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ムジカ・ピッコリーノよ 永遠に


はじめに

「ムジカ・ピッコリーノ」とは2013年から約10年間、NHKEテレで放送されていた音楽教育番組です。最近では2024年5月にAmazon Prime Videoチャンネル「NHKこどもパーク」にて「ムジカ・ピッコリーノ レジェンダ」というシーズン1と2を抜粋して再編集した番組が配信されました。

私はムジカ・ピッコリーノが大好きです。私の中の音楽観に大きな影響を及ぼした番組で、ムジカ・ピッコリーノとともに過ごした時間もとても大切なものなので記録しておこうと思います。注意点としてはムジカ・ピッコリーノをある程度知っている方向けの記事になっています。

ムジカ・ピッコリーノと私の人生

レギュラー放送が始まった当時の私は小学生で、番組の放送時間が土曜の朝というあまりテレビをつけない時間帯だったので存在を知りませんでした。中学に入学し、部活に出かける前にたまたまテレビで見て「なんだかよくわからない番組だなあ」と思った記憶があります。シーズン3からは金曜夕方の放送が始まりましたが、中学生にとっては部活の時間だったためほとんど見たことはありませんでした。

中学2年生の秋、私は小林賢太郎に出会います。彼の作品にのめりこみ、いろいろと調べていく中で、彼の作品の音楽を数多く手掛ける徳澤青弦というチェリストの存在を知ります。青弦さんのTwitterを覗くと、「ムジカ・ピッコリーノ」という番組に出演していることがわかりました。さっそく番組を録画して見てみると、確かに青弦さんが出演されていました。しかし、気づくとシーズン3は終わり、シーズン1の再放送が始まっていました。「青弦さんいないし知っている人がアリーナちゃんしかいない!?!」と困惑しつつも毎週見ていくうちにじわじわとハマっていきました。特に、「4分33秒」を扱った「鳴かない!?」の回は衝撃的で、とても印象に残っています。

その後、2016年春に始まったシーズン4からは番組を真剣に見るようになりました。高校ではシーズン3の「リベルタンゴ」を見て憧れを持っていたチェロが弾ける部活に入りました。私は高校に入るまで全く楽器に触れたことがありませんでした。音楽や楽器はむしろ苦手で、小学校や中学校の音楽の授業ではピアニカやリコーダーに悪戦苦闘していましたし、友人に「おなか使って声出して」「音めっちゃ外してたよ」などの言葉をかけられたこともあります。当然、楽譜も読めなかったのですが、そんな私でも思い切って楽器に挑戦しようと思えたのはムジカ・ピッコリーノのおかげが大きいです。できなくてもわからなくても挑戦する心意気はアリーナちゃんに教えてもらったような気がします。他にも、音楽に対するワクワク、演奏の難しさや楽しさ、みんなで息をそろえて演奏することのきらめき。これらはピッコリーノ隊から学んだものを高校の部活動で形にできたと思っています。

💯が私

大学受験の際はシーズン5をよく見ていました。受験生たちが主役のシリーズなので、登場人物やストーリーに勇気づけられていました。模試の判定が振るわなかったり、自分の夢や目標を見つけて努力している仲間の中でまだ自分がわからず悩んだりする登場人物たちに思いを馳せていました。毎朝、家を出る15分前には「花束とメロディー」を流して、そこから「Don’t Stop Me Now」までを順番に聴くのがルーティンでした。センター試験の日には駅から会場まで向かう道中、「One More Time」をひたすらリピートで聴いていました。

2019年春、無事、大学に合格した私は東京で一人暮らしを始めました。そのタイミングで買ったテレビとハードディスクを今でも使っているのですが、録画リストにある最古の番組はムジカ・ピッコリーノの朝霧JAMです。金曜日に家に帰って録画したムジカ・ピッコリーノを見るのが毎週の楽しみでした。番組が好きすぎて、渋谷のNHKに聖地巡礼(?)にも行きました。

ムジカムンドの入口

大学で私は演劇サークルに入会し、音響を担当していました。ここでもムジカ・ピッコリーノでの学びが活きました。それはいっちょ噛みの精神です。知らないアーティストの知らない曲であってもワクワクしながら再生ボタンを押してみること、それが自分の中の音楽観を豊かにすること、それによって世界が広がること。演劇で使う音楽を探すときにこの精神はとても大事にしていました。作品づくりに関わるたびに知らない音楽に出会えることを楽しみながら活動することができました。

