【司法書士のなぜ】「遺言」はハードルが高いもの?自分の相続人を知ること

私は20代~40代の元気な世代にこそ遺言書を書いてほしいと思っています。というのも、現在相続の手続きを行う、つまり不動産の名義変更や預貯金の解約を行う場合相続人全員の協力が必要です。この協力が必要というのは、端的に言うと「実印を押してもらって印鑑証明書を預かる」ということです。もちろん、今後はハンコの廃止の流れになりますから一般的な手続き自体は多少変化することにはなるでしょうが、協力が必要なことが変わることはなかなか難しいでしょう。

1.結婚していない場合

結婚していない、子供もいない場合には、相続人はまず「親」次に「兄弟」となります。これからの時代、結婚の選択をしない方も増えていくでしょう。これはよく生命保険の話でも出る話ですが、60歳まで生きている確率はいくらかと思いますか。男女平均でいれば95%は生きている計算と言われています。つまりは、5%は亡くなる計算です。100人いたら5人、1000人いたら50人、1000万人いたら500人。これを多いか少ないかは人によって感じ方は違うでしょうが亡くならないということは絶対にないのです。そして、60歳以前に亡くなった場合、現在の平均余命を考えるとご両親がご健在の可能性もあります。そうでなくても、兄弟はご健在のことは多いです。兄弟同士で常に連絡を取り合っており、相続も滞りなくできれば問題ありませんが、そうでないとあなたの家族は言い切れますか。

2.結婚している、子供がいない場合

夫婦2人で暮らしている場合、例えば夫が亡くなった場合の相続人は「妻」と「夫の兄弟(姉妹)」です。1.の例では、親や兄弟という血縁関係がある中での相続ですので、仲が悪いことはあれば多少の情もあるでしょう。しかし、もしあなたが亡くなって配偶者(妻または夫)の兄弟と、遺産の話し合いをして印鑑をいただくということをどのように考えますか。容易なことととらえるか、そうではないか…。

3.結婚している、子供がいる場合(未成年)

じゃあ、子供がいると安心なのかというと。子供がいる場合、相続人は「妻(または夫)」と「子供全員」です。ただ、今回子供が未成年であると想定した場合、スムーズに進めるのは困難になります。子供が未成年の場合、子供の変わりに親が代理権を持ち手続きを行うことになります。(代わりに動くということです)ただ、もしかしたら親が「子供のためではなく」「自分のために」遺産分けをしたりするかもしれない。それを防ぐために、裁判所がこの遺産相続に介入し、未成年に不利益がないかを判断することになります。その上で、子供には親とは異なる「代理人」が選任されその代理人が遺産の相続の話し合いに参加することになります。そして、裁判所のスタンスは「未成年の不利益を防ぐ」ことなので、基本的には未成年が承継する資産を用意しないと遺産相続の内容を認めてはくれません。ただ、完全に認められないわけではなく、裁判所を納得させることができれば可能ですが、こればっかりはいつも裁判所の判断にゆだねるところです。つまり、家族内の話し合い、子供と親のことなのに、当事者だけでは決めることができず、裁判所が絡んでくることになります。

4.結婚している、子供がいる場合(成人している)

この場合が一番わかりやすい・イメージしやすい相続の形かと思います。相続人は「配偶者(妻または夫)」と「子供全員」です。成人している子供は話し合いに自ら参加できます。その中で話し合いをすることで、遺産相続は当事者が決めることができます。ただ、イメージしてみてください。ご自身が亡くなった時、あるいは自分の配偶者が亡くなった時、その人がもつ資産をすべて把握していますか。どこに連絡を取り、どのように手続きを進めればよいかイメージできますか。もし、ご親族の相続を経験された方なら分かることですが、相続の時は多くの書類の準備を求められます。そして、その書類は多くは平日の9時~18時しか取得できず、電話もつながらない…。それなのに多くの書類に実印を求められて、大量の戸籍や印鑑証明書を準備しなければならない。考えただけでゾっとしませんか。今でこそ、インターネットで調べれば相続の方法はいくらでも出てきます。それでも挫折してしまう人がとても多いのは、集めるべき書類が膨大さと見慣れない文章、そして役所のたらいまわしに辟易することが多いためです。

5.死亡時は平常時ではない

そして忘れてはならないのは、上記のような動きをとるのは家族が亡くなった時です。人生に何度もない、心がとても辛い時。そんなときに事務作業に追われ故人も悼む暇もない。あなたが相続の手続きをしたことがあり、残された家族ならばスムーズにできると確信するのであれば、そのままでもいいでしょう。でもそうでなければ、残された家族の負担を減らすためにも遺言を残すことを私はおすすめします。

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「遺言」についての問い合わせは「info@may-legal.com」またがtwitter「mayrin_ueda」のDMまで。



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