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読書備忘録:「論理的美術鑑賞」堀越啓

「論理的美術鑑賞」堀越啓

絵画の鑑賞方法について書いた本なのだが、とても良かった。「論理的作品理解で感性はもっと鋭くなる!」と謳っていて、絵画を鑑賞する際のポイントについてわかりやすく解説している。

著者の堀越さんによると、絵画鑑賞には5つのレベルがあるそうだ。

第一段階「直感的で表面的な好き嫌い」段階
第二段階「本物そっくりがいい!」段階
第三段階「アーティストの生き様や表現がいい!」段階
第四段階「アートヒストリーをわかった上で判断できる」段階
第五段階「評論的に独自の見解を示せる」段階

この5つのレベルに激しく納得。絵画鑑賞は好きでよく見に行くのだけど深い理解は全くできておらず、第二段階の「本物そっくり」が好きレベル。いや、芸術鑑賞はルールなんてなくて、人それぞれ楽しめれば十分だと思う。だけど私は「なんとなくこの絵は好きだなぁ」「上手だなぁ」「よく意味がわからないから嫌いだなぁ(特に現代芸術や抽象画など)」みたいな感想しか持てないのが悔しかった。そんな自分にまさしくうってつけの本で、絵画の鑑賞のポイントとなる着眼点等を分かりやすく説明している。

この本によると鑑賞のポイントは下記のような項目だそうだ。

①作品の基本情報「時代」「人」「場所」
②アーティストの人生を読み解く
③当時の美術業界を読み解く「革新」「競争・共創」「顧客」
④当時の美術を取り巻く状況を読み解く「美術様式」「政治」「経済」「社会」「技術」

確かにこれらについてアンテナを広げるだけでぐっと理解が深まりそうだ。また企画展示はテーマにそって作品が選定されていることが多いそうで、図録が理解を深める助けになるとのこと。重くて高いけど記念に図録を買うのが好き(そしてパラパラ絵を眺めるだけで、ほとんど文章は読んでいない)で家に沢山あるので、読み返してみよう。

この本を読んで感動したのは、絵画鑑賞を理解できたこともあるが、この鑑賞術は絵画だけでなく文学や音楽にも共通するんじゃないかと気づけた点だ。

私は大学で日本文学専攻だったのに、文学評論や文学分析を全然理解しないまま卒業したのがずっとコンプレックスだった。レポートは何を書いたらいいのかわからず、読書感想文のような事ばかり書いていた。卒業して十年経った今この本を読んで、絵画鑑賞と文学鑑賞には通じる点がたくさんあることに気づき嬉しくなった。文学鑑賞にも理解のレベルがあるとしたら、きっと「なんとなく好き、面白い」「作家の人物像を理解した上で好き」「文学史の流れをわかった上で好き」と分けていくことができそうだ。絵画鑑賞と同じように「作品の登場人物や舞台となった場所等の基本情報」「描いた時代背景」「作家のストーリー」などが文学を理解する参考になるだろう。絵画にキーワードとなるモチーフがあるように、文学にも散りばめられた言葉が重要な役割を果たすことがある。
もちろん文学だって理論的に分析しなくても、なんとなく好きで楽しめたらそれだけで尊い。でも私はずっと理解できなかった文学の世界がほんの少しだけだけど、わかった気がして嬉しくなった。

きっと頭のいい人はテクニック的に知らなくても自然と鑑賞術を理解し、絵画や文学を楽しめると思う。しかし私は見るポイントがよくわからず曖昧だったから、この本を読んで丁寧に解説してもらってやっと理解できた。ピントが合わない視界が、よく見えるメガネをかけて世界がはっきりするように、この本を読んで芸術の世界を見るポイントを知って以前よりも細部まで楽しめるようになった気がする。

コロナで移動が色々制限されている現在だけど、いつか好きな芸術作品に会いに行きたい。絵画や音楽も気になるし、文学館に行くのも楽しそうだ。その時には、この本で知ったポイントをぜひ心に留めて出かけたい。

ヘッダーの絵はエドワード・ホッパーの「ナイトホークス」。ホッパーの描く孤独は鑑賞者の心の孤独を思い起こさせるようで、それでいて優しく寄り添ってくれるような気がして好きだ。代表作の「ナイトホークス」はホッパーの中でも好きな作品だ。室内と外の対比が綺麗で、まるで映画のワンシーンを切り取ったよう。楽しそうに寄り添う男女に対し、こちらに背を向けている人物からは孤独を感じる。遠いし観光で行く機会も限られそうなシカゴ美術館に所蔵されているが、いつか絶対見に行きたい。

#読書メモ #論理的美術鑑賞 #西洋美術 #芸術鑑賞 #エドワード・ホッパー


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