大学3年のころ、所属していたゼミで将来就きたい仕事について作文をすることになりました。特にやりたいことや目指す職業があったわけではない私は、自分の好きなものを見直すことにしました。そこで浮かび上がったのがEテレでした。ムジカ・ピッコリーノを筆頭に、ビットワールド、ごちそんぐDJ、びじゅチューン!、Eテレ・ジャッジ!、テクネなど好きな番組がたくさんありました。大学で学ぶ中で子どものころにEテレで見聞きしたことが自分の中で下地になっていると感じることが増えたことで、「好き」よりも「おもしろい」と思うようになり、視聴者として楽しむだけでなく作り手の立場にも興味を持ちました。

(ピタゴラスイッチの「ぼくのおとうさん」はゴフマンの演技としての相互行為についての歌なのでは…!?と気づいたとき、めちゃくちゃ感動しました)

そこからEテレを「教育」と「テレビ」に分解して、インターンや業界研究を行い、私は教育業界を志望するようになりました。最終的に、教育サービスを提供する企業から内定をいただくことができました。

これが、ムジカ・ピッコリーノと私の人生です。シーズン3の途中から見始めたおかげで、幸運なことにレギュラー放送は全回を見ることができました(3→1(再)→4→2(再)→5→3(再)…)。ムジカ・バンビーノなどの特別回も一通り見ているはずです。パイロット版は「カルテ」で少しかじった程度なのが悔しいです…!

ムジカ・ピッコリーノと私の中の音楽

徳澤青弦さんからムジカ・ピッコリーノを知った私は浜野謙太さんに出会います。そこで在日ファンクやSAKEROCKを知りました。SAKEROCKが大好きになり、メンバーそれぞれの活動をチェックするようになりました。初めて借りたCDは『はじめての在日ファンク・アワー』で、初めて買ったCDは『SAKEROCKの季節』で、初めて自分のお金で行ったライブはグッドラックヘイワのワンマンツアーの私の地元での公演でした。

上京してから初めて行ったライブは横浜の赤レンガ倉庫で開催された「須藤寿 GATALI ACOUSTIC SET」のライブ。そのときのバンドメンバーは髭の須藤寿さん、ペトロールズの長岡亮介さん、WUJA BIN BINのケイタイモさん、グッドラックヘイワの伊藤大地さんと野村卓史さんで、大好きなプレイヤーが集結していました。山下達郎の「アトムの子」のカバーがめちゃくちゃよかったです…!

18歳でこのライブを選んだ自分、かっこよくて好きです

また、ムジカ・ピッコリーノの原曲プレイリストをYouTubeで作っていたのですが、これもよい学びになりました。以下はその中で出会った好きな動画たちです。

「アイドル」の回を見て、「フローラちゃん歌うま~かっこいい~~」と思っていたのですが、本家のかっこよさは正直段違いでした…。当時19歳らしいです…。

これも同じ感じですね…。今の石川さゆりしか知らなかったので衝撃でした。

当時13歳のマイケルジャクソンが、まず歌が上手すぎるし、なんというか、圧倒的です。

好きすぎて見るたびに泣いちゃう映像です。ジョビン本人の演奏と歌唱で、会場が日比谷野音なのが日本人としてとても誇らしいです。

ムジカ・ピッコリーノで知っためちゃくちゃ美しい曲。インド音楽とサンバの回は好きな回が多いです。「アジアと南米の民族音楽、好きかも…」と気づけたのはムジカ・ピッコリーノのおかげです。読めない名前のアーティストの読めないタイトルの曲を聴くことに抵抗がなくなりました。

ムジカ・ピッコリーノの好きなところ

知らなくても楽しい、知るともっと楽しい

ムジカ・ピッコリーノにはたくさんのこだわりが詰まっています。「子どもには伝わらないだろ!」というポイントもたくさんあります。でもそれはその子が大きくなったらわかることだったり、一緒に見ている親御さんに教えてもらって知ることだったり、ゆくゆく音楽を好きになっていったときに気づくことだと思います。初歩の初歩で言うと、チェリストの名前が「ゴーシュ」だったりするのも、のちのち宮沢賢治を知ったときに「そういうことか!」と気づくと思うのです。

ムジカ・ピッコリーノの世界では「ムジカ文字」という文字が使われています。カタカナをひっくり返したデザインの暗号のようなもので、番組内で映る黒板の文字なども実は解読できるのです。Twitterで「ムジカ文字」で検索すると、ファンの方が解読している投稿がたくさん見つかります。

