茶汁一滴
夏だ! 熱い茶だ!
ウソは言っておりません。夏こそ熱いお茶のシーズンですよ奥さん。
下手に体の内部を冷やすから、外と内の温度差が大きくなって余計に暑さを感じるのです。
6月だというのに、暑い暑いぜ暑くて死ぬぜ。
そんなわけで私たち夫婦は久しぶりに浦賀のお茶屋「茶井」さんを訪れました。正しくは私が久しぶりで、妻がこの店に来るのは初めてです。
前回と同じく「お茶は上喜撰」の文字が躍る店構え。
なお上喜撰がどんなお茶なのか、については2年前に書いたnoteをご覧ください。なおその説明部分、有料設定ですのであしからず。
お茶屋さんということで、まずはエスプレッソ(ダブル)とベルギーワッフルを注文……いや、この店はやたらとエスプレッソが美味しいのですよ。
エスプレッソには以前店主から教わった通りに「スティックシュガーを2本」入れる。下に砂糖が沈むぐらいが一番コーヒーの味が分かるとのことです。実際、これを知ってから私はエスプレッソが大好きになりました。
妻は「さくらかおり」なる静岡茶を注文。桜のような香りがするのだそうです(そのまま)。
ところがこのお茶、どうやら最近雑誌で紹介されてしまったらしく注文が殺到、その結果上質なお茶の多くが買い占められるという事態に。なるほど、お茶業界もなかなか仁義なき戦いが繰り広げられているのですね。
さて、ここからが本日の本番です。
『一滴茶(玉露)』 ~30℃の衝撃~
妻からの「ねえ、前にこのお茶を飲んでみたいと言ってなかった?」の一言で思い出しました。
確かに2年前のnoteで書いてました。
> ヤバい、他にも興味があるお茶が! 特に4番の「一滴茶(10cc)」って何だよ! この量で500円とは! これは次回チャレンジとします。
今回は10ccとの表記がなくなった上に、100円値上がりしています。うーむ……。だが男なら挑むしかない。
ガソリン一滴は血の一滴!
乾坤一擲は茶の一滴!
「ヘイマスター! 一滴茶プリーズ!」
「坊や、若いというのは良いことだ……だがそれはいけない」
(脳内会話)
普通に注文しました。
まずは店内に設えられた鉄製の茶釜から柄杓でお湯を組み、茶器を温めています。
余談ですが店主によれば
「お茶は鉄分の吸収を阻害するので、調理器に鉄製を使うことで鉄分を摂るようにしています」
とのこと。うむ、心憎いまでのこだわり。
大小二種類のお椀にお湯を汲んでは捨て、少しずつ温めていきます。
しばらく経った後、店主が温度計を手に
「今、ちょうど30℃になりました」
との報告が入りました。ここからいよいよ一滴茶のドリップに入ります。
30℃、30cc、120秒。
この時間と温度が抽出に最高なのだそうです。
まず一煎目。
こちらは小さな器に入れられます。
続いて茶釜からお湯を足して二煎目。
少し大きな器に注がれます。
「ではどうぞ。お茶の味わいが双方でまるで違うことをご確認ください」
店主からのゴーサインが出ました。いよいよ飲む!
口の中に広がっていくお茶の香りと甘み……と書けば、単なるテンプレ文章。だが実際は私の想像を完全に超える味であった!
(素直に書きます)
オヤジ! 茶の中に味の素ブチこんだだろ!
もちろん現場ではさすがにそんなバカなことは言いませんでしたよ?
「凄いグルタミン酸の味ですね……」と言いました。
でも私の愚舌が最初に認識した味は、まさに味の素。その味の正体は「お茶の香りや甘みを遥かに凌駕する旨味成分の凝縮」だったのです。
なぜ私は錯覚したのか。そのプロセスを見てみましょう。
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以下、Wikipediaより
テアニン(L-Theanine)は、茶に多量に含まれるアミノ酸の一種でグルタミン酸の誘導体。植物の中でもチャノキ(Camellia sinensis)とそのごく近縁種)(中略)にしか見つかっていないアミノ酸であり、茶の旨味成分の一つである。
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今回の「一滴茶」に使用される茶葉は、福岡県産の八女茶を使用した玉露。
これは覆いを被せて日光を遮断することでテアニンを増加させる製法が取られています。しかもその際に渋み成分が減少するので、飲みやすくなるのだとか。
店主によると
「東日本のお茶は旨味よりも香り成分を重視しており、比較的軽い味わいです。ですが西日本、宇治茶や八女茶は旨味成分を重視し、濃厚な味があります」
ただでさえ旨味の強い八女茶のパワーアップ版、なおかつそこから徹底的に旨味を抽出したとすれば……。
テアニンとはグルタミン酸の誘導体。
そして味の素の主成分はグルタミン酸ソーダ。
つまり! 美味いお茶とは味の素風味なんだよ!(違います)
超濃厚テアニンの粋を味わった後は、二煎目のお茶へ。香りが強く、すっきりとした甘み、爽やかな後口。こちらは我々が知る「美味しいお茶」でした。これだけでも大満足です。
しかしここでご主人から新たな提案が。
「その残ったお茶の葉、美味しいですからどうぞ」
――茶葉を食べろ、だと?
しかもテーブルにドン、と置かれたポン酢。これをかけて食えと……。
※一応「茶器にポン酢入れていいんですか?」と聞きました。磁器だから大丈夫です、とのこと
まずはポン酢なしで。
さすがにお茶の葉、やはり多少の渋み、苦味はあります。でも嚥下後に怒涛のごとく押し寄せる爽快感は、さすが良質茶葉。春菊のお浸しからアクを抜いたような味、と表現できるでしょう。
残りにポン酢をかけて頂く。醤油味がおか茶の旨味を引き出す。柚子の香りとお茶の香りの絶妙な出会い。
うむ、確かにポン酢をかけたほうが美味い!
お茶と柑橘系と言えば、そう、静岡のお茶とミカン。この二つの組み合わせの妙を知っていたとは、やるな静岡県!
※注:福岡県産の八女茶です
「以前は八女の農協から仕入れていたのですが、最近は個人農家と契約してお茶を仕入れています」
こんな言葉も聞くことが出来ました。生産者にも気を使ってこそ出来る、美味しいお茶。生産地から淹れ方に至るまでこだわり抜いた逸品。わずかな量のお茶に600円なんて……と考える向きもあるでしょうが
私はあえて
「騙されたと思って一度飲んでみろ」
と申し上げておきます。お茶に関する世界が変わります。
だが飲んだ後、妙に脳が軽快に動いてしたのですが、やはりこれはカフェインの影響……。
そうだよ、すっかり忘れてた!
「太平の眠りを覚ます上喜撰、たつた四杯で夜も寝られず」
しかもその前にエスプレッソも飲んでいたw
お茶ってそういう効果があったんだった!
恐るべし浦賀。恐るべし上喜撰、いや一滴茶!
「競馬最強の法則」にて血統理論記事を短期連載しておりました。血統の世界は日々世代を変えてゆくものだけに、常に新しい視点で旧来のやり方にとらわれない発想をお伝えしたいと思います。