映画『Perfect Days』を見ました
1月2日(火)にTOHOシネマズ日本橋で、1列目以外満席の劇場で『Perfect Days』を見ました。以下はネタバレを含む感想です。
関係者の方からファーストリテイリング取締役の柳井康治氏が始めた“トイレプロジェクト”の一環で、ふだんはCMを作っているチームが製作した映画だと聞いていたので、もう少し商業的な映画を想像して見に行ったのですが、むしろドキュメンタリーに近い映画的な映画でした。中盤から涙が止まらなくなり、最後まで主人公平山の生活に引き込まれました。
平山は、渋谷のTokyo Toilet Projectのトイレ清掃を生業にする老年男性です。冒頭はひたすら平山の1日が描かれます。軽バンを走らせ各所に散らばるトイレへ出向き清掃するシーンが続き、その仕事ぶりから真面目で真摯な平山の性格が見えてきます。しかし彼の人柄とは関係なく、職業差別を受けるわ、同僚が若く不真面目で割を食うわ、で一見不幸な人なのかな?と思わされるわけです。
しかし仕事が終わってボロ家に帰るとすぐさま観葉植物に水をやり、銭湯へ行き、飲み屋で一杯引っ掛けた後また家に戻り、眠くなるまで文庫本を読んで就寝する、という平山の私生活が描かれる頃には、実は幸せな人なのかもしれない、と思い始めます。
基本的には、平山のこの規則正しい生活が何度も繰り返されるだけの話なのですが、日々出会う人々、起こる出来事は少しずつ違います。泰然自若に生きる平山は、日々の機微を敏感に感じ取りながら影ではなく光に焦点を当てて生きているように見えます。
物語が進むと、彼以外の登場人物の言動から少しずつ彼の過去が明かされていきます。彼がなぜ孤独な生活を送っているのかがうっすら見えてくると、彼が自ら選んで清貧な生活を送っていることが分かってきます。
人間は置かれた環境や関わる人たちに関わらず、自ら生き方を選ぶことができるということを平山は教えてくれます。途中から涙が止まらなくなったのは、音楽がたまらなくいいのと、すべてのキャストの演技に味があり、自分が暮らす東京の美しさが存分に描かれた人生賛歌だったことにあると思います。
毎日同じことを繰り返す主人公平山の暮らしが大木のようにしっかりあって、その幹から枝葉が伸びるように家族や同僚、他人との関係が描かれ、
一切セリフに頼ることなく平山という男の過去や生き方が紐解かれていく構成が素晴らしいと思いました。
同僚のタカシや姪っ子のニコなど、若い世代の登場人物もいて、さまざまな世代の視点が盛り込まれていることで物語に深みが出ていますし、若い世代がカセットテープの音色に魅せられるなど、レトロカルチャー/オフラインカルチャー賛歌にもなっていて、アスペクト比1.33:1の画角や白黒のインサートなど、映画全体のレトロな演出も素敵でした。
平山は携帯電話もガラケーでインターネットとは無縁の生活を送っています。音楽はカセットテープで聴き、エンタメは古書店で調達する100円の文庫本を毎日少しずつ読みます。趣味は植物を育てることとフィルムカメラで木漏れ日を撮影すること。写真は定期的に現像しうまく撮れたものだけを厳選して保管しています。物質的にミニマルでありながらも精神は充実している、そんな平山のライフスタイルには憧れすら感じるほどでした。断捨離やミニマルライフといった現代のトレンドともシンクロしています。
今年は元旦から災害続きで、心がざわつく年明けとなりましたが、平山のように自分という幹をしっかりと持ち、日常のささやかな喜びに光を当て、毎日同じ生活ができることに感謝して生きたいと思える映画でした。一年の初めに見るのにおススメの映画です。
余談:共同脚本/プロデューサーの高崎卓馬さんがインタビューで、製作過程の話をしていたのですが、ヴェンダース監督に「この映画のテーマは?」と訊いたら本気で怒られた、という話が面白かったです。監督は「テーマを訊くな、それを言葉にできるなら、映画を作る必要などない」「製作者が考えたことが正解ではない」とおっしゃったとか。
Filmarksで映画の感想などを読んでいると、「この映画のテーマは…」という考察を書いている方は多いですし、自分も「この映画は何を言わんとしているのだろう」と考えがちなのですが、映画の受け取り方は見る人/見るタイミングによって違っていいし、そんな自由がある映画こそ名画と呼ばれるものなのかもしれないな、と思いました。
他にもCMと映画の違いなど、経験者にしか語れないことなどもお話されていたので、こちらの動画も必見です↓
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