中でも私が大好きなのは『ムジカ・ピッコリーノ アポロンファイブの挑戦』のCDケースに隠されているムジカ文字です。

好きすぎてLINEのトプ画にしてました

地図の上にムジカ文字で「イシハラ」など、番組スタッフの方々の名前が刻まれているのですが、その中にある文章が。

コノオハナシハ
コドモタチノ
アカルイミライノタメニ

「このお話は子どもたちの明るい未来のために」と書かれているのです…!!子どもが気づくことはまずないと思いますし、大人でも気づくかどうか、というところに素敵なメッセージが込められています。こんなことは知らなくても番組自体は十分楽しめます。それでも、こういうこだわりを知るともっと楽しい、そんなこだわりがたくさんあります。MVの振り付けをオマージュしたり、原曲のアーティストのプレイスタイルの特徴を取り入れたり…。

「知らなくても楽しい、知るともっと楽しい」の魅力は親子の会話が生まれるところにあると思っています。私の実体験としては、メロトロン号編を見ているときに父親に「鈴木慶一じゃん!!」と言われたことがあります。途中の解説コーナーにもさらっと砂原良徳さんや田渕ひさ子さんが出ていたりするので、親子で見ていて親御さんだけが気づいて、それが会話のきっかけになることもあるんじゃないでしょうか。

音楽×医療×スチームパンクの世界観

音楽の力で傷ついた機械生物を治療する、というおおもとの設定が本当に大好きです。ムジカ・ピッコリーノの私の好きなところを端的に表しているのがシーズン7に登場するシゲジーさんのセリフです。

「私たちの地域はディストミストに飲み込まれてしまいましたが、私たちの音楽はモンストロがこれからも伝え続けてくれると思います。」

音楽はいつか忘れられてしまう。災害などでその土地を離れなければならなくなった人たちがいる。それでもムジカドクターがモンストロを治療することでその音楽、ひいてはその時代にその土地で生きた人々の思いが受け継がれていく。そのメッセージの伝え方がとてもおしゃれだなと思うのです。

特にシーズン10では「モンストロはいつか壊れる」という事実に向き合っています。国王の「いつか壊れるものならば治すのは無駄」という恐ろしい考え方のせいでムジカドクターという存在自体が一度消えかけるのですが、いつか壊れるからこそ歌い継ぐこと、分解をしてその音楽について知ること、アレンジを加えて新しい音楽を生み出すこと、それがモンストロが壊れる理由だったことがわかり、国王は考えを改めます。

私は「ムジカ・ピッコリーノ」という番組自体がモンストロのような役割をしていると思います。番組内でいろんな音楽を分解して、歌い継ぐことで次の世代に音楽をつなげています。私の妹はムジカ・ピッコリーノで「神田川」を知ったそうです。そんな風に様々な名曲をムジカ・ピッコリーノで知った人は少なくないと思います。ムジカ・ピッコリーノという番組は終わってしまいましたが、音源を再生することや録画を見返すことで番組自体も、音楽も未来につながっていくと思うのです。

また、番組の世界観が作りこまれているので、視聴者ないし現実世界とのほどよい隔たりがテレビ番組という形態によって上手く作られていたと思います。「私たちの世界のすぐそばにある世界」をテレビの画面を通じて毎週覗いている。その距離感が私にはとても心地よかったです。

おまけとして、船に乗った4人の音楽家が音楽が失われた王国をよみがえらせるために旅をするというストーリーはビートルズの「イエロー・サブマリン」が元ネタという考察があったりなかったりします。

視覚的、感覚的に音楽が学べる

ムジカ・ピッコリーノの解説コーナーはセリフがないものも多く、直接言葉で説明することは稀です。ポリリズムの解説の「カエル・カワウソ・カメレオン」のようにアニメーションを使ったり、実際に演奏してみたり。音楽がなんとなく学べる映像たちです。
民放の某音楽バラエティ番組で二胡とタブラが紹介されていたときに、「これを子どもにもわかる表現で伝えているムジカ・ピッコリーノってすごい!!」と思ったことが印象に残っています。

衣装

衣装を担当しているのは東京事変などのスタイリングを担当する酒井タケルさん。世界観の造形に深くかかわっていると思います。衣装展、開催していただけないでしょうか…。
ほとんどのキャラクターが帽子をかぶっているのは、出演者の髪型が変わってもあまり影響がないようにするためだと思っているのですが、実際はどうなんでしょうか。

楽曲のアレンジ

メロトロン号は好きなアレンジが多い気がします。ゴンドリーとゴーシュの中低音コンビがかっこいいです。シーズン5も5人の音だけで演奏しようという気概が感じられて好きです。

