見出し画像

ゆっくり、いそげ

世界は贈与でできている」の中で紹介されていた、贈与と経済を両立する事業モデルとして登場したクルミド・コーヒー。その思想に触れたいと思ってソフトカバーを購入した。

一つの素敵なスモールビジネスの話、ではなくて、本書のメッセージは資本主義経済のスキマに光を当てる理論と実践のリアルストーリー。
そもそも経済とは、「世を治め、民を救う」ことに語源を持つ。現在当たり前の「お金を介してモノ/サービスを交換する活動」という経済観念に加えて、交換原理で説明できない贈与もその範疇であったという。そして現代の資本効率を追求する経済”システム”が、人間の心情とは関係なく大規模化・汎用化を求め続け、人間同士の交流も排除していき、そこに誰もが虚しさを抱える矛盾を指摘する。

しかし不特定多数を相手にするドライな経済システムの中にあって、人同士の身体的な交流の場をともない、消費ではなく応援・被贈与・負債感の交換によって、特定多数のファンを獲得し持続を可能にする経済モデルが成立しうることを、このコーヒー店は証明して見せている。

先に顧客にGiveをすること、そして対価より大きな贈与を受け取った顧客は、お返しのため店やコミュニティの繁栄に協力するインセンティブを得る。その返礼が贈与のパスを生み、特定多数のコミュニティ内を循環していく。応援を通じて自らの才能をまわりが発見し、ついには自分の新しい才能に目覚めていった事例も、偶然ではなく贈与の循環システムによって発生する美しい必然に思えてくる。

現在の古典や名作と言われる作品の影には、造り手だけではなく作品を応援し、伝え広めた場があり、ゆっくりと、でも懸命に時代を繋ぐコミュニティがあったからという示唆は、非常に説得力がある。そうした場を現代に再評価するのは、「あったらいいな」の域を超えて、現代の大人の責務ではないかとすら思えてくる。

将来には、こうしたコミュニティによって、他人と共に自由に生きる幸福な社会がつくられ、GDPすらも押上げていくという筆者のビジョンに吸い込まれそうになった。

さて、自分には何ができるか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?