新・えきねっとは誰のためのシステムなのか?

結論から書くと、ちょっと思い当たらない。というおはなし。

そもそも「えきねっと」とは

JR東日本の予約サイト。今週末にリニューアルを実施しました。

切符オタクの界隈では「あの切符が発行できない」「売ってはいけないはずの切符が検索結果に出てくる」などなど、いろいろな反応があったようですが、一般の方からすると「鉄道オタクがなんか騒いでいるなぁ」っていう感じかもしれません。私も個々論的なところはあまり興味がないから、そこについては書きません。

じゃあ、ここで何を書くかというと、UIの話をします。鉄道に限らず、いろいろなシステムにも言える話かな、と思ったので。

きっぷを買うまでの道のりが大変

先述のプレスリリースには色々と変更点が書かれているんですが、1番目に書かれているのが「列車のお申し込みの操作方法が変わります」という点。

「えきねっと」トップページからダイレクトに、「乗車駅」「降車駅」や「日時」等の条件を入力していただくことで、乗換案内の検索結果からスムーズに列車をお申込みいただけます。

と書いてあるのだけど、この「検索結果からスムーズ」というところがだいぶ怪しいんですよ(検索結果がおかしい、という個々論的な話もあるけどここでは割愛)

例えば、実際に東京駅から山形県の酒田までで検索をしてみましょう。

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まず「東京」って入力すると第一候補が「大久保(東京都)」と出てくる点でだいぶイラッとするんですが、そこは抑えて検索してみます。

で、出てくる画面がこんな感じ。

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「新潟乗り換えで13200円かー」って思って次のページを開くと「切符の種類を選んでください」っていって、とても縦に長い画面が出てくる(スマホだととても見づらい)

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それで選んでいくと、出てくる合計金額が13200円じゃない、っていう。

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ここがまず一つ目の致命的なイマイチポイントで、検索一覧で出てくる料金は「紙きっぷを通常期に買った時の値段」、つまり今買える最低価格とかではないということ。だから、最初に出てくる画面では「この駅で乗り換えた方が安いのかー」っていう検索が出来ない、ということになります。

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グレーアウトされた選択肢を復活する方法がわかりにくい

二つ目の致命的なポイントはここ。

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「乗継割引」という箇所がグレーアウトされていますが、これを有効化する方法が見当たりませんよね。ヘルプとかを見ればいいかもしれないけど、それは面倒ですし、人によっては「もういい!高速バスを探す!」ってなるかもしれないですよね。

いや、「乗継割引」が何か知っている人は解決できるんですよ。最初にあった選択肢を「新幹線eチケット」から「紙のきっぷ」にすればいいんです。でも「乗継割引」を知らないと、この操作は出来ないんじゃないでしょうか。

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で、さらに問題なのが、「新幹線eチケット」から「紙のきっぷ」に変えた瞬間に「お支払い総額」がリセットされる、という点。合計金額を見るためにはもう一度入れ直しです。そして、元の金額をメモってなかったら「eチケット+乗継割引なし」と「紙のきっぷ+乗継割引あり」どっちが安かったかわからない、という落とし穴が待っています。

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これ、自動で最安値を選択してくれるシステムじゃダメだったんでしょうか?いちいち客に選ばせる必要あるのかな?と思ったり。

大多数の人の目的は「切符を買いたい」では無い

色々と使い勝手が悪いことは感じてもらえたかな、と思いますが、何でこんな仕上がりになってしまったのでしょうか。私は「このシステムは誰がどのように使うのか」という基本コンセプトが固まっていないことが原因だと推測しています。

これまでのスクリーンショットを見返してもらいたいのですが、経路を決めた後の画面では「切符の種類はどうしますか?」とか「この切符を買いますか?」とか、切符を中心に質問が出てきていました。切符を組み合わせて行って、合計金額はいくら、という感じ。発想がきっぷを中心に回っている、といったところでしょうか。

でも、実際の駅の窓口のやりとりって違いますよね。「東京から酒田まで11時頃出発で、指定席」とか言いますよね。そして、大抵は言わなくても1番安い組み合わせで切符を売ってくれますよね。客の関心は「東京から酒田まで移動したいけど、いくらするのか」っていう点であって、「どのきっぷをどう組み合わせるか」ではないですよね。このあたり、「切符を売る」という認識のJR東日本と「移動をしたい」という客とで意識の差が出来てる気がします。

ここで鉄道ではない例を出しましょう。パソコンをネットで買う時って「最小スペック」での値段が出てきて、CPUを良くしたりとかグレードアップをすると加算されていくし、キーボードとか既に持っていたら減算してくれる、っていう感じですよね。最初の画面が0円で、CPUとかハードディスクを選ぶ都度加算、なんて通販があったとしたら、途中で「結局このパソコンいくらなの?」ってなる。そもそも、CPUがないとパソコン動かないんだから「CPU要りますか?」って選択肢はおかしい。でも「えきねっと」は「このきっぷいりますか?」みたいな構成になっているわけです。

私だったら、全区間を最安値で買った時の合計金額を最初に出して「指定席にしたら+○○円(乗継割引適応)」とか「Suicaにしたら○○円割引」とか「乗車券をお持ちの場合はクリック」とか、そういう選択肢を作ると思います。基準の価格からプラスマイナスしていくほうがわかりやすいんじゃないかな。

そもそも、検索要ります?

で、これは人によって意見は色々だろうな、と思いますが、そもそも論として「えきねっと」に経路検索って要るんでしょうか?

考えてみて欲しいですけど、酒田に土地勘がない人が「東京から酒田まで行きたい」と思ったときって、どうするかというと、人に聞くとか、ネットで検索するだと思うんですよ(駅で聞く、という人は「えきねっと」に来ない人なので・・・)

そのうち、ネット検索した人って「東京から酒田」ってもう既に経路検索をしているわけですよ。それバスとか他の手段と比べてJRのきっぷを買いに「えきねっと」に来たわけですから、ここでもう一度経路検索をさせるのって二度手間じゃないでしょうか。

で、例えばYahoo!乗換案内なんかを使うと、飛行機の場合は「航空券予約」っていうボタンが出てきていて、ここからJALなり ANAなりの予約サイトに飛べる(対応していない航空会社もあるけれども)。これだったら経路検索は一回だけじゃないですか。

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そう思うと「えきねっと」は自前で経路検索を頑張るよりも、ほかの検索サイトの中にリンクを組み込んでもらうほうが良いんじゃないかしら、と思ったりします。経路検索絡みのエラーが色々と飛び出していることもありますし・・・

で、人に聞く、っていうパターンですが、これも「あぁ、新潟からいなほに乗ればいいよ!」って情報持っているわけですから、これも経路検索でなくて「東京から新潟まで新幹線」「新潟から酒田までいなほ」と入力させるシステムでも良いような気もします。

なんというか、「このサイトにやってきた人は、その前にどこで何をしていたと予想されるか」とか、「このサイトでどういうアクションを起こすと予想されるか」とか考えてサイトを作りましょう、っていう、この最近よく言われている話をガン無視した構成になっている感じがします。

まとめ

なんか思いついたところを書いてみました。何となくなんですが、切符を売る側の駅員さんの思考パターンに沿ってシステムが作られている気がして、客の動きとか客のニーズを起点に作っていない感じがします。

最近、Windows11のチェッカーが話題になってましたが、これも似たような話で「このPCでは動きません!」っていわれても「じゃあ何を直せばいいんだ」っていう解決策が無かった、という話でしたよね。Windows11チェッカーも、顧客の最終的な目的は「Windows11が動くか否かを知る」ではなくて、その先の「Windows11を使いたい(だから問題があるならどこか教えて欲しい)」にあった、という点を見落としていた、という話だと思います。

マイクロソフトからすると、このチェッカーの使い勝手が悪くても直接は問題ないはずなんです。だって11へのアップグレードは無償なんだから。たぶん「チェッカーがわかりにくい!11にしないぞ!」っていう人が続出したとしても、Appleの発表会で「Windowsは11への切り替えが遅いですねー」っておちょくられるだけ。

でも「えきねっと」は違うんですよ。実際に有償のものを売る場所なんです。「わかりにくいから高速バスにする!」ってなったら、JR東日本は機会損失しちゃうわけです。実際、WILLERとかJRバスのサイトの方がわかりやすいし、スマホの画面見せるだけで乗れたりするし、「通常席○○円、特別席○○円」って合計額で書いてあるし、鉄道みたいに乗車券と特急券と〜みたいに切符何枚も出てくるのと比べると段違いにシンプルだし。そのへんで発生している機会損失と向き合えてない感じもしますね。

マイクロソフトはやっぱりソフト屋さんですから対応早かったですが、「えきねっと」はいつ軌道修正されるのでしょうか?今後の動向が気になるところです。


2021/7/1 0:09 追記:上記のWindows11のチェックアプリですが、その後「一時削除」となったそうです。マイクロソフトは「チェックを掛けたPCがアップデートできない理由について、正確さや詳しさがユーザーの期待レベルに達していなかった」とコメントしています。不完全なものが世に出てしまった事実は変えられませんが、不完全なものが出来てしまったときに、そのまま放置せずに「これは対処が必要だ」と自己認識する、その大切さがわかる事例かな、と思います。



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