モンストロのデザインと名前

動物モチーフの子とかは特に親しみが持てます。「ラプソディー・イン・ブルー」や「Sing, Sing, Sing」のモンストロちゃんみたいに楽器ががちゃがちゃついている子もかわいいです。私はサンタスーニのファンなのでメタルフィギュアが欲しいです。
サンタスーニも五拍子の曲だから3+2でサンタスーニだったり、ネーミングもおもしろいです。「Pom Pom 蒸気」のモンストロちゃんの名前が「ハリー」なのも好きです。

番組の終わり方

パイロット版の第一話のモンストロちゃんが最終シリーズの最終話で再び登場し、しかも、ただ再登場させるだけでなくシリーズの大事なテーマである「修理」を活かして、「イエローサブマリン」から「イエローサブマリン音頭」に生まれ変わらせるのはシリーズの終わり方としてとても美しいと思います。あとはなんといっても国王の登場ですね。「ムジカムンドって王国なんだよな、ってことは王家がいるってこと?」と考えていたところに最高の答えが提示されて大号泣してしまいました。一度も姿は見たことがないけれど、番組を見ている人なら全員が知っている人物を出してくるのはズルいです……。

主人公としての終わりの話にはなりますが、アリーナちゃんの修了式も大好きです。特に「ハッピー」でドットーレとリヒャルト船長に挟まれるアリーナちゃんの姿はグッときます。ドットーレ、ゴンドリー、ブルーノさんの別々の船のメンバーがホーン隊を組んでいるのも好きです。

今後のムジカ・ピッコリーノ

ムジカ・ピッコリーノは再放送も終了してしまい、現在、見る手段がほとんどありません。もし誰かが今から興味を持ってくれたとしても、家に連れ込んで録画データを見せることしかできないというかなり過酷な状況です。そこで配信された「レジェンダ」は半永久的に公式で見られるコンテンツなのでかなりありがたいです。個人的に、今後こういうことがあったらいいなと思うことを書きます。

・DVDの販売
これはファンの方ならみなさん望んでいることではないでしょうか…!テレビ放送されたものをそのままパイロット版からシーズン10まで、特別回込みで発売してくれたらめちゃくちゃ嬉しいです。DVDが出ていない理由として、おそらく権利関係が大変なんだと思います…。「レジェンダ」でも原曲紹介パートでの音源は差し替えになっていました。
全編は難しくとも、演奏シーンの詰め合わせだけでも見たいです。音源化はできても映像化は難しい、そういうものなのでしょうか…。その点、「レジェンダ」の最終話はありがたかったです。

・展覧会の開催
衣装展だけでも開催してほしいです!!願わくばカルテを読んだりしたいです。演奏室、リビング(?)、操縦室、指令室などの再現もあったら嬉しいです。

・体験型イベント
おぼろげな記憶なのですが、何年か前にEテレの番組が集まった体験型のイベントがあった気がします(びじゅチューンのライブがあったり。そこでフローラとピッピがデザインされた五線譜モチーフのノートが配布されてた気がします)。そんな感じで親子連れで楽しめるようなイベントを開催してほしいな~と思っています。ムジカ・バンビーノの回がかなりイメージに近いです。楽器を手作りして、それで演奏してみたり。ムジカドクターたちのコンサートがあったり。私はいわゆる大きなお友達ですが、あくまで主役は子どもたちであってほしいと思っています。

・グッズ販売
モンストロちゃんのメタルフィギュア、シーズン6から登場したデフォルメキャラのグッズ(ラバーストラップとかめちゃくちゃほしいです)、ムジカアカデミーの校章のバッヂ、ミラージュボール、シエリノート、診察機など…。ムジカ・ピッコリーノが大好きなのに、受信料とCD代しかお支払いできていないのが申し訳ないので!!もっとムジカ・ピッコリーノにお金を払いたいです。

・再放送
定期的な再放送は難しいとは思いますが、Eテレタイムマシンだったり、深夜枠だったりで一挙再放送とかやってほしいです。ムジカ・ピッコリーノは絶対に刺さる人がいるのに、そこまでリーチできてない感じがもどかしいので…。

おわりに

まずはここまでの長文駄文を読んでくださった方、ありがとうございます。ムジカ・ピッコリーノが大好きなのに、それをぶつける場がなく、今回このような形で発表してみました(レギュラー放送されていたころは毎シーズン終了後にNHKに長文メールを送り付けていました)。ムジカ・ピッコリーノが好きな人、インターネット上でしか見たことがないです!!お話してみたい!!!!ムジカ・ピッコリーノオフ会とかがあったら誘ってください!!!!!!

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