態

厚生労働省は、「令和2(2020)年までに導入企業の割合を10%以上とすること」を目標としていましたが、「就労条件総合調査」を追いかけると、令和3年時点で4.6%にとどまっています。

勤務間インターバル制度の「導入予定はなく、検討もしていない」は平成31年・令和3年ともかわらず 80.2%。

そのうち「制度を知らなかった」と回答したのが両年ともに19.2%。

令和3年は、「当該制度を知らなかったため」の全企業に対する企業割合は 15.4%になっていて、勤務間インターバル制度がまだまだ知られていないことがわかります。

ですが、令和3年の就労条件総合調査によると、30~299人の規模の会社では「企業平均間隔時間」が11時間を超えていてゆとりがありますが、1,000人以上では9:55、300~999人で10:14とかなり厳しい数字になっています。

規模が大きい会社は人事もしっかりしていることが多いので、「制度を知らない」ということはなさそうです。

「勤務間インターバル制度」は、社員にとってはしっかり休息時間がとれるありがたい制度。

では、この制度がひろがっていく可能性はないのでしょうか?

「勤務間インターバル制度」と「人的資本」

前に紹介した「勤務間インターバル制度 導入・運用マニュアル」には、以下のQ&Aがのっています。

Q.経営層が制度導入に対してなかなか理解を示してくれず、役員会でも議題の優先度が高くありません。どうすればよいでしょうか。

A.経営層に「勤務間インターバル制度の導入は経営戦略の一環である」との意識を持ってもらえるよう、働きかけを続けることが重要です。制度を導入し、従業員がインターバル時間を確保できるようになれば、企業経営にとって重要な「従業員の健康の維持・向上」、「従業員の確保・定着」、「生産性の向上」といった効果が得られることを丁寧に説明しましょう。

この「経営戦略の一環である」という考え方。

この「経営戦略」と「人事」についての課題については、弁護士の堀田陽平先生が書かれている「日本型雇用慣行自体が“悪”ではない。経営戦略と人材戦略の”ずれ”が問題」を読むとよくわかります。

そこまで深い課題としてとらえなくても、世の中の変化にともなって経営戦略も変わり、「人的資源」から「人的資本」に考え方が変わってきている、という点は大事だと思います。

堀田先生はこういいます。

「資源」というものは、「既に持っているもので消費されていくもの」ということが含意されています

他方で、「資本」は、「価値を生み出すもの」ということが含意されることになります。したがって、人材に投じる金銭的拠出もコストではなく「投資」という意味が出てくることとなり、価値創造に資するものとなります

人材が「価値を生み出す」ためには、休息時間は必須のものです。

「勤務間インターバル制度」は、パンフレットに書かれているとおり、それほど大きな導入費用等が必要なわけではありません。

導入のハードルが高くないのに比べ、従業員の休息時間は確実に確保できるので、「人的資本」に資するところが大きい制度ではないでしょうか。

「勤務間インターバル制度」が普及していってほしいとは思いますが、もちろん、休息時間が当たり前に11時間以上とれる働き方に世の中がなってくれることのほうが、嬉しいことではあります